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この人と語る21世紀のアグリビジネス

精米販売に本腰
無洗米販売も好調に推移

全農パールライス西日本(株)
渡辺徳義 代表取締役社長
 悪戦苦闘する米卸各社の中で、昨春スタートしたばかりの全農パールライス西日本(株)は初年度の販売計画数量をほぼ達成。無洗米販売も順調だ。しかし目標未達の課題も多い。今後は精米の販売拡大に本腰を入れるという。渡辺社長は正攻法型で押していくタイプのようだ。販売数量の拡大を基本に据えており、今後が期待される。一方、「タイガース必勝祈願米」の話題も飛び出した。

聞き手:坂田正通(農政ジャーナリストの会会員)
渡辺徳義氏  

◆「西日本」全体をエリアの目標に

 ――新会社設立から1年余。初年度の実績はどうですか。

渡辺徳義氏
(わたなべ のりよし)昭和15年熊本県生まれ。宮崎大学卒、昭和38年全国販売農協連人会、平成4年全農本所米麦部長、本所米穀総合対策部長、本所役員室長、平成9年農業倉庫受寄物損害補償基金常任理事、平成11年近畿酒造精米株式会社代表取締役社長、平成13年全農パールライス西日本株式会社代表取締役社長。

 渡辺 実質的には1昨年4月に営業を開始したわけですが、この3月期決算では、販売計画数量13万5000トンをほぼ達成しました。しかし、売上高は415億円の計画に対して392億円で、残念ながら未達です。要因にはご承知の通り米価の低落。それに玄米に比べた精米販売の伸び悩みなどがあります。
 
 ――玄米を買うのは主に米小売専門店でしょうね。
 
 渡辺 もちろんそれもありますが、そのほかに卸間売買やJA小売への販売などいろいろです。過去から関西地区は関東に比べ玄米販売比率が高かったのですが、これからはコンビニ、スーパー等の量販店が増え、精米比率は上がっていくと思います。
 
 ――玄米販売は、マージンが少ないのでしょう?
 
 渡辺 もちろん精米等の付加価値が付かないわけですから、マージンも少ないわけです。
 
 ――新会社として改めて設立経過を、お聞かせください。
 
 渡辺 大阪府経済連と全農の出資会社である大阪農協食糧(株)と、兵庫県経済連の米卸部門が一緒になり、新たに全農も増資して昨年2月に設立されました。
 
 ――シェアはどうですか。
 
 渡辺 流通が広域化され、複雑化されているなかで、シェアをはじき出すのはなかなか難しいのですが、あえて推計消費量から計算すれば、大阪では約12%、兵庫で24〜25%程度ではないでしょうか。
 
 ――「西日本」全体をエリアとしないのですか。

 
 渡辺 それが目標です。量販店などの広域展開に対応して、県域ごとのJAグループ卸を広域的に統合していくために、その中心的役割を担う会社としてスタートしたわけですから・・・・。
 
 ――量販店向けの販売数量は伸びていますか。
 
 渡辺 残念ながら少ないのです。前身の時代から生協さん、JA小売向けの比重が高くスーパー・コンビニ等、量販店向けの販売は少なかったわけです。今後、事業を拡大していくためには、ここに力を注いでいくことが重要なわけです。
 
 ――業界では無洗米が伸びていますが、いかがですか。

渡辺徳義氏

 渡辺 わが社も順調です。特に今年の4月からコープこうべさんが本格的に無洗米の販売に乗り出されました。そのために新たにコープライスセンター(コープこうべと兵庫県本部の共同出資会社)に無洗米を設置させてもらいました。
当初の月間目標は300トン程度でしたが、4、5月といずれもそれを上回っています。当社全体の販売量は月約800〜1000トン程度です。
 
 ――家庭で洗い水を流さないから、環境に良いといいますが。
 
 渡辺 それもそうですが、一度使うと大変便利だから。やはり簡便性が受けているようです。水の使用量も減りますしね。今後は業務用需要も増えるでしょう。
 
 ――ぬかのついた普通の米と、ぬかを除いた無洗米の値段は実質は同じだとの説もあります。
 
 渡辺 加工コストを見れば、5%高くらいはほしいのですが・・・・。
 
 ――ところで、新聞によると「外国産米は販売不振」だそうですが、どういう状況ですか。
 
 渡辺 一時は、もてはやす向きもありましたが、今は需要も下火です。どこの店頭でも外国産と表示した米は見当たりません。一連の偽装問題から、JAS法改正もあり、消費者の目もきわめて厳しくなっています。今後は原産地をきちんと表示しないと売れません。
また国産米に比べて外国産の安全基準は明確でないし、さらに国産米が値下がりしているから、関税のかかった輸入米との価格差が縮まって魅力がない。こんなことから業務用の需要でも減っているのではないでしょうか。
 
 ――しかし、油断はできません。
 
 渡辺 そうです。特に最近は外国産米の品質は良くなっています。私も中国の現場をつぶさに見てきましたが、生産から乾燥・調整、精米技術など長足の進歩です。この背景には、日本人が米づくりから精米技術まで指導していることもあります。
それに何といっても生産コストが安いわけですから、将来は脅威ですね。
 
