農協が頑張れば日本農業はもっとよくなる 大塚化学(株) 専務取締役・農学博士 梅津 憲治 氏 インタビュアー:坂田 正通 (農政ジャーナリストの会会員)
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◆ 自然は安全、農薬は危険というテーゼは間違い 坂田 入社前はカリフォルニア大学昆虫学部で研究者生活をされていたとか。
梅津
米国には7年間いて、入社したのは33歳でした。ただ、その後もしばらく研究を続けましたから帰国して実質的に仕事を始めたのは37歳のときですね。 坂田 一般的には、自然は安全、農薬は危険と思われていて梅津専務は、それは間違いで正しい知識が必要だと主張されてこられました。
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天然物には意外と毒性物質や発ガン性物質が含まれる
梅津
世の中には、農薬に対してかなり誤解と偏見がありますね。私は何も農薬が安全で、天然物は危険だと言うつもりはありません。ただ、科学的な事実に基づいて検証すれば、現在登録されている農薬は、使用基準にしたがって使われるかぎり、安全上問題はなく、人の健康にも悪影響を及ぼさないということが明らかにされているわけです。 坂田 農薬は科学の塊、つまり、数多くの分野の成果で開発されているとも指摘されていますね。
梅津
農薬は20種類ぐらいの総合した学問の総結集の結果で生まれているわけですね。ですから専門的知識のない人がメディアでコメントすると非常に誤解を生むもとになると思うんです。農薬は軽々しく扱うものではなくて、もう少し技術的な背景が分かる方が有用性なり危険性なりをディスカッションすべきです。 ◆ 農薬使用基準を保証しながら減量を推奨するのは農政の矛盾 坂田 この4月から改正JAS法が施行され、そのなかで有機農産物の検査と認証、それに基づく表示が制度化されました。これについてはどうお考えですか。
梅津
その前に有機農産物とは何かということを考えてみたいと思いますね。先ほどから申し上げていますように農薬は使用方法を守って使えば安全だし、1日の摂取許容量(ADI)を決めていてその範囲であれば、何の問題もないですよと国が科学者を動員して決めているわけです。 ◆ 営農指導にもっと注力すれば日本農業はよくなる 坂田 全農は4月に新たに21経済連と統合して27都府県本部体制となりました。新しい全農に期待することがあればお聞かせ下さい。 梅津 日本農業の将来を考えると、農協、そして全農という農協系統組織にがんばっていただかないとどうにもならないと思います。基本的にその担う役割は大きいと思っていますが、系統組織に限らず私たち製造メーカーも流通関係者も考えなければならないのは、農家の方々に貢献できる、メリットのある製品、サービスを提供することだと思います。その点から言うと、系統組織に望みたいのは営農指導にもっと力をいれていただきたいということです。そうすれば日本農業はもっとよくなってくると期待しています。 坂田 大塚化学としての今後の方向はどうお考えですか。 梅津 農薬や肥料という分野にとどまらず広くアグリサイエンスという観点で事業を展開しようと考えています。たとえば、そのひとつが養液土耕栽培です。これは、土をベースにした養液栽培です。ハウスの中の畝ですね、そこにたい肥や土壌改良剤を入れて作物を植え根本に点滴チューブを這わせるというものです。肥培管理は、コンピュータ制御で行って自動的に施肥や灌水ができます。私たちは10年前から普及試験をしてきましたが、今は全国的に広がっていて、茨城経済連もこの養液土耕栽培を採用してくれています。 ◆ 従来の養液栽培の10分の1の投資額ですむ 坂田 生産者にとってのメリットは? 梅津 苗を植えれば後は、コンピュータ制御ですから労力がかかりませんが、通常の養液栽培を導入しようとすると、かなりの投資額になるんですね。しかし、このシステムは土を利用しますから、ガラスハウスやビニールハウスがあれば、10アールあたり100万円ほどで済みますから、これまでの養液栽培の投資額にくらべて5分の1から10分の1ぐらいです。それでも品質も収量もいい作物が栽培できるのが特徴です。 坂田 何か趣味はお持ちですか。 梅津 家庭菜園、というといかにも、の感じですが、裏庭に野菜と果樹を植えています。そこに、家庭園芸用養液土耕栽培システムを導入しようとしまして(笑)、これは小型のシステムです。趣味なのか実験をやっているのか分かりませんね(笑)。10種類ほどの野菜や梅、柿、みかん、いちじくなどを植えていますが、やはり管理が大変です。 坂田 最後に信条がありましたら。 梅津 天命を信じて人事を尽くす、ですかね。人事を尽くして天命を待つではなくて。これは私の信条というよりも心境ですね。積極的に絶対にうまくいくんだということを信じて頑張るということです。 坂田 ありがとうございました。
(インタビューを終えて)
梅津専務は33才で入社。第1次石油ショックの頃オーバードクターで、就職難の時代だった。カリフォルニア大学リバーサイド校でフクト教授について、毒性薬理学を学ぶ。その延長線上に殺虫剤「オンコル」の開発研究がある。 |