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おばら・みのる 昭和19年7月北海道生まれ。宇都宮大学農学部卒。全農酪農部長を経て、平成13年全国農協直販(株)代表取締役社長、15年1月日本ミルクコミュニティ(株)専務取締役、同年11月代表取締役社長、現在に至る。 |
新商品の健闘目立つ宅配専用品も伸びる
◆黒字化1年前倒し
――3月期決算によると、平成16年度の業績は増収増益で、会社設立2年余にして早くも単年度黒字化を達成されました。
「企業経営は生き物と同じで、常に変化や様々な局面に遭遇する。好むと好まざるとにかかわらず、その場に直面した者が企業の繁栄と従業員の幸せを念じてベストを尽くして頑張るしかないのです。構造改革プランでは、17年度の単年度黒字化を目標にしていたが、お陰様で、1年前倒しで達成できました」
――売上高は2261億円と計画を約11%上回っています。
「申し添えますと、経常利益の計画は、35億円の赤字に対し、実績は23億円の黒字で、計画対比58億円の好転となりました。前年差では161億円の収益改善となりました」
――昨年夏の記録的な猛暑が追い風になったようですね。
「しかし白物飲料の売上高は牛乳市場全体の消費低迷から、前年を3%下回りました。一方、色物飲料などは、いずれも前年を上回りました」
―― 一般的に、市乳事業(牛乳などの製造販売)は不採算部門と言われており、新会社の前途は多難と見られていました。統合前後からの足取りを少し振り返って下さい。
「当社は、自然からお客様までのミルクコミュニティを育み、明るく健やかな暮らしに貢献します。そして生産者と消費者のかけ橋にならなければなりません。生産者が生産した牛乳を消費者に安全・安心に届けるという重要な使命があり、まず牛乳をしっかりと売っていくのは当然です。その上で色物を上乗せしていくことにより市乳事業の経営は十分できると考えています。」
◆アイテム数を集約
「飲用専門ですから、ヴィバリッジカンパニーとしての創意工夫を発揮すればよいのです。乳製品についてはWTOの交渉次第では将来厳しい環境と対応が必至と思われます。」
――それに比べ、飲用のほうは、フレッシュな生乳が輸入される事態にはなりにくいという有利さがありますね。
「しかし安価な乳製品が輸入されますと、やがて国内生産基盤の崩壊となって、飲用牛乳の世界も影響をこうむることになります。市乳類には、醗酵乳、乳飲料、生クリーム類、果汁など液状すべてが含まれるから、要はバランスと組み合わせで経営できると、社員にも言ってきました」
――アイテムを豊富にできるわけですね。
「一方では、統合当初は3社の商品アイテム数を合計すると約2000にものぼり、生産や物流の効率が悪いという問題に直面しました」
「新会社設立に十分な準備時間を取れなかったため、アイテム数を絞り切れなかったのです」
「そこで販売力の集中と効率アップを図るため、取引先の意向もふまえアイテムを集約し、今年3月には約800に削減しました。さらに750程度にまで絞り込む計画です」
◆メグミルク伸びる
――準備不足による混乱はなかったのですか。
「ありましたよ。統合当初は物流が混乱しました。お互いにアイテムを覚えたりする時間がなかったし、また3社それぞれに異なる企業文化・業務スタイルから様々な問題が起きました」
「さらに主力商品のメグミルクが計画の2倍以上も売れたため保管スペースの問題やピッキング等、物流対応面での混乱がおきました」
――情報システムは?
