農業協同組合新聞 JACOM
   
この人と語る21世紀のアグリビジネス
日本農業への適応と顧客重視を掲げて
シンジェンタ ジャパン(株) マイケル・ケスター社長
インタビュアー 坂田 正通 本紙論説委員
 シンジェンタ社はスイス(バーゼル)に本部を置く世界1のアグリビジネス(農薬と種子)会社だ。日本の現地法人シンジェンタ ジャパン(株)は、M&Aで2年余り前に発足した。ケスター新社長は2代目で9月に赴任した。すでに直販戦略に切り替えた同社の事業をどう成長させていくか、その責任は2代目が担う。以前は同社が供給した農薬原体を日本の製剤メーカーが最終製品にして販売するという間接ビジネスだったが、今は同社自身が製剤し、直販を行っている。新社長は同社が誇る研究開発力で高品質の製品を供給し、顧客重視でいくと語った。

◆品質第1主義でいく

−新社長は48歳。日本の企業としては大変お若い社長です。

 「私はもっと早く別の会社でも社長をしています。最初はドイツにいた1994年でした」

−日本にくる前はアルゼンチンの会社の社長ですね。難しい経験をされたと思います。

 「1年目は財務体質の悪い2つの現地法人を合併・買収(M&A)した時に当たり、2年目はアルゼンチンの経済危機に見舞われました。しかし3年目には経営と経済の2つの危機を乗り切って好成績を挙げ、会社は生き残ることができました」

−日本へは初めての赴任ですが、印象はいかがですか。

 「日本は米国に次ぐ世界第2の市場ですが、規模縮小が続いています。一方では世界的規模で農薬業界が再編され、M&Aが繰り返されています」
 「そこでシンジェンタ社は直販強化へと戦略を変更。ノバルティスアグロ(株)とゼネカ(株)の2社を合併(01年7月)してシンジェンタ ジャパン(株)を発足させその直後に(株)トモノアグリカを統合して卸売店への直販網を構築しました。全農・経済連への直販のためにノバルティス製品の販売権を製剤メーカーからお返しいただきました」
 「また会社体制も前任社長の時代に整備されました。私はそれらを引き継いで、さらにビジネスを育てていく責任を与えられました。しかし何らかの戦術でマーケットを獲得するといった考え方ではなく、すばらしい品質の製品を出すことによってビジネスを成長させていくという品質第1主義でプロモーションしていきます」

 
1955年オランダ生まれ。ユトレヒト大学園芸学修士号取得。オランダ、エジプト、イギリス、ドイツなどを歴任し、前任はシンジェンタSAアルゼンチン社の南米南地区担当ゼネラルマネージャーとして勤務し、ボリビア・チリ・パラグアイ・ウルグアイの地域を含め担当、その他に南米ステアリングコミティーメンバー、シンジェンタ アグロSA社の社長を兼任。  

◆マイナー作物用も

−新製品開発と品質についてもう少し詳しく話して下さい。

 「シンジェンタ社の製品を90%以上にするという高いポートフォリオ(投資配分)ですが、その製品群は非常に高いレベルの先端技術によって生み出されています。それらは日本の農業環境に適したものであるといえます」
 「開発は主要作物に焦点を当てていますが、マイナー作物用も農家のニーズを重視して開発を始めており、ニッチ(隙間)な使用であっても、各作物の需要に適したものを供給する形を目指しています」
 「水稲用デジタルコラトップアクタラ(DCA)箱粒剤という殺虫殺菌剤は、革新的な製品で全農・JAの物流チャネルを通じて普及させていただいております」
 「水稲除草剤では最新の除草成分を使ったアピロスターと、アピロトップという2つの1キロ粒剤があります。また鉄道敷地内や芝生の雑草を除草、長期間コントロールできる非農耕地用の優れた製品も開発中です」

−デジタルコラトップアクタラというのは系統チャネルでの流通製品ですか。

 「そうです。農家には製品のほかに信頼できるアドバイスとか提案、それに種子などのニーズもあるはずです。これらを満たす流通の役割は、JAを含めて非常に重要だと思います」
 「品質の高い農産物を作ろうとする農家には技術的なパートナーが必要です。わが社は、その技術の開発に焦点を合わせ、その技術を市場に普及するために流通の力を借ります」
 「良い例としては、水稲用製品ではJA系統が強いので最近の新技術では、このチャネルを通じ、うまく普及しています」

