――医薬と農薬、両方の営業を経験されてどのようなことを感じましたか。
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窪田隆一(くぼた・りゅういち)
昭和20年4月生まれ、静岡県、早稲田大学第一法学部卒。昭和43年4月三共(株)入社、平成13年12月アグロ事業部長、同14年4月アグロカンパニープレジデント、同15年4月三共アグロ(株)取締役社長、同18年5月農薬工業会会長 |
窪田 商売の仕方などに、最初は違和感がありました。しかし、良かったのは農薬の経験がなかった分、農薬業界を客観的に見れたことだと思います。業界では当然であったことに疑問を持ったのが、責任者になってから社内の農薬事業の改革につながったと考えています。
――改革のポイントは何ですか。
窪田 農薬では卸やJAなどに対する販売活動が重要視されていましたが、営業をセールスとAR(アグロケミカル・リプレゼンタティブ)に分け、セールスは卸やJAに販売、ARはそこから先の農家や小売店に農薬の効果や使用方法などの紹介を行って、消化(販売)を促進しています。「販売しました、しかしその先の剤の流通はどうなっているか分かりません」では困るわけです。
我々にとって重要なのは、個々の農家がどの農薬をどのように使ったかというエンドユーザーの動きです。しかし、そこまでは把握できないので、その前の小売店、JA段階での流通の実態を把握することに全力を注いできました。社員全員がそのような意識を持って営業するのに時間はかかりましたが、意識改革を進め、今は私の考えも理解されるようになりました。
今までは卸からJAや小売などへ販売されれば売上げとして計上してきました。しかし、JAや小売での販売が確認できなければ売上げとして計上できないシステムにしました。また、そのような取り組みを進めてきた結果、我々が営業を行っている卸やJAでは、流通在庫が減って適正在庫に近づいてきています。
エンドユーザーでの売上げを伸ばすため、各地域の作物に合った農薬を卸などと一緒に提案する営業を展開してきたので、消化が進まず売上げが計上できないといった事態は避けられていると思います。 ◆研究開発費の確保とシナジー効果を期待して
――三井化学との統合について教えて下さい。
窪田 親会社の「三共」が、「第一製薬」と合併することが決まり、昨年秋に「第一三共」というホールディング会社を発足させ、その下に「三共」と「第一製薬」があります。今年3月「第一三共」は医薬に特化し、非医薬事業の子会社15社は自立という方針が決まり、「三共アグロ」は新しい生き方を求められました。
当社の歴史と個性を伸ばせること、従業員の雇用が守れることを最優先に相手を探しました。その中で、「三井化学」が我が社の経営理念と一致する点が多いことや、営業・製品構成などでシナジー効果が期待できることなどから、統合に至りました。
――独自に歩くという道もあったのでは。
窪田 もちろんありました。しかし、独自に歩んでいった場合、今後わが社だけで十分な研究開発費が確保できるか、この点が独自に歩む道を躊躇させました。統合の効果としては、品揃えの充実、研究開発の強化、製剤工場と原体工場の結びつきの強化などを期待しています。また、海外の営業についても、お互いの弱い部分を補完し合うことができ、効率が高まることになるでしょう。 ◆農薬工業会として残留基準一律0.01PPMの見直しを要望
――ポジティブリスト制が施行され、ドリフト等が問題になっています。どのような対応を考えていますか。
窪田 ポジティブリスト制で、残留基準が一律0.01PPMというのは世界的に見ても非常に厳しい値だと思います。ドリフト問題に関しては、農薬の適正使用の推進とより飛散し難い剤型を開発する必要があると思っています。先日、私が会長を務めている農薬工業会は「食品安全委員会」に対し、▽登録審査期間の短縮、▽知的財産権の保護、▽残留基準の見直し、の3点を要望しました。
◆農家とともに考える姿勢が基本
――全農改革についてはどうでしょうか。
窪田 『新生プラン』はある程度完成されたビジョンで、評価できると思います。ある人の本の中に、国としての品格とは▽美しい田園を持っているか、▽高い自給率を誇っているか、などの項目が必要だとありました。農家組合員、全農が行っている仕事は正にそれに直結するものではないか。自信を持って、そのことをアピールしてほしい。棚田や里山などを創り出してきた日本農業の伝統を守り、新時代の農業を創りだせるか。農業の構造改革を進める全農の役割は大きいと思います。
今後日本の農業は、農業法人や大規模農家などの専門家集団と兼業農家などの素人集団に二分されるのではないでしょうか。地方の産業構造を考えると、兼業農家は一定程度残ると思います。二極化された後の営農指導は、両方の集団に上手く対応することが求められ、ますます重要性が高まっていくのではないかと思います。わが社のARは、過去全農が行っていた営農指導とは違う角度から貢献していきたいと考えます。そのために生産者が求めている農薬情報や周辺情報を提供し、生産者の営農に貢献できるよう研修を行ったりして個々人の質を高める努力を行っています。
これらの実践の一環として、わが社は昨年春から栽培履歴管理システム『かすが日誌』を構築しました。これまで紙ベースで行われることが多かった栽培履歴記帳作業をホームページ上で行うもので、ネット利用者が着実に増えています。
――全体のマーケットが縮小している現状の中で、生き残るために必要なことは何ですか。
窪田 繰り返すようですが、販売と同時にエンドユーザーに向けたアピールが大切だと思います。社員の車の中には長靴と作業着が入れてあります。新入社員研修では、全員に長靴を履かせ田んぼの中を歩かせています。農家と一緒になって営農や生活のことを考えるという姿勢が、何よりも大事だと思います。
――ありがとうございました。
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