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この人と語る21世紀のアグリビジネス

食品会社として品質管理を徹底し、シェアを拡大

土肥忠行 全農パールライス東日本(株)社長
土肥忠行氏
 昨年4月に7つの系統卸が合併し全農パールライス東日本(株)が誕生した。コメの消費が伸び悩み、価格の低迷も続き、コメ流通業界は厳しい状況にあるが、首都圏を中心にどのような事業展開をしていくのかを、土肥忠行社長に聞いた。

聞き手:坂田正通(農政ジャーナリストの会会員)

◆生産者の負託に応え、消費者に安心・安全なコメを提供
 
 ――昨年4月に、東京パールライスと6経済連のコメ卸部門が合併して発足したわけですが、その目指すものはどういうことでしょうか。

 土肥 合併して最初に私が言ったことは、いままでは個々の卸としてやってきましたが「社名に全農とついたことで、従来と違う重みがある」ということです。全農グループのモットーは「安心・安全・美味」ですから、それに応えていかなければいけないし、系統卸ですから生産者・農協の負託に応えなければいけない、そういう重みのある会社であるという認識をもっていかなければいけないということです。そして、いまの時代は、生産者だけではなく消費者からも信頼を得る会社でなくてはいけないわけです。したがって安心・安全なコメを供給して、評価される会社でなくてはいけないと考えています。

 ――会社の規模と構成はどうなっているんでしょうか。

 土肥 社員が315名、販売数量が27万トン、売上が860億円程度ですね。構成は支店が7カ所、精米工場が11、炊飯センターが1カ所でスタートしました。昨年11月には神奈川の精米工場を新工場に切り替え、15年には千葉にある2つの工場を集約し、新工場が出来る予定です。

◆取引先の多様なニーズに応えられる体制を

土肥忠行氏
(どい ただゆき)昭和18年秋田県生まれ。日本大学法学部卒業。41年全国農業協同組合連合会入会、63年本所米麦部麦類課長、平成3年本所自主流通部主食課長、6年大阪支所次長、8年福岡支所長、12年(株)東京パールライス代表取締役社長、13年2月全農パールライス東日本(株)(社名変更)代表取締役社長、現在に至る。

 ――工場の規模は、他にはない大規模なものだと思いますが、今後、工場の展開についてはどうお考えですか。

 土肥 首都圏の東京・神奈川・千葉・埼玉の人口は3300万人ですが、この人たちが1人50kg食べると165万トンになります。その内、わが社が扱っているのは20万トン・12%ですから、まだまだ低いわけです。首都圏には、関西からも名古屋からも、全国から卸が進出して来ていますが、体制を整えればまだ伸びる余地があると思います。
 現在、首都圏に6工場がありますが、事業を拡大しながら現状の工場体制でいいのかどうかを検討していかなければいけないと思っています。

 ――検討するときのポイントはなんですか。

 土肥 1つは工場を集約していく方法がありますね。それから無洗米が伸びていますから、これに特化した工場もいずれは検討する必要があると思います。そして、現在の工場は大型精米工場ですが、最近は胚芽精米とか発芽玄米など、小ロットで対応しなければいけないものが増えてきていますから、これに対応した工場をどう組込むかということも考えなければいけなくなると思いますね。

 ――小ロット多用途生産になっていくわけですか。

 土肥 広域会社になりましたから、取引先の要望に応じて何百グラムという世界から業務用の30kg袋など多種多様なニーズに応えられる用意をしていかなければいけないということですね。

◆まだまだ伸びる無洗米の需要

 ――無洗米が非常に伸びてきているようですね。

土肥忠行氏

 土肥 平成11年11月に調布工場に3トンタイプで月産500トンのBG無洗米設備(東洋精米機)を導入しました。生協中心にどんどん伸び、生協によっては80%が無洗米というところもあります。あっという間に500トンの倍1000トンという需要になり、工場は2交替制で対応していますが限界にきていますね。埼玉にも同じタイプがありますが、現在は1000トンをはるかに超えていますので、早い段階に増設することを検討しています。
 最近は、生協だけではなく、量販店や業務用でも取扱いをはじめ、需要がさらに伸びていますから、昨年3月には八王子工場に、(株)サタケのNTWP(ネオ ティスティホワイト プロセス)を導入しました。神奈川の新工場もNTWPを入れましたが、1社でBGもNTWPも導入しているところは弊社しかありません。

