特徴ある薬剤開発で小粒でもピリリとした会社に
◆ミカンコミバエ根絶事業に地元企業として積極的に参加
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ふくたに・あきら
昭和30年1月、香川県善通寺市生まれ。玉川大学農学部大学院卒。食品会社を経て、昭和62年にサンケイ化学に入社。平成11年常務取締役、同12年代表取締役社長に就任し現在に至る。 |
――サンケイ化学という社名の由来はなんでしょうか。
「当社は大正7年に、鹿児島産のタバコの幹から当時不足していた火薬原料の炭酸カリウムを製造する目的で(株)鹿児島化学研究所として設立されました。その後、食品や肥料、防疫用薬品、そして農薬を手がけましたが、戦後は農薬に重点をおき、近年は農薬専門メーカーとして歩んできています。
そして、ブランド名として社名の鹿児島・化学・研究所の頭文字をとって“サンケイ”を使っていましたが、昭和37年に福岡で株式公開をしたことと、埼玉県深谷市に工場を建設したのを機に社名をサンケイ化学に変更しました」
――ミバエの根絶とか、地域に密着した事業を展開されていますが、これはどういうきっかけですか。
「昭和4年頃に、奄美諸島などに侵入したミカンコミバエのために、奄美諸島から本土への柑橘類出荷には厳しい制限がついていました。昭和43年から国・県が奄美・沖縄・小笠原からミカンコミバエを根絶する事業を行い、地元企業として鹿児島で唯一の製剤メーカーとして積極的に参加しました。そのときにやったのは、ファイバーボードにミカンコミバエのオスを誘引するメチルオイゲノールという物質と殺虫剤を浸み込ませてオスを殺すという方法でした。メスがいてもオスがいなければ無精卵で虫は生まれませんから…。これを毎年繰り返し昭和54年に根絶できました。
ミカンコミバエの根絶事業はUSDA(米国農務省)がハワイですでにやられていましたが、引き続き当社が手がけたもう1種類のウリミバエ根絶は日本が最初でしたね」
◆誘引殺虫技術の獲得で環境保全型の基礎が
――性フェロモンなんですか。
「オスしか誘引しませんが性フェロモンではありません。USDAが1万件以上にのぼる物質を調べて発見したもので、自然界にはほとんど存在しないものです。誘引物質は自然界から持ってくると、競合してなかなか上手くいかないものですが、たまたま自然界に存在していなくて、虫の生活の中で利用されていなかったことがいい結果をだしたといえますね。
ウリミバエの場合は、サナギのときにコバルト照射して不妊虫をつくり根絶しました」
――いまはもう根絶して、いないわけですね。
「根絶しましたが、台湾などからの船などで運ばれてくるのだと思いますが、毎年侵入してきていますから、先ほどお話したファイバーボードをいまでも使っています」
――そうした蓄積が今日の事業につながってきているわけですね。
「昆虫の誘引殺虫技術を獲得することができ、いまは特定の害虫のみを防除する環境保全型農業に適応する基礎になっています」
――他社よりもだいぶ早くから性フェロモン剤などに取り組まれているわけですね。
「性フェロモンに取り組んで25年くらいになります。信越化学が野菜の害虫であるコナガのフェロモン剤を開発しましたが、最初はなかなかうまくいかずに困っていたんです。そこで、当社の経験を活かして使用方法などを開発しました」
◆迅速・的確な発生予察を可能にするムシダス
――発生予察を自動化したムシダスという自動計数機能付き昆虫発生予察器を開発されていますね。
「性フェロモン誘引剤を使った発生予察器です。従来のものは、トラップに捕獲された虫の数を人間が数えるものですが、このムシダスは、虫の数を自動的に数えて、時刻や温度・降雨などの気象情報と一緒に記録し、無線通信で送信しますから、害虫の発生状況を即座に知ることができ、正確で迅速な発生予察を行うことができますし、予察業務が簡素化できます」
――そうすると防除するタイミングも正確になるわけですね。
「無線で情報を収集し判断できますから、的確なタイミングで防除できます。そうすると無駄な散布がなくなりますから、使用する薬剤が最少限ですみ、環境にやさしい防除ができますね。そういう意味で、JAの支所単位で活用していただけるとありがたいですね。ムシダスを使ってネットワークを組んでもらうと、害虫の発生状況の進み具合がビジュアルに確認できるようになります。そうなることが夢です」
◆植物由来の殺虫殺菌剤やフェロモン剤を中心に
――御社の経営理念、今後の方向性は。
「経営理念は“植物の育成管理に関連する事業を通して、社会に貢献し…”ということですが、具体的には他社が手がけていないような特徴のあるもので農家に評価していただけるような仕事をしていきたいと考えています。小粒でもピリリとした会社にと考えています」
――そのためには研究開発に力をいれていくわけですね。
「売上げはなかなか伸びませんが、特徴あるものを開発するために研究開発費は20数年間変えていません」
――安全・安心といわれていますが、それに応えるお仕事をされているわけですね。
「25年前からフェロモン剤に取り組んでいますが、その当時から環境にやさしい防除を意識的に追求してきています。最近はサンクリスタル乳剤という植物由来の殺虫殺菌剤を開発し上市しています。これの仕組みはマシン油と同じで、ポジティブリストの対象外ですし、収穫直前まで使用できます。野菜類のハダニ類、アブラムシ類やうどんこ病に登録があります。さらに、タバココナジラミ等の害虫に適用拡大をはかっています。一方で、花にも使えるように適用拡大をはかっていくつもりです」
――フェロモン剤もこれから広がっていくでしょうね。
「鹿児島はお茶の産地ですが、その3分の1近くにあたる2800haでフェロモン剤を使っています。2年目の今年は3000haになると思います。フェロモン剤を使った効率的な防除体系を確立しようということで、経済連とJAと一緒に取組んでいますので、いまが普及拡大のチャンスだと思っています」
――「安全なお茶」としてアピールできますね。
「フェロモン剤を使っているから安全で、薬剤を使ったら安全ではないという科学的な根拠はあまりありませんが、消費者に“安心”というアピールはできるのではないでしょうか」
◆JAには地域をまとめる力がある
――最後にJAに期待することはなんでしょうか。
「ホームセンターでは技術的なフォローはできません。フェロモン剤の場合は、大きな面積をまとめて使わないと効果がありませんし、使用するときの技術的な指導が必要ですから、JAの生産部会など組織と一緒になって実施しないとできません。
地域をまとめてブランド力をあげるために、農薬などをどう使っていくのか、その技術的な指導を含めて産地をまとめていくことがJAの役割だと思いますし、それだけの実力をもっていると実際にフェロモン剤などの普及をしていて実感しますね。
JAの経営としてはいろいろな事情はあると思いますが、営農とか農薬の専門家を育てていって欲しいと思います。それが産地をまとめる大きな力になるのではないでしょうか」
――ありがとうございました。
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