農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

史上最低の米価に苦しむ米産地
北海道、手取りは1俵1万円、生産費もまかなえず…
 16年産米の価格がかつてない水準に下落している。米価格形成センターの2月入札結果では、全銘柄の60kgあたり平均指標価格は1万5243円。同時期の15年産米は1万9939円。15年産は不作だったために高騰したが、平年作だった14年産とくらべても500円以上安い。流通関係者からは「下げ止まった」という見方もあるが、北海道など産地によっては現在の価格水準では稲作所得基盤確保対策での補てんがあっても、生産費もまかなえない見通しも出ており稲作経営維持に不安が募っている。16年度は米政策改革の初年度だったが、「制度は十分に機能していない。見直すべきだ」との声が産地から出ている。

◆広がる産地間の価格格差

 16年産米の平均指標価格は2月第9回入札までの平均で60kg1万5719円と過去最低水準となっている。(図1)卸関係者には価格は下げ止まったとの声はあるが残念ながら一部の銘柄を除き上昇は望めないとの見方もある。このままの水準では平均指標価格が過去最低となることも懸念される。作況指数は全国で「98」。豊作でもないのになぜここまで下落するのか、所得確保ができない、という産地の声は16年産入札開始以来強まっていた。
 もちろん新潟・コシヒカリや福岡・夢つくしなど価格上昇している銘柄もある。こうした状況をふまえて農水省の石原事務次官は4月7日の定例会見で価格が一貫して上昇している銘柄もあることや、価格が低下しても豊作の県もあることから、収量増によって「かなりの部分は補われているのではないか」と語った。
 さらに米価下落への影響を緩和するための稲作所得基盤確保対策、また、担い手経営安定対策もあるため「経営の安定という意味では完全ではないと思うが、かなり緩和されているのではないかと判断している」と話した。
年産別平均指標価格の推移

◆北海道は手取り1万円?

 次官の発言が報じられると産地からは、実態を見ていないと反発の声が上がった。北海道農協中央会にも「抗議するべきだ」との声が続々と寄せられたという。
 実際、北海道産の米は厳しい状況にある。2月の入札結果は「きらら397」が60kg1万2601円、「ほしのゆめ」が同1万2600円となった。
 北海道の16年産作況は全国と同じ98。したがって、価格低下があっても収量増で「かなりの部分は補われる」、という状況にはそもそもない。
 「稲得(稲作所得基盤確保対策)のサポートがあっても、手取りは60kg1万1000円になるかどうか。1万2000円代を確保することはまずない。経営への影響緩和どころか、生産費に届かないのが実態だ」と同農協中央会は強調する。

◆資金不足で補てん額は約半分

 稲得のサポートがあったとしてもなぜ生産費すら補えない水準になってしまうのか。
 北海道の稲得の発動基準価格は60kg1万5688円だ。現行の仕組みでは基準価格との差額の5割を生産者と国が拠出した基金で補てんし、さらに国は同制度への加入者には60kgあたり300円の固定部分を支払うことになっている。(図2)
 北海道の基準価格から単純にどれだけ補てんされるかを考えてみると、空前の低価格60kg1万2600円を最終的に16年産価格とすれば基準価格との差額は3000円程度。したがって、半額の1500円分の補てんと固定部分300円を合わせて1800円程度のサポートがあるのではと考えるかもしれない。
 しかし、「実は基金不足で満額でも780円程度の見込みとなっています」と道庁農政部。しかも、この額は300円の固定部分も含めてのことだという。つまり、価格下落に対する補てんは480円と約30%しか支払われない実態にある。
 なぜ、このような基金不足に陥ったのか。それは、そもそも基準価格の5%(生産者2.5%、国2.5%)を拠出することになっているため初年度の16年産は780円程度しか基金造成できなかったことに加え、旧稲作経営安定対策とは違って、資金が不足した場合でも借り入れて補うことができないためだ。新制度では積み立て額の範囲内でしか補てんできないことになっているのである。

