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この人と語る21世紀のアグリビジネス
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「自然はおいしい」をベースに激動の時代に挑戦
小原実 全国農協直販(株)社長 |
聞き手:坂田正通(農政ジャーナリストの会会員) |
◆生乳は米に次ぐ生産量をもつ農畜産物
小原 具体的な話はまだですが、生乳処理量が業界最大の雪印に出荷している酪農家を守り、消費者に迷惑をかけないために供給体制の再構築を急ぐ必要があります。例えば牛乳を欠かせない乳児もいるわけですから供給に支障があってはいけません。 ――牛乳の生産と消費の状況はどうなっていますか。 小原 昨年の生乳生産量は約830万トンで主食の米に次ぎます。消費量は輸入の乳製品を加えると米を上回ります。日本では生産量の6割が飲用ですが、しかし、それでも米国人などが飲む量の半分以下で、またチーズやバターなどの加工品を食べる量もぐんと少ない状況です。とにかく欧米に比べ生産量も消費量もケタ違いに少ないのです。 ――輸入は増えませんか。 小原 原乳は日が経つと細菌が増えますからね。衛生的にも品質的にも非常にデリケートな商品ですから、品質保持、鮮度維持の点で牛乳輸入は困難です。一方、国産牛乳にしても生産コストが高くて、利幅が少ない。だから雪印は市乳事業からの撤退を考えたわけです。 ◆需給調整とセットでないと売れない商品 ――消費拡大策は? 小原 業界としてPRしていますが、高校卒業の年代になると太るとかいって飲まなくなる現象もあるんですよ。太ったりはしないのにね。牛乳は食物繊維を加えれば完全な栄養食品です。日本人はカルシウム不足ですから、特に年配者には大いに飲んでほしいと思います。 ――暑いと、のどが乾くから夏は牛乳消費が増えますね。 小原 清涼飲料水と一緒です。しかし暑いと牛が出す乳の量は減りますから生産と消費が反比例します。だから生乳は需給調整とセットでないと売れない商品です。生乳・乳製品の全国需給調整は全農の大きな仕事です。 ――加工乳が主流だった1972年に全農直販は成分無調整の『農協牛乳』を発売し、他社も、その後を追いました。さてポスト『農協牛乳』の方向についてはどうお考えですか。 小原 酪農の先進国である米国の場合、当初は無調整や生乳から脂肪を抜いたロー・ファット・ミルクが主流でしたが、今はビタミンなどの栄養剤を添加した機能性牛乳がほとんどで、無調整は減りました。そして、また無調整に回帰するといわれています。日本もそうした経過をたどるのではないかと見ています。 ――以前は脱脂粉乳などを水で溶いた還元乳でも『牛乳』と表示できました。『コーヒー牛乳』などがそうです。今は生乳を使ったものだけを『牛乳』と呼びます。この規制強化は販売に影響していますか。 小原 夏の需給ひっ迫期は無調整の注文に応じ切れないので、端境期対策として各社とも加工乳と乳飲料を供給しましたが、あくまでメインではなく、サブの商品ですが、生乳使用ですから美味しくなり、消費者、生産者共に良いことなので販売にインパクトを与えると思います。 ◆「健康・栄養」ニーズに応える商品がヒット ――『自然はおいしい』が全農直販の理念ですが、最近の商品開発状況はいかがですか。 小原 ハードタイプの『北海道ヨーグルト』が大ヒットです。ヨーグルトは花粉症に効くとテレビで宣伝されたこともありましてね。でも、たまに食べるだけではだめですよ(笑い)。これはデフレ型経済の下で子供たちに少しでも栄養価の高いものを食べさせたいと、やりくりしている母親の苦心に応えた家計対応型のシンプルな新商品です。 ◆4工場ベースに装置産業として実を挙げる ――では前年度決算見通しや新年度計画をお聞かせ下さい。 小原 全農直販は社名通り販売を基調とした会社ですが、昨年は最新鋭の関西工場を京都府下に建設し、大きな投資で基幹工場を従来の関東(千葉県富里町)とともに2つとしました。関東にはほかに2工場あるので合計4工場となります。今年は会社創立30周年です。これを節目に4工場をベースとして装置産業として生まれ変わり、その実を挙げていく決意です。新年度は経常利益の黒字を目ざします。なお当社は委託工場も全国に28あります。 ――社長は就任1年目ですが、社の運営方針はどうですか。 小原 本社の諸会議で決まったことが、その日のうちに現場へ一気に伝わるようにしたい。でないと本社での会議時間が無駄になります。それからピラミッド型でなく現場中心のフラットな組織にしたいと考えており、私も現場との対話を心がけています。やはり月並みだけど報告・連絡・相談のホーレンソーですね。とくに関西工場は3社の集約ですから、人間関係が大事です。 ――関西工場の建設経過や今後の方針をお聞かせ下さい。 小原 協同乳業大阪工場など3施設を集約したのです。国の乳業再編等対策事業は平成元年に900以上あった乳製品と牛乳処理の工場を300混くに集約したい考えです。少量の処理ではコストが下がらず、国際化に対応できないからで、今は飲用向け・加工向けの両方の工場の合計で760ほどに集約されています。それから関西工場は環境に関する国際基準に準拠したISO14000の取得を目ざしています。 ――最後に個人的な話題ですが、社長は全農の職員時代に米国で種牛の買い付けによく回られたそうですね。 小原 えぇ、乳牛の遺伝的品種改良のための買い付け、輸入です。アメリカ、カナダの隅々まで回りました。若いころでハードワークでしたから、長ったらしい牛の品種の血統なども、いまだによく覚えています。自慢話のようで嫌ですが、中にはブラウンデール・サー・クリストファー号という種牡牛は過去に類例のない超一流の子孫をたくさん残した種牛だったんですよ。何年か後に、遺伝的能力が高いことがわかって、元の生産者からこの種牡牛を何億円積んでも買いもどしたいと言ってきたのには、困りましたよ。 ――ご趣味はいかがですか。 小原 古木鑑賞や農園づくり、日本犬保存といったところです。 インタビューを終えて |