農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

JAグループの政策提案

地域農業の多様な実態をふまえた施策の確立を

将来展望を持てる
万全の財源確保が不可欠

 JA全中は7月7日の理事会で「米政策改革、品目横断的政策等の具体化に向けたJAグループの政策提案」を決めた。米政策改革では19年産から農業者・農業団体が主役となった新たな需給調整システムに移行するが、JAグループの政策提案では、産地づくり対策の財源確保や計画生産を実施する担い手の所得確保対策、過剰米対策の充実が必要だと強調している。
 また、品目横断的政策では、現行の品目別対策の手取り水準の確保を求めているほか、「過去の生産実績がない場合の対策」として、別途対策を講じる必要があるなどとしている。そのほか、農地・水・環境保全向上対策の具体化にあたっては、地方自治体の支援部分についての特別交付税などの措置についても国に要請していく。JAグループは、今後、7月13日に東京で全国代表者集会を開くなど特別運動を展開する。政府・与党は21日にも具体策を決める見込み。今回は政策提案の実現と強力な運動展開に向けJAグループの政策提案原文を紹介する。

米政策改革、品目横断政策の具体化がヤマ場

◆要求実現に向け運動展開を

 昨年10月に戦後農政の大転換となる「経営所得安定対策大綱」が決定し、19年度から新たな品目横断的政策や、農地・水・環境保全向上対策が実施されることになった。また、品目横断的政策と表裏一体をなす米政策についても、新たな需給調整システムに移行する方向が示された。
 米政策改革では、JAグループは新たな需給調整システムの条件に限定することなく、現行の米政策改革の状況全体を検証する観点からの検討が必要との立場で主張してきた。新たな需給調整システムへの移行検討会では、生産調整の実効性を確保するとともに、▽計画生産に確実に取り組む担い手に対する経営所得確保対策、▽担い手をはじめとする水田農業経営が一定の所得を実現できる主食用米以外の作物対策、▽過剰米対策と主産地での需給調整の取り組みを支える支援対策が不可欠と強調してきた。
 また、品目横断的経営安定対策の具体化では、現行の手取り水準が確保されることや、面積を基準にした直接支払いでは、その基準が過去の作付け実績とされることから、転作の拡大にとももなう対象品目の新たな生産拡大についても、生産コストをまかなう支援策が別途必要になることを主張してきている。
 農地・水・環境保全向上対策でも支援水準を十分に確保できる財源と、この支援策が地方自治体も負担することになっていることから、地財措置などによる財源確保で、全国的に実施が可能になるよう決定されるべきだとしてきた。JAグループでは6月1日から組織討議を実施してきた。以下が政策提案。

◆JAグループの政策提案

 平成17年10月の「経営所得安定対策等大綱」決定以後、19年産からの担い手を対象にした品目横断的経営安定対策の導入に向け、JAグループでは、地域ごとの実態に即した担い手づくりに組織の総力を挙げて取り組んできたところである。
 一方で、WTO農業交渉が難航し、また米をはじめとする農産物価格の低迷や経営の将来不安が増すなかで、地域農業の将来を支える担い手づくりの取り組みにも影響を与えかねない状況となっている。
 このようななかで、新たな品目横断的経営安定対策、米政策改革推進対策、農地・水・環境保全向上対策、甘味資源作物政策の予算・水準等を決定するとされているが、この農政の転換を機に、担い手の経営安定や地域農業・農村資源保全の振興を一体のものとして具体化することが求められる。
 特に、わが国の主食である米の需給と価格の安定は、水田農業の経営に直結する課題であり、品目横断的政策とあわせ、米の計画生産の実効確保と担い手の経営安定をはかっていくことが重要な課題である。
 よって、米政策改革の推進、品目横断的政策等の具体化にあたっては、わが国農業・農村の将来を展望でき、かつ多様な地域農業の実態を十分ふまえた具体的な施策を確立し、万全の財源確保対策を講じるなど、下記の政策提案が実現するよう強く要請する。

T.米政策改革における新たな需給調整
システム移行への条件整備対策の確立

1.米の需給と価格、経営の安定に資する米政策改革支援策の確立

 ○「米政策改革大綱」のもとで