|
えのもと ゆうじ
昭和20年東京都生まれ。名古屋大学農学部農芸化学科修士課程修了。昭和44年三井東圧化学(株)入社、精密化学品事業部農薬海外営業部長、三井化学農業化学品事業部マーケティンググループリーダーを経て、平成13年三井東圧農薬(株)常務取締役、15年同社代表取締役社長、17年三井化学クロップライフ(株)代表取締役社長。 |
――社長就任おめでとうございます。最初は三井東圧化学(株)に入社されたそうですね。
榎本 卒業後、三井東圧化学(株)に入りました。4年間社外の研究機関に出向していましたが、あとは約25年間研究開発に携わっていました。営業は、本社に来てはじめて経験しました。国内営業と海外営業のどちらも担当しました。4年前、三井東圧農薬に移って来て、2年前に同社社長になり、そして今年の7月、新会社設立に伴い社長に就任しました。
――海外営業とは、具体的には。
榎本 海外の駐在は経験していません。アジア、ヨーロッパを対象に、殺虫剤『トレボン』の営業をしました。『トレボン』はウンカの特効薬だとの位置づけで上市し、稲作中心のアジアでは必ずや反響があると確信していました。しかし、実際には稲作に加え、野菜、園芸、柑橘類など広範囲な作物に使用されており、ヨーロッパではイタリア、アジアでは韓国が大きなシェアを占めています。国内でも『トレボン』は、水稲を中心に広く使われています。
――国内ではどのような場面で使われていますか。
榎本 水稲の斑点米カメムシ用が主流です。数年前に汎用性のある新規殺虫剤『スタークル』を発売しました。これもカメムシには効果的です。カメムシが原因で斑点米ができ、等級を落とすことが問題となっています。当初は有機リン剤で対応していましたが、『トレボン』、そして『スタークル』の市場投入となりました。また昨年、西日本の果樹園でカメムシの大発生が問題となったこともあります。これにも『スタークル』が、非常に効果的だときいています。『スタークル』も、新会社の主力製品として成長してくれることを期待しています。
■製剤化などは新会社で、2年後の売上目標は150億円
――新しい会社「三井化学クロップライフ」についてですが、ベースは三井東圧農薬ですか。
榎本 三井化学グループの農薬事業は、三井化学が開発・製造した原体を、三中化学(船岡・宮城県)、三東化学(新城・愛知県)で製剤品とし、三井化学および三井東圧農薬が販売する体制でした。今後、新規剤の創製は三井化学に特化し、新会社には製剤・販売・研究の機能を集めることになります。
――開発に関してはどうなっていますか。
榎本 新薬剤開発には莫大な投資が必要であることから、ハードルが高くなっています。特にお金がかかるのは毒性試験です。三井化学グループは、以前は総合化学会社として生物関係では医薬も農薬も扱っていましたが、今は医薬から手を引き農薬だけです。
新しい会社の役割は、親会社が見つけた新薬剤について、製剤化する研究やその効力を確認し評価することです。新薬剤の登録は三井化学がやりますが、製造はうちでします。さらに、普及は社内の技術サービスチームで対応する体制ができています。
――売上目標が150億円とは、控えめな数字だと思うのですが。
榎本 控えめかどうかは分かりませんが、妥当な数字だと思っています。三井化学の各事業ごとの計画がありまして、その計画に沿っています。本当は、もっと高い目標を立てるべきなのでしょうが…。
――種子も扱っておられますね。
榎本 三井東圧化学が中国と共同開発を行っていたハイブリッドライスの『みつひかり 2003・2005』の2種類があります。美味しくてたくさん穫れるというのがうたい文句ですが、たくさん穫れるので減反政策に反するため、営業には苦労しています。『みつひかり』の営業では、米の販売先をわれわれが見つけることも必要となり、結構しんどい思いをしています。『みつひかり』の名前で販売もしています。晩稲なので、市場では重宝されているようです。業務用に絞って生産者を増やしていくことを考えており、規模の大きなJAをターゲットに、ここ数年営業活動を強めています。
