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この人と語る21世紀のアグリビジネス
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日本の農薬市場で主導的地位目指す |
香港生まれのシンガポール国籍。大学はカナダとイギリス。そして農薬ビジネスでアジア・太平洋エリアをかけ回った国際人だ。日本の歴史では南北朝時代や戦国時代に興味があるという。どうやら『乱世』向きらしい。日本語で懇切に的確にインタビューに答えてくれた。独バイエルがアベンティスクロップサイエンスを買収して発足した世界第2位の農薬メーカーであるバイエルクロップサイエンスの日本法人を担う。売上高は488億円(2002年)。これを06年には540億円に増やす目標を掲げた。「日本の農家とJAを支援したい。だからマイナー作物への農薬登録適用拡大にも最大限努力する」と語った。 |
――農業と縁のない香港育ちの社長が、なぜカナダの大学で農学部へ進まれたのですか。 「小さい時から昆虫が好きで虫の標本をよく作りました。しかし生物専門では就職口が少ないだろうと思って環境生物科を選び、植物防疫を学びました」 ――日本語は、どこで勉強されたのですか。 「正式には勉強していません。日本へは約20年前に、フランスの会社の日本駐在という形できましたが、年間250日は中国と台湾へ出張する仕事だったので日本語学校に行けなかった。農村部を歩いて日本語を勉強したともいえます。もっとも、昔から日本語の本は読んでいました。私のワイフは日本人です」 ◆中国農薬市場の成長を見越して ――なれそめは? 「偶然の出会いです。結婚式は85年10月1日です。結婚記念日を忘れないために中国の建国記念日を選びました。しかし式の翌日は、また出張でした」 ――どんなお仕事で? 「中国の綿生産拡大で作付面積が500万ヘクタールになろうとしていたので、綿作りには欠かせない殺虫剤の仕事で出張しました。当時から中国の農薬市場の成長を見越して各社が競っていましたが、私の社は成功しました」 ――それ以前の79年には米国の会社に入社されていますね。 「その社のアジア・太平洋本部であるシンガポールの現地法人で農薬の市場調査、登録や開発などをやり、またエリア内の各国を回って、中国ではダニ剤のビジネスもしました。仏社に移って日本駐在となったのは84年で、結婚後の86年には香港に転勤し、91年にまた日本に戻り、以後は定住の形で、4年前にバイエルに入社しました」 ◆各段階でそれぞれ付加価値が違う ――日本法人・バイエルクロップサイエンスの4つの基本理念のうち▽環境に配慮した▽付加価値の高い製品開発で▽地域社会に貢献する、という項目についてお聞かせ下さい。 「誰のための付加価値かを考えると、農家は高齢化しているから、使いやすくて効果が高く、かつ安いものを求めます。JAは、例えば空容器の処理量を減らして環境に配慮します。消費者は安全を求めます。それぞれ付加価値が違うわけです。一方、顧客満足といっても、製造して売る側が利益を得て満足する必要もあります。われわれには、それぞれの希望に応じた品ぞろえがあります」 ◆主力剤を中心に5%の売上増へ ――03年度の販売目標は? 「純売上高で5%の伸びを達成できそうです。品目別にみると、除草剤のバスタ液剤は2つの販売チャネルを一本化し、販売ポリシーを統一して拡販します。田植同時処理剤の『イノーバ』は、すでに現場で浸透しており、新規上市の『ビッグシュア』は全農さんもサポートしていただいていることなどからチャンスです。SU抵抗性雑草を防除する水稲除草剤の『ダブルスターSB』は、今後うちの主力になるのではないか。『ロングショット』も同じです。それから今まで問題となった並行輸入品が減少すると思います」 ――それは改正農薬取締法によってですか。 「そうです。一時並行輸入が増えましたが、無登録農薬だからこれからは規制されて、なくなるでしよう」 ◆農薬開発に加え使用技術開発も ――話は戻りますが、売上増対策は、ほかにどうですか。 「園芸分野の殺菌剤『オンリーワンフロアブル』を12月に上市しました。タマネギの灰色腐敗病、ネギのさび病、お茶の炭疽病などに有効です。一方、リンゴとお茶の分野では殺菌剤『フリントフロアブル25』を拡販します」 ◆営業本部構築でJA対応を拡充 ――直販売上高が53%で260億円。2部に分かれた営業部を今秋から1つの営業本部制にされるとのことですが、どういう姿になるのですか。 「JA数は約1000で、うちの営業部員は2部合計133人です。これでは1人で8JAほどの担当となり、ほかに卸業者対応もあるから人員が足りません。なんとか増やしたいと思っています。自社の剤を現場で普及宣伝し、技術指導することを自社でやりたいのです」 ――先ほど出た話ですが、改正農薬取締法は諸外国に比べて厳しすぎるとは思いませんか。 「国が決めることですから、農薬会社としては何もいえません。見方の問題としては、消費者の食の安全に対する不信感がありますから、消費者は厳しい法律のほうがよいと思います。しかし食料自給率を高めるためには厳しすぎるという見方があります。国は消費者のほうを重視したのです。ちなみにいえば、中国の農薬残留基準は日本と全然違います。食料不足だからです。日本はコメが有り余っています」 ◆マイナー作物対応 ――マイナー作物についてはどうですか。 「これも基本理念の1番に挙げたように『日本の農薬市場で主導的地位を確立』したいという立場でがんばります。すでに品ぞろえは豊富だし、リーディングカンパニーとして、うちがやらなければ、どこがやるのかという自負心で農家を支援します」 ――では最後に、日本での暮らしぶりや家庭生活、それにご趣味はどうですか。 「15歳になる長女は米国に留学していますから妻と次女の3人暮らしです。趣味は海水浴ですが、本もよく読みます。歴史書が好きで中国史のほか最近は日本の南北朝時代や戦国時代のものなどを読んでいます」 (2003.3.5) (会社概要)
バイエル クロップサイエンス(株)(東京都港区高輪4丁目10番8号)▽資本金11億4095万円▽設立41年1月▽従業員数490人▽事業内容は農薬および防疫用薬剤の研究開発、製造、輸出入および販売▽株主構成はバイエル(株)75・5%、バイエル クロップサイエンスSA24・5%、その他▽主要取引先は全国各地の特約店約130社、全農および有力メーカー、防除業者、海外取引先▽主要仕入先はバイエル クロップサイエンス社および国内主要化学工業会社、その他▽事業所は本社、結城中央研究所(茨城県)、明野研究所(同)、防府工場(山口県)。なおアベンティス クロップサイエンス社と塩野義製薬(株)が合弁設立した日本法人アベンティス クロップサイエンスシオノギ(株)を昨年12月に統合した。
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