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この人と語る21世紀のアグリビジネス

日本農業の生き残りと一蓮托生で
新製品続々投入へ 効率経営を追求

エドワードJ・ブラウンJr. 
BASFアグロ(株)社長
エドワードJ・ブラウンJr.氏

 「日本人には、お互いに尊敬し合って付き合える人が多い」という。また「暖かくて優しくて日本赴任は妻もハッピー」とする。米国・コーネル大学で農業経済学と農業ビジネスを修めた理学士だ。ポールスミス大学でも林学などを修めた。歴史の浅い米国と比べて「日本文化は奥深い」と語る感受性や好奇心の旺盛な知性派だ。一方で競争力に欠けた農薬会社の「市場をいただく」と米国人らしい。新製品をどんどん出すという同社の動向が注目される。


 聞き手:坂田正通(農政ジャーナリストの会会員)
 

エドワードJ・ブラウンJr.氏
エドワードJ・ブラウンJr.氏 米国ニューヨーク州北部の酪農・野菜農家に生まれ育つ。1977年コーネル大学卒。ずっと農業関係に携わってきた。77年モンサント社、85年サンド・クロップ・プロテクション社、92年アメリカン・ホームプロダクツ社サイアナミッド部門、99年日本サイアナミッド(株)社長、2000年7月BASFアグロ(株)代表取締役社長。

 ―BASF社はドイツ生まれの巨大化学メーカーで、農薬事業部門の統括本部を米国に置くグローバル企業ですが、従業員(約9万人)を大切にしている会社という印象があります。その点いかがですか。
 
 「従業員は会社の資産であり、成功の鍵であると考えております。良い製品を持っていても、それを販売する優れた社員がいなくては意味がありません。そのため各個人が必要とするスキルを身につけるトレーニングの機会を設けたりしています」
 「様々な国の人々が協力し合っているため昨年はfit for the future(フィット・フォー・ザ・フューチャー)というスローガンのもとで組織を再編成し、権限の委譲を行って、より顧客の近くで迅速に意思決定ができるようになりました」

 ―製品管理はどうですか。

 「各国の規準と比べBASFのほうが厳しい場合が多いのです。コストがかさむとしても自社の厳しい規準を採用するというポリシーを実施しています。また日本に入ってくる製品は日本でテストしています」

 ―取扱品目は水稲用や園芸用の除草剤、殺菌剤、殺虫剤をはじめ50種類以上ありますが、直販分の売上高は商系と全農でどれくらいの比率ですか。

 「5対1です。商系の卸問屋への直販分を50億円とすれば全農分は10億円です。このほかに製剤会社を通じた販売があり、そこからも全農チェーンに流れます。以上は農業用ですが、ほかに環境・衛生関係やゴルフ場用などの製品があります」

 ―サイアナミッド社を吸収合併し、新会社としての初年度にあたる01年(12月期決算)の売上高は138億円で前年比8%の伸びでしたが、今年の実績見通しはいかがですか。

 「今年は146、7億円にするつもりです。来年はさらに12%から15%の伸びを考え、05年には01年の50%増、210億円を考えたい。これは何も合併・買収など特別の仕掛けをするといったことでなく、既存の製品と、新製品の投入計画の中でねらえる数字です。右肩上がりの絵が描けるのです」

 ―昨年は水稲用殺菌剤『アチーブ』などの新剤が実績の伸びに寄与したとのことですが、今後の投入計画はどうですか。

 「今年5月に芝用除草剤を出しましたが、来年は水稲除草剤『ネビロスラジカルジャンボ』を投入する計画です。これは傾斜地など条件の悪い田でも粒子の拡散性が非常に良く、効果の安定性と定着性を促します。この製剤技術は私たちの田原研究所(愛知)で開発しました。特許も取っています。私たちには良い製品があり、それをさらに改良し、農家に価値あるもの提供するために絶えず研究開発を続けています」

 ―除草剤の開発で農家は重労働から解放されました。

 「仕事も楽になったけれど、生産性向上のメリットも出たのではないでしょうか」

 ―しかし残留農薬問題などで農薬に対する一般の消費者のイメージはよくありません。

 「教育が重要じゃないかと思います。私も子供の学校の先生から『農薬って安全なの?』と質問された時には、農薬会社がどれだけ安全性のデータ収集のための研究、実験に投資しているかを説明したりします。教育の中で消費者に安全性を理解してもらうような環境づくりが必要かも知れません」

 ―日本は米価が低迷し、野菜の輸入も増え、農薬需要が減っています。BASFもアジア全体では販売量を伸ばしていますが、日本は事情が別です。グローバル戦略はいかがですか。