■開発費確保のため規模拡大し売上増狙う
――このところ、外資の攻勢が強くなっていると思いますが、影響は。
榎本 最近は外資も直接販売を手がけるようになり、攻勢が強まっています。わが社もそれに対抗する意味で、自社開発したものは、自社で販売する方向です。新会社の役割は、親会社の原体を最大限活かすことです。外部に対しては、三井化学の農薬全体の販売を新会社が行います。
――農薬のイメージは社会的にあまり良くないところがありますが、クロップライフとは農薬臭さがなく洒落ていますね。
榎本 農薬に対する社会の目はとても厳しいものがあると思います。登録を取るために必要な書類などの量の多さは、膨大な量にのぼります。それほど農薬は厳しい世界です。最近、わが社も昔の原体の再登録をしていないのが現状です。ユーザーである農家に農薬が届くまでには長い道のりがあり、われわれも含め農薬と関わり合う人は、農薬一つひとつを大切にしなければならないと思います。新しいものを見つけるのが大変で、見つけてから製品化するまで10年はかかる、そんな世界です。
――今ある農薬を大切にしろと…。
榎本 農薬会社の研究開発費の割合は、会社の規模に関係なくほぼ固定しています。だから、研究開発費を増やすためには会社の規模を大きくし、売上を伸ばすことが必要です。ある人達は、こんなに多くの農薬会社は必要ないと言います。早く、一緒になって規模を拡大し、外資に対抗しろということです。しかし、物事はそう単純に運ぶとは思いません。
■メーカーに過大な要求、明快なメッセージの発信を
――今まで、多くのJAと付き合ってきた経験から、経済事業改革を進めている『全農』にひとことお願いします。
榎本 いま、全農さんは経済事業改革に必死に取り組んでおられると思いますが、残念ながらその効果が見えてきません。人が減り、技術的サービスが低下してはいないでしょうか。以前は営農部門に人がいて、しっかりと農家を指導していた。今、しっかり指導していないとは言いませんが、やり方としてちょっと不都合ではないかと思います。
全農さんには、私どもも大変お世話になっております。あまりにも大きな組織体であるが故に、全農さんが果たす役割とかメッセージが、生産者や消費者に対して明快に伝わりにくい面があるように思います。存在があいまいになっているのではないかと思います。
――それから、日本の農業について何かありましたら。
榎本 これも、重いテーマですね。日本の国としての武器は何かと問うとき、農業を考えると暗澹たる気持ちになります。農業はいわゆるビジネスとは違います。食料を安定的に供給するために、国が農業に補助金をつぎ込むのは当然です。それは、農業国のアメリカやフランスなどでも取られている政策です。
今年3月に新しい基本計画が発表されました。その中に、農薬を使わない農業に言及している箇所があり、それだけでも個人的には違和感を覚えています。農薬を使わないで何が作れますか。日本は非常に高温・多湿の国で、かつ降水量もふんだんにあり、農産物をつくるにはもってこいの条件にあります。が、反面では病害虫や雑草が発生・増殖しやすい気象条件下にあります。
人類が土を耕し農産物を育てる場合、そのまま自然に放置すると農産物としての収穫はのぞめません。必ず、肥料や農薬が必要になってきます。人類史上、少なくとも縄文中期頃から農業(食糧確保)は自然ではないのです。基本計画については、行政の側の責任として日本農業を守らなければならないとのメッセージを出し続けて欲しいと願っています。
――最後に、趣味などを聞かせてください。
榎本 趣味は競馬で、歴史は浅くハイセイコーぐらいからです。ストレス発散には最適だと思います。競馬のほかには読書です。海外のサスペンスとか、藤沢周平が好きで、藤沢周平はほとんど読みました。
――映画はどうですか…。
榎本 大好きです。外国映画を中心に、以前は多いときは年に400本ぐらい見ています。特に外国映画はその国の文化や暮らしなどがスクリーンから感じられ、そこが大好きです。
|