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この人と語る21世紀のアグリビジネス |
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――御社はチョコレートやお菓子のイメージが強いですが、入社されたときには農薬をつくっていることはご存知でしたか。 松長 鳥取農業試験場にいて明治製菓には中途入社したのですが、それまでは農薬をやっているとは知りませんでしたね。 ――消費者からみると、お菓子と農薬ではイメージがそぐわないような気がしますが…。 松長 私は、明治製菓にとって大切な事業は、農薬とか動物薬事業だと思っています。それは、安全・安心な農畜産物をつくることに貢献しているからです。そうした農畜産物を食べて人間は健康になるわけです。そういう意味で、明治製菓が農薬や動物薬をやっていて良かったなと思います。 ◆醗酵技術を活かして医薬品・農薬を開発 ――明治製菓が医薬事業や農薬事業を始められたきっかけはなんですか。 松長 終戦の混乱が続く昭和20年の末、かねてより研究を重ねていたペニシリンを工業化し、製薬事業へ進出することにしました。当時、GHQの後押しもあり、醗酵技術を持つ会社が一斉にペニシリンの製造を手がけたようで、昭和23年ころには56社が製造していたようですが、いまは当社など数社しか残っていないようですね。 ――農薬はいつ頃から…。 松長 農薬は、昭和36年に発売した植物成長調整・促進剤のジベレリンからです。これは種なしブドウなどに使われていますが、これも醗酵技術を活かしたものです。そしてストレプトマイシンを農業用に転用した細菌性病害防除剤のアグレプト水和剤を38年に、42年には稲白葉枯病防除剤のフェナジン水和剤を発売するなどして農薬業界に進出しました。そして50年に、現在、当社の農薬事業を支えている稲いもち病防除剤のオリゼメート粒剤が発売されました。さらに59年には醗酵技術を活用した世界初のバイオ除草剤ハービエースを発売しました。 ◆トレンドに合わせて進化するオリゼメート ――いもち病とか細菌病害分野に強いわけですね。 松長 そうですね、もともと抗生剤ですから細菌性の病害に強いですね。 ――環境にやさしい農薬といえますか。 松長 自然の微生物を使った醗酵生産物ですから、純然たる化学農薬とは少し違いますね。 ――オリゼメートはかなり高い評価を受けていますね。 松長 そうですね、54年に大河内記念技術賞、56年に日本農薬学会の業績賞を受賞しています。そして平成5年に農業試験研究1世紀賞で会長賞を受賞しています。 ――オリゼメートの特徴はなんですか。 松長 通常の薬剤だと菌を直接殺しますが、この剤は稲自体をいもち病菌に強くし抵抗性を持たせるという世界で初めての抵抗性誘導型の防除剤です。今年で発売してから32年目になりますが、いまだに耐性菌がでないという薬剤です。 ――それで長年にわたって売れているわけですね。いまはどれくらい売れていますか。 松長 オリゼメートの場合は、技術改良が進み、農業のトレンドに合わせてどんどん進化してきています。現在は、Dr(ドクター)オリゼを中心に、全国の約50万ヘクタールに普及しています。 ――環境にやさしいということをもっとアピールしてはどうですか。 松長 ダイレクトに病原菌に効くのではなく抵抗性を誘導するので、環境にやさしいと評価していただいている生協もあります。また、粒剤ですので飛散や河川への流出も少なく環境にはやさしいと思っています。 ――ポジティブリスト制度が導入されますがこれについてはどうお考えですか。 松長 安全・安心な食品をということでは必要なことだと思います。しかし、そこだけに目を向けてすべて検査することは大変な経費と作業が必要となります。生産者の方は農薬のラベルに書かれたことを守って使われているはずですから、安心です。しかし、生産者がいくら安全だといっても信頼関係がなければ消費者は信じませんから、基本は生産者と消費者の信頼関係ですね。 ◆抗生剤中心に動物薬ではNo1メーカー ――今期の業績は? 松長 32年経ったオリゼメートが堅調に推移していますので業績は良好です。いま、当社では“チャレンジ 2005”という中期計画を「強くて、おもしろい会社」をキャッチフレーズにして進めています。その最終年度となるこの3月には事業本部として200億円の売上げを達成できる見通しです。 ――生物産業事業本部としては農薬以外にはどういう事業があるのですか。 松長 抗生剤を中にした動物薬が約100億円強あります。この2〜3年、他社の動物薬事業を譲り受け、順調に推移しています。 ――中心は畜産ですか。 松長 牛・豚・鶏など畜産用が9割です。この動物用医薬品の分野では当社がNo1メーカーです。これからは、ペットなど小動物分野にも力を入れていきたいと考えています。 ◆営農指導が基本情報開示で農家との信頼関係を ――いまの日本の農業についてはどうお考えですか。 松長 私の出身も農家ですが、たまに故郷に帰ると、後継者がいませんし、生産者が高齢化していますね。そういう意味で、食料の生産拠点として、いまの農村が機能を十分に果たしているかというと、いささか疑問に思いますね。しかし、2つの面で農業は重要だと考えています。一つは、国内の安全・安心な食料を確保する産業だということです。もう一つは、環境という側面から、緑と水に関して水田が果たす役割は非常に大きいと思います。この2つの視点から考えると、日本の農業・農村の問題は、国民が課題として取り組んでいかなければいけないと思いますし、農業は非常に重要な産業だと思います。 ――いま、若い世代が農業を継がないという問題がありますね。 松長 これからは、専業化するとか集落営農、あるいは企業が農業分野に進出し、この3つが担い手として生産拠点を確立して、品質の良いものを生産するという農業に転換していくのではないでしょうか。そして兼業も存在していくと思います。 ――農協についてはどうお考えですか。 松長 故郷に帰って思うのは、農村で目立つのは農協さんの大きなビルとか集荷場などの施設ですね。従来の農協というイメージが少し薄れているのではないかと思いますね。合併して大きな農協になっていますが、もう一度、農産物を安定供給する、つまり生産を確実に行うという農協と農家の原点に返って考える必要があるのではと思ったりします。 ――農薬関係では新しいものを開発されていますか。 松長 今年の春に非選択性茎葉除草剤を登録申請する予定です。上市できるのは2年後くらいですね。それから2年後くらいに登録申請できるように殺菌剤の開発を進めています。 ――オリゼメートについても今後の農業のトレンドに合わせて進化をしていくわけですね。 松長 他社との連携で。これからも他社のすぐれた殺虫剤とのコラボレーションで商品が進化していくということです。流通面でも卸会社に助けていただいています。製剤メーカーさんとはコラボレーションで、卸さんとはパートナーシップで事業を推進していくことを考えています。 ――お忙しいなか、貴重なお話をありがとうございました。 ◇コラボレーションについて |
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(2006.3.6) |
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