「各社の情報システムが連携しなくて困りました。感じとしては、真っ暗な海を方位磁石なしで漂流しているような気持ちになったこともあります」
――それは会社発足当初の専務時代のことですね。
「そうです。専務であり、また売上げウエイトの高い関東事業部の担当でした。そうした中で私としては、固定費の削減などの構造改革を急がないと大変なことになると危機意識にも駆られ、まず15年6月に自分の管轄下の構造改革に手をつけ、固定費削減などに取り組みました」
「15年8月から全社で構造改革プランの作成に取り組むことになりました。私は、異文化の3社統合下の未整備などの混乱に目鼻をつけてくれた初代社長の後を、同年11月に引継いで、就任しました。同時に構造改革プランを公表しました」
◆息長い「農協牛乳」
――社員の意識はどうですか。
「構造改革プランによって全員が危機意識を持ち、それぞれの持ち場で果敢に同プランの諸施策にチャレンジしています。全社挙げての結集力で、事業構造は急速に改善されています。その結果が16年度業績に表れました」
――初年度のメグミルクの売れ行きが計画の2倍というお話ですが、全農直販の主力商品だった「農協牛乳」もいっしよに小売店に並んでいます。
「農協牛乳には安定的な顧客がいるため、それに対応しています。広告宣伝はしていませんが、一定の顧客がいる限りは、メグミルクと並行して、当面農協ブランドを続けていきます」
――今年5月に発売した「牛乳が好きな人のメグミルク」というのは長い商品名ですね。
「最近はどうも説明調の長いネーミングがはやりのようです。『牛乳が好きな人』の消費を回復するために開発し、生乳本来のコクと鮮度を再現しました。これまでのメグミルクと合わせ、両方で消費の底上げをはかります」「味は手前ミソですが抜群です」
◆「低温脱気製法」と「赤い容器」で生乳本来の味を
「牛乳の劣化、つまり味が悪くなるのは酸素、熱、光がおもな原因ですが、「低温脱気製法」(現在特許申請中)で酸素を取り除き、熱の影響を最小限にします。また赤い遮光性容器で光の影響をおさえます。他社にはない商品です。両方合わせて売れ行きが伸びていますが『牛乳が好きな人のメグミルク』の浸透には、もう少し時間がかかります」
――牛乳宅配についてはいかがですか。
「宅配軒数は約100万軒、店舗数にして約3500店あり、月水金と火木土の2とおりに分けて、それぞれ2日に1回を標準として配達しています」
「商品アイテムはたくさんありますが、トップはカルシウム強化の機能性乳飲料で、次いで普通のビン牛乳。その次が「グルコサミンパワー」の順で伸びています」
――どんな商品ですか。
「高齢者はヒザやヒジの関節の軟骨がすり減って痛くなりますが、その軟骨を造成するNAG(N-アセチルグルコサミン)という成分が入っています。しかも一般的に販売されている人工成分と違い、エビやカニの甲羅から抽出した天然の成分です。高齢者はNAGを体内でつくる能力が低下していくため、これの補給が大切です。最初は美肌効果で開発したものです。」
◆情報システム構築
――高齢者向きですね。
「いえ、スポーツでヒザを酷使する高校生などにもお薦めです。15年秋に発売し、宣伝もしないのに口コミで伸びて、今はヨーグルトと合わせ一日に14万本も宅配しており、ヒザが快適に動かせるようになったという喜びの電話もかかってきます。乳飲料とヨーグルトの2タイプがあります」
――なるほど、黒字化には商品開発も寄与しているわけですか。さて今後の課題についてはどうですか。
「今年は構造改革プランの総仕上げの年であり、(1)お客様との更なる信頼関係を構築する、(2)商品力を強化し営業力のポテンシャルを高める(3)経営基盤の盤石化、を基本に走っているところです。17年度計画の売上高は前期比約96%として、着実を旨としました」
「また今年は、全社統一の当社独自の情報システムの開発に着手しました。高機能であり19年2月の完成予定です」
◆債務超過の解消へ
――債務超過の解消という課題もありますね。
「来年から実施する中期3ヶ年経営計画を今、策定中で、その中で早い段階で解消していきたいと思います。」
――最後に、酪農・乳業全体の課題についてはどうですか。
「飲用牛乳の消費低迷、WTO等・乳製品の国際化問題、飼養頭数と生乳生産量の減少、BSEの影響、ふん尿処理問題とか脱脂粉乳の過剰在庫など危惧される問題が多いのですが、日本の酪農と乳業は車の両輪ですから、消費拡大に全力でのぞむほか酪農の安定的な生産基盤体制の構築に乳業としても力を入れ、できる限りのバックアップをしていかなければならないと考えています」
会社概要▽平成15年1月設立▽資本金142億円▽従業員約2376人▽株主はJA全農、雪印乳業、全酪連、農林中金、ジャパンミルクネット。
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