稲作所得基盤確保対策のイメージ

◆大規模農家のコストはまかなえるというが…

 こうした北海道の実態については4月11日の参議院農林水産委員会でも質問されたが、農水省の村上総合食料局長は、稲作経営への影響を一定程度認めながらも、稲得60kg780円の支払いでも「北海道の大規模経営のコストはまかなわれる見込み」と答弁している。
 北海道中央会によると生産者手取り価格は販売価格から60kgあたり2000円を上回る流通経費を差し引いた額になるという。北海道の場合は輸送費がかかるため本州の産地よりもやや高くなる。
 現在の価格水準1万2600円なら手取りは、冒頭に紹介したように1万円が確保できるかどうかということになる。かりに1万円をやや上回るとして、それに稲得780円を上乗せした価格は1万1000円前後ということになる。
 一方、北海道の生産費(支払い利子・地代算入生産費、14年産)は、3haから5ha層では1万4060円。5ha以上層で1万1380円となっている。
 したがって、5ha以下ではコストは到底まかなえる水準ではない。また、5ha以上層でもぎりぎりカバーできるかどうか厳しい水準ではないか。
 「かりに大規模経営ならコストはカバーされるとしても道内の10ha以上層は3分の1。つまり、残りは切り捨てるという発想なのでしょうか」と道中央会。また、大規模農家は地域内の離農にともなって規模拡大を進めてきており、農地取得に多額の投資をしている。「その元金の支払いに迫られている。これは生産費で考慮される項目ではないから所得から支払う以外にない。所得低下の打撃は大きい」という。

◆そもそも発動されない 「担い手経営安定対策」

大区画の美田が広がる石狩平野(南幌町)の穀倉地帯
大区画の美田が広がる石狩平野(南幌町)の穀倉地帯

 北海道で稲得の基金が不足したもうひとつの理由は、国からの助成金の一部を米政策改革で新たに組みかえられた麦、大豆などの生産振興をはかる「産地づくり交付金」に振り替えたこともある。その額は約12億円。道庁によると国は稲得の基金不足は農業団体や行政の自主的な判断でこの振り替えをしたからではないか、といわば自分たちに責任もあるとの指摘を受けているという。
 「そもそも基準価格から20%も米価が下落するとは国もわれわれも想定していなかった。かりに産地づくり交付金に振り向けなかったとしても補てん金は300円増えるだけ。満額でも1080円程度だった。稲得の機能は十分ではなく中央会とも相談しながら制度見直しを要求していきたい」と指摘する。
 ところで、米政策改革にともなって導入された経営安定対策には、一定の水田経営規模以上などを要件とした担い手経営安定対策もある。北海道の原則的な加入基準は10ha以上だ。
 この対策は稲作収入の下落を補てんするもので基準収入との差額を9割補てんすることになっている。これだけ米価が下落しているのだから発動されるのではないかと思うが、実は発動基準収入を60kgあたりの米価に換算すると1万円を割らなければならないことになってしまった。実際には発動されることなどないのである。冒頭の次官の発言では担い手経営安定対策が措置されていることにも触れているが、北海道では機能しない。
 基準収入が米価換算で1万円などという水準になったのは、15年の不作と価格高騰、14年の低米価という異常年のデータも16年産基準価格を決める際には、「直近3か年平均」というルールから算定根拠とされたため。ただ、この点については、17年産からは県の作況が全国より10ポイント以上低い年を除外して算定することに改められたため、北海道では米価換算で1万3000円代となった。

◆政府米の過剰放出を問題視

 16年産米の価格低下についてはJAグループもその要因を分析してきた。それによると全国作付け面積が実際は前年比3万7000ha増えたことや、流通自由化、卸の経営悪化などを背景に指標価格を下回る仕入れへとシフトする傾向などを指摘している。
 そして、何よりも北海道で強調されているのが15年産不作に対し、政府が計画以上に政府米を放出したことだ。「政府には安い米を売りすぎだったのではないか、といいたい。卸が過剰在庫を抱えるなかで新米が出てくることになった」と道庁農政部も強調している。
 稲得への加入は生産調整の実施が前提だ。その生産調整に取り組んでもかつてない価格下落で、補てんを加えても生産費すらまかなえないのでは制度への信頼が揺らぐ。「国は現状を正確に認識し、制度の検証を行うべきだ」。これが産地の声である。
(2005.4.22)


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