 ――日本の農家は米の値下がりで大変ですが、大規模化は進んでいると思いますか。
 
 渡辺 進んでいないと思います。大規模経営ほど価格競争の影響を受けています。また、生産調整を主体的に背負わざるを得ないなどの事情もあるでしょう。

◆米政策の弾力化は米卸業界を系列化に

 ――米卸業界も競争が激しく、各社とも経営は苦しいと思います。今、何社あるのですか。

渡辺徳義氏

 渡辺 最新のデータでは、全国の卸業者数は391です。全体としては横ばいと思いますが、最近は卸業者の統廃合も急速に進んでいます。大阪では最近、老舗の2社が廃業しました。今後、米政策の改革で流通がさらに弾力化されると、こうした傾向は一層加速されるでしょう。
 とにかく米消費が減り、計画外流通米が増えて、計画内流通のパイが小さくなっている中ですからね。先を読むのは難しいけれど、これからは資金力なり販売力の勝負だと思います。
 
 ――商品力はどうですか。
 

 渡辺 特定産地銘柄に加えて減農薬や減化学肥料栽培米など差別化商品が増えています。流通が細分化されてきて、わが社も大阪・兵庫工場を合わせて500アイテムを超えています。流通単位にしても10キロ袋から5、3、1キロ、それに1.4キロ袋まであるんですよ。
 
 ――そうした処理はIT(情報技術)ですか。
 
 渡辺 そうです。袋詰めなどもすべて自動化しています。
 
 ――最後に、今後の課題や計画などをお聞かせ下さい。

渡辺徳義氏

 渡辺 基本的には米販売数量の拡大です。とりわけ精米の販売を拡大していくことが重要だと思います。そのためにも量販店向けの拡大に力を入れていく必要があります。
 次に、消費者を含めた取引先からの信頼の確保です。一連の偽装表示問題などから、消費者の食に対する不安と不信はかつてないほど高まっていますから、信頼回復が急務となっています。そのために、全農安心システム米の取組みや、トレーサビリティの取組みの強化、品質管理の強化によって信頼を確立していきたいと考えています。安全性、信頼性が強く求められているなかで、これをきちんと確立していくことこそパールライス会社にふさわしい仕事だと考えています。
 こうした方針を盛り込んだ今年度からの中期3か年計画を今春策定し、現在、プロジェクトチームを組んで、その実行策の検討を進めているところです。
 それから、米卸だけでは経営が苦しいため、よその社は新規事業に乗り出しています。そうしたなかでわが社も新規事業を考えざるを得ません。今後、何ができるかを真剣に検討していきます。
 
 ――余談ですが、ご趣味は何ですか。気楽な話題があれば紹介して下さい。
 
 渡辺 ありますよ。阪神の話題が。今年から星野監督に変わって開幕から絶好調。関西はこの阪神タイガースで大いに盛り上がっています。旧兵庫県経済連卸が平成6年から「タイガース必勝祈願米」というのを出していたのですが、最下位続きでさっぱりでした。ところが今年は一転、絶好調です。品種は従来兵庫県産のコシヒカリでしたが、今年からは星野監督にちなんで北海道産の「ほしのゆめ」に変えました。これには北海道の地元新聞や関西のテレビが喜んで大々的に取り上げてくれました。また300グラム入りの宣伝品を大阪ドームで配ったところ1万袋があっという間にはけました。
 それから趣味は、もともと農家の生まれなので、家庭菜園などの土いじりです。今は土地がないのでやっていませんが・・・・。

◇全農パールライス西日本株式会社(大阪市北区西天満1 大阪JAビル)=事業▽米穀と、その加工品の売買▽とう精と加工▽雑穀の売買▽その他。資本金7億3000万円。売上高392億円。経常利益900万円(平成14年3月期決算)。従業員94人。精米工場2。



 インタビューを終えて

 サッカーのワールドカップ日本対チュニジア戦、これに勝てば日本は決勝リーグに進出という時間帯に対談が重なった。街もビルもサッカー一色、気が散りますか? の問いに、いや仕事のほうが大切です。渡辺さんは誠実さと信頼性を地で行く。コメ開放の難しい時期に全農の米穀総合対策部長。政府筋の信頼も厚かった。マスコミの取材攻勢に少しも逃げず、誠実に対応していた姿が印象に残る。関連会社の社長として、このインタビューでも話のつぼは心得たもの。そのまま記事にできる。
 趣味は土いじり、家庭菜園。だが、子供達も巣立ったので千葉の持ち家を処分し、勤務地に近い神戸のマンションで奥様と2人暮らし。熊本県の実家は長男が家業を相続。三男坊の渡辺さんは故郷に帰ることはない、首都圏に戻って来たいという。プロ野球は、元来は巨人ファン。しかし、今年は阪神を一生懸命応援するとか。全農パールライス西日本の「タイガース必勝祈願米」の販売好調は趣味と実益がマッチしたもの。(坂田)


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