 ――両方を導入したのはなぜですか。

 土肥 需要が伸びれば、多様なニーズが出てきます。広域卸会社としては、取引先のいろいろな要望に応じられるように、いろいろなものを用意したわけです。
 この2つのほかに、弊社の新潟工場では、内山さんという技術者が独自の無洗米技術を開発し特許申請していますので、新潟はこの方式でいくことになると思います。

 ――無洗米はまだまだ伸びますか。

 土肥 利便性・簡便性と環境に優しいということで、首都圏の生協を中心に伸びてきて、量販店や業務用にも広がってきたわけですが、今度、全農パールライス西日本(株)がコープこうべと無洗米の取扱いをはじめますので、いままで進度が遅かった関西市場でも伸びていくと思います。産地の系統卸でも導入したり導入を予定している県がありますから、全国的に底上げされ、無洗米のウェイトは相当に高まると思いますね。

 ――業務用でも伸びてきているわけですね。

 土肥 業務用は洗米機がいらない、水が節約できる、人件費を抑えられるわけですから、増えていますね。

◆トレーサビリティの確立、品質管理の徹底

 ――食の安全とか表示についての問題がいろいろ起きていますが、その点についてはどうお考えになっていますか。

土肥忠行氏

 土肥 BSE問題が発生する前の昨年夏頃から、「消費者の食の安全についての関心がどんどん高まっているので、食品会社としてキチンとこの要望に応えなければいけない」と社内で徹底しています。トレーサビリティ(追跡性)の確立をはじめ食の安全性についての認識を深めて、安心・安全だと消費者に思ってもらえるようにどういう展開をするかが、コメの卸会社のこれからの課題だと考えています。
 そのために産地から講師を招いて、産地の実態をしっかり把握して商品づくりをするとか、工場の品質管理マニュアルを見直して対処するとかも実行しています。
 品質管理体制を整えて、原料から製品までキチンと管理するためには人を増やさなければいけません。それから現行の機械がそれに耐えうるかどうかというと、製品タンクの数が少ないとかという問題もでてきます。これを一気に変えるには相当の経済的負担がかかります。
 しかし、消費者の食の安全性への意識は進んでいますから、それに応えていくために、14年度からの「3カ年計画」で施設や機械の改善に取組むことにしています。
 コメは日本人の主食ですから、ここで問題を起こせば消費者の不信はもっと大きくなります。そのためにも、弊社では品質管理には万全な配慮を図っています。

◆消費者直結型事業で、東日本のシェアアップをめざす

 ――最後に今後の抱負をお聞かせください。

 土肥 系統卸のシェアは一時30%程度ありましたが、いまは24%弱まで落ちています。弊社の役割は、組織の負託に応えることと、消費者にいかにいいものを届けるかということですから、弊社が東日本でのシェア拡大ができれば系統全体のウェイトが高まり、全農はじめ系統全体の政策や流通がやりやすくなると思いますから、そこを目指していきたいと考えています。
 先ほども触れましたが、首都圏は3300万人という市場ですから、ここで精米を中心とした消費者直結型で事業拡大をはかることだと考えています。その正念場が14年度です。14年度で基盤をつくり、16年度までに30万トンにしたいと思っています。

 ――明るく、力強いお話をありがとうございました。


インタビューを終えて
 端正な顔立ちは古武士を想わせる。土肥社長は元秋田県経済連会長・全購連専務の土肥大四郎氏の長男。年齢と共に威厳のあった父親に風貌が似て来た。
 普段はどちらかといえば無口の方だが、このインタビューではよく話をしてくれた。系統卸の会社であることの重みを感じ、生産者の負託に応えなければならない。
 一方、食の安心・安全への消費者の認識の高まりは最近特に強く感じているという。14年度が正念場、全農パールライス東日本(株)がシェアを伸ばせば、系統の米取り扱いも伸びる。大手量販店から新たにパールライスを取り扱いたいとの問い合わせも増えている。16年度には取扱量を30万トンに乗せたいと意欲的。
 健康維持のため、月1回のゴルフコンペに参加。親しい仲間と時折麻雀にも興じる。故郷を大事にしなければならないと年老いた母を想う優しさが滲む。(坂田)


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