◆合併・買収の背景

−話を戦略変更の背景に戻して、お聞かせ下さい。

シンジェンタ ジャパンのある
東京・晴海のトリトンスクエア

 「競合する多国籍企業各社が日本の製剤メーカーにそれぞれ原体を渡して、製剤したものを市場に出すという今までの形では、日本市場に対するわが社の取り組み姿勢が見え難いため直販戦略に切り替えました。また、今後とも継続的に日本市場に投資し、製品の品質を向上させたいと考えました」

−M&Aが増えた背景についてもお話下さい。

 「ここ20年ほど、たくさんのM&Aが行われ、今は世界的規模で、研究開発をしている会社は5社しかありません。全分野にわたる研究開発には多額の費用がかかります。シンジェンタ社の場合は年間6億ドルです。そのおカネの手当てには、それに見合う売り上げが必要ですから、多くのM&Aが行われました。わが社は積極的な研究開発を今後も続けていきます」
 「中規模の会社の変遷も目立ちます。これらの会社は20年ほど前に開発された製品でビジネスを行っていますが、競合他社から新技術が出てくる上に、市場では平均的に値段が下がっていますので利益を維持し続けるのが難しくなっています」

◆開発の観点は「安全」

−食品の安全に対する消費者ニーズをどう思いますか。

 「強く支持します。安全で健康なものを作るには適切な保護やケアが必要です。また投下有効成分量を減らすのは正しい技術があってこそ可能です。わが社の製品開発の観点は(1)環境に対する安全(2)農薬使用者への安全(3)消費者への安全ということです」

−戦略変更を具体化する新社長の方針はいかがですか。

 「まず顧客重視で、JA・全農・卸売店のニーズを満たします。ということは最終的に農家のニーズを満たすことになります。品質をはじめ、あらゆる面での顧客満足を追求します」

−全農と商系の両チャネルの販売比率はどうですか。

 「農家は約70%をJAチャネルで買っています。しかしJAが商系から仕入れている分が約20%あるので私どもの販売シェアは系統と商系が半々です」
 「というのは、現時点のシンジェンタにとってはビジネスを成長させていく潜在性は商系チャネルよりJAのほうが大きいからです。現在、系統チャネルでは私どもの製品が十分に紹介され切っていないと思います。これまで日本の製剤メーカーを通して販売していた2重構造の名残りを是正していきます」

◆市場ルールを尊重

 「私どもはJAと商系の両方のビジネスから出てくる市場ルールを尊重したい。また農家には選択の自由がありますから、より優れた商品を扱うことが物流業者の課題です。私どもは公平に製品を提供する立場をとっていきます」

−最後に、社長のご専門や趣味についてお話下さい。

 「園芸の技術的な勉強をしてきました。趣味はクラシックカーで現在はイタリア製のアルファロメオ・スパイダーに乗っています」

−母国オランダの農業はやはり園芸が盛んですか。

 「そうです。園芸の生産性が高い。酪農もあります。農業の主要作物はジャガイモです。日本とはやはりチューリップとユリの球根の取引が活発です。新種が次々に出ますから」

−風車も有名ですが

 「風力発電の技術は日本に紹介されていると思います。地球環境のためには良いのですが、しかしオランダのような狭い国に鉄塔を林立させるのは風景を損なうため余り歓迎されていません」

−日本への赴任は、ご家族とご一緒ですか。

 「長女はオランダの大学にいます。妻と長男と次女の計4人が日本にきました。


インタビューを終えて
 日本へ転勤と聞いた時は嬉しかったとマイケル・ケスター社長はいう。アルゼンチンより日本はビジネスが大きく、家族も日本文化に興味があり喜んでくれた。海外の社長経験は、ドイツが初めで次がアルゼンチン、日本は3回目の社長業。長身、ひげが濃くて優しそう。気さくだとの評判。オランダ生まれ。オランダ農業の中心は園芸である。大学では園芸を産業に育て上げる技術を勉強した。オランダからユリの球根や花を日本は輸入している。農薬業界は世界的なM&Aが進んだ結果、全分野で次世代研究開発のできる会社は5社になった。シンジェンタ ジャパン社は合併後の第1段階をクリアーして、第2段階の顧客重視の戦略をすすめる方針という。直販戦略で農協チャネルの売れ行きも好調な事から、社長交代パーティで、全農の北本常務の乾杯発声を大変喜んでいた。オランダ大学でバイオ・サイエンスを学ぶ娘さん(18才)は故郷に残し、長男(15才)、次女(11才)は日本の英国系インターナショナルスクールに通学、夫人と4人で横浜暮らし。趣味はクラシックカーの運転。(坂田)
(2003.11.7)

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