エドワードJ・ブラウンJr.氏

 「アジア・パシフィックは非常に重要な地域で中でも日本には特に焦点を当てていますが、日本市場の規模はここ数年をならせば毎年2%ずつ縮小しています。そこで私たちは必要な営業マンの人数をある程度確保し、また使える流通を活用するという作戦上の効率化を常に考えています。私たちは今後、新製品をどんどん出していきますが、そこが多分、他のメーカーと違うところだと思います」
 「水稲用では大型イモチ剤があり、それの混合剤をつくることや、果樹・園芸用殺菌剤なども04年以降に出すものがあって、他社とはかなり差別化されて、販売力が強化されていくと認識しています。また安全性も訴えていきます」
 「私たちは製品でも人材でも競争力を持っているので、業界の再編・統合が逆に生き残りのためのビジネスチャンスだと思っています。物も人も強化できない会社が衰退していく中で、私たちはその市場をつかんでいきます。最終的には農家にサービスして生き残ってもらうことが私たちの生き残る道だと考えます。両者にメリットが出る形でがんばりたいと思います」

 ―日本農業も果樹や園芸には健闘している若い担い手がたくさんいて期待されます。

 「農業には泥臭いイメージがありますが、実際には新しい技術を探求する仕事であり、水の管理とか種のまき方にしても、いろいろと高い水準の科学的知識を持つことが求められます。従って探求心旺盛な新しい世代の人たちが育つことは日本農業の力強い支えになります」

 ―研究開発の体制を聞かせて下さい。

 「米国やドイツの研究所のことは省略して、日本の田原研究所は製剤技術のほか環境に及ぼす影響も研究しています。台湾、フィリピンにもあり、個々の研究所のシステムはコンピューターで連動し、製品のデータが一括管理され、リアルタイムで情報交換できる形です」

 ―ブラウン社長のビジネスの責任範囲はどこまでですか。

 「ビジネスの観点では日本だけですが、グローバルレベルでの研究を管轄する組織の中では田原研究所などからの報告も受け、研究開発の経費などの管理もしています。私が評価される基準には、日本でのビジネスを通じてアジアパシフィック地域にどう貢献したかといった面もあるため油断できません」

 ―厳しい評価基準ですね。最後に、日本に住んでみてどうですか。もう3年目ですが。

エドワードJ・ブラウンJr.氏

 「1998年に製品開発のため一度日本にきて農家や水稲栽培の現場を巡回しましたが、その翌年、サイアナミッド社の社長として赴任しました。米国を離れて、他国に住むのは日本が初めてです。その国の風習に合わせて毎日の生活を調整するのは、やはり大変です」

 ―ご家族も一緒ですか。

 「はい。妻と高校2年の娘と中学3年の息子です。日本へきてすぐにサイアナミッド社がBASFに買収されたので、米国へ帰るかどうか家族に相談したところ、このまま残って、もっと日本を経験したいと皆いいました。私としても共に働いている方たちとの人間関係がよく、家族全員日本での生活を大変気に入っております。お互いに尊敬しあって付き合える方たちが多いのです」

 ―日本文化はいかがですか。

 「歴史的にも米国は200年、日本は何千年で知れば知るほど奥深いと思います。妻のいとこが日本女性と結婚して日本に長く住んでいる関係で、歌舞伎を見たり、お茶会に出たり、京都では神社仏閣や着物工場も回りました。ウグイス張りの廊下にもいきました。記念写真が山のようにたまっています」

(会社の概要)

田原研究所
田原研究所

 BASFアグロ(株)(東京・六本木)▽BASFジャパンの農薬事業部と日本サイアナミッドの全事業が統合して2001年1月1日設立▽資本金2140万円▽従業員140人▽農耕地と非農耕地緑化及び環境衛生用の農薬製造・販売▽株主はBASFジャパン(株)(100%)。
 BASFグループの本社はドイツ。世界の化学業界のリーディング・カンパニーで39カ国に生産拠点を持ち、製品は8000種にも及ぶ。

 

インタビューを終えて 

 エド・ブラウン社長はニューヨーク州北部の酪農家で野菜の栽培もする農家の生まれ。ニューヨーク州にはマンハッタン島を除けばナイアガラの滝まで北に扇を広げたような広大な農業地域がある。りんごやワインも出来るが、牛乳を生産する酪農家も多い。エドワードさんの生まれ育った小さな町の中学校同級生は、30人ほどで皆お互い家庭環境まで知っている。名門コーネル大学農学部を卒業し生涯を通じて農業又はアグリビジネスに携わって来た。穏やかな良識ある紳士。滞日3年目。夫人が親日家。娘さん16才、息子さん14才は日本でアメリカン・スクールに通う。家族は皆日本の生活に適応し、エンジョイしている。家庭では夫人がプレジデント、全てを取り仕切っているから安心、ブラウンさんは社業に専心出来るとはにかみながらおっしゃる。京都の神社仏閣、西陣の織り元見学、茶道、富士山登山など夫人と一緒に経験し、たくさん写真に収めている。ブラウンさんはハンティング、釣り、サッカー、野球、水上スキーなどアウトドア・スポーツを好むがゴルフは苦手という。


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