農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

米価低迷と米流通の現場
センター指標価格では商談不成立 −強まる一方の川下主導
 4月22日に行われた16年産米の入札での全銘柄平均指標価格は60kg1万5368円と前回(2月)入札結果から120円程度とわずかだが上昇に転じた。ほとんどの銘柄で下げ止まりの傾向が見られたが、なかには前回入札よりも5%以上下落した銘柄もあり、産地にとって厳しい状況には変わりがない。なぜ、米の価格がここまで低迷するのか。今回は米卸など流通関係者の話をもとにレポートする。

 

◆形骸化する指標価格

 米の流通自由化で市場価格は、大手量販店などの決定力が強まってきたと言われて久しい。流通業界のなかでは青果物も含め価格競争だけでは生き残れないとして、栽培方法や生産履歴などにこだわった農産物の提供を戦略とする企業もあるが、米をその日の特価商品の目玉として消費者を引きつけるスーパーなどは多い。
 「それでも15年産までは米価格形成センターの入札で決まる指標価格は、商談の指標だった。しかし、今やまったく形骸化した。販売の一線では誰も指標価格とは思っていません」。ある卸関係者はこう話す。
 価格決定力は川下主導になったとしばしば言われてきたが、それでも15年産まではセンター入札の指標価格は取引の際の一定の基準となったが、16年産からはたががはずれたように指標価格は無視されているのが実態だという。
 理由のひとつが、実は米価格の下落そのものにある。
 前号でも触れたように不作だった15年産の平均指標価格は60kg2万1000円程度だった。それに対して16年産は1万5700円程度と35%ほども低下している。量販店等が売り上げを確保するには、昨年は単価が高かったために前年比増の数字を上げることが可能だったが、今年の安値では販売数量を増やして確保するしかない。店舗間の競争も激しいなか、売り上げ対策としては他店よりも安い米をたくさん販売する、ということにならざるを得ない。
 「今や、売れ筋商品といえば業界では同じ銘柄のなかの安い商品。質ではなく価格です」と別の関係者も指摘する。

16年産米の入札結果

◆販売価格から逆算する世界

 こうした厳しい状況のなかで、では、指標価格とは何なのか。
 「われわれの世界では、取引先が要求するのが、指標価格ということになります」。ある関係者は苦笑混じりにこう話す。
 たとえば、量販店からある銘柄の精米5kgを消費税込み1880円で売り出したい、と要求されたとすれば、「それに合わせた玄米を探してくるしかない」。
 この例で実際に小売り価格から消費税と小売りマージンを差し引き、卸自身が負担するとう精、運賃、袋代などのコストを差し引いてもらったところ、1kgあたり272円ほどになった。60kgに換算すると1万4500円ほどだ。
 指定された銘柄が良く知られた東北の米どころのブランド米であれば、今のセンター入札価格からでさえもこの価格のものを見つけだすことはできない。
 「要求された小売り価格から玉を探さざるを得ませんから、指標価格で仕入れるわけにはいかない。逆にいえば15年産不作にともなって政府米が大量に売られましたが、それはこのことで小売りの要求に見合った米が手当できると卸は考えたから。だから売れた」。
 政府米の放出で川下からの低価格の要求に応えるという傾向に拍車がかかったようだ。しかし、結果として卸の在庫は膨れあがり、さらに16年産の価格低下で差損を抱え経営悪化を招くことになっている。

◆JA直売数量の増大も影響

 ただし、販売価格ありき、という取り引きは業務用の世界では当たり前になっている。牛丼チェーン店など外食、弁当などの中食では年間取り引き価格を決めて契約している。その価格の考え方は、弁当や牛丼などの販売単価から決められてしまう。
 産地に売れる米づくりが求められるなかで業務用需要への対応も課題とされているが、「業務用需要の増大が米価格下落要因」というのも卸関係者の見方だ。
 たとえば、コンビニで売られているおにぎりは通常、1個で精米100g程度だが、家庭用精米で5kg2000円の米で換算すれば100g40円になる。家庭ではおにぎりを握るコストはかからないから価格に抵抗感はないが、加工コンビニで1個100円程度のおにぎりの米のコストとしては高い、半額の1個20円に、というのが納入業者の理屈となるという。こうした理屈の世界が広がり、米の価格は引き下げの方向に引きずられていっていると多くの関係者が見る。
 もっとも最近のコンビニのおにぎりは銘柄米志向が強いという傾向もある。そのために家庭用よりも良食味の米が求められるケースもあるという。「しかし、産地にとっては残念だろうが、安くなければ仕入れないという競争にわれわれはさらされています」。
 もうひとつ関係者から指摘されたのが、改正食糧法の施行で増大したJA直売数量だ。
 卸関係者によれば、「全農から仕入れるか、JAから直接買うか、という話になれば、JAから直接仕入れるメリットはどこにあるのかということになる。それはずばり価格。系統を通じて買うよりも安くなければ意味がないと考えるのが卸の判断。そのことも指標価格より安い実勢価格の形成につながっています」。
 この関係者はあえて産地JAにこう警鐘をならす。16年産ではJA直売数量は60万トンとも言われるが、こうした直売自体が価格形成を乱しているのではないかと指摘する。JAグループも全体として適正な価格形成となるよう直売についてはガイドラインを設定する方針だが、JAの販売戦略も価格形成に影響を与える重要なポイントとなっていることがうかがえる指摘だ。

◆売れる米ではなく「買っていただける米づくり」を

 米の流通制度が大きく変わるなか、産地では生産履歴記帳や栽培基準づくり、販売先との提携強化などに取り組んできた。しかし、販売環境は低価格志向が強まる一方で農家経営に打撃を与えているのが現状だ。
 こうしたなか産地が米づくりを続けるために卸関係者が率直に指摘するのは、もう一段の意識改革。「米政策改革は、政策もJAグループの取り組みも“売れる米づくり”をキーワードにしているが、われわれ販売の第一線からすると相手側に立った『買っていただける米づくり』が必要ではないかと思う」という。
 そのためにも必要なのが誰がどのような米を求めているかをつかむこと。業界では生き残りをかけてすでに17年産米の契約交渉が進められているという。とくに業務用では17年産米で指定された銘柄をどれだけの量の販売が約束できるかが問われており、卸にとっても「買っていただける米づくり」は必要なのである。
 「早晩、産地との契約栽培をして品質、生産量を確保をしておく時代になるのではと思う。そうしなければ卸としても生き残っていけない。競争が厳しく取り引き先の要求に応えるだけの裏づけがなければ商談になりませんから」。
 こうした指摘をする卸は多い。生産された米を仕入れてから販売先を探すというのでは今後は対応できないという見方だ。とくに家庭用の需要の低下が確実だと見込まれるなかでは「買っていただける」取り引き先が重要になる。
 「少子・高齢化もあって年間10万トン以上の需要減が見込まれていますね。そのなかでもとくに需要の落ちが見込まれるマーケットは何かをわれわれは考えています。産地も今、誰に売っているのか、その売り先で販売数量がこれからも維持できるのか。そこを見極めることが重要ではないでしょうか」。

(2005.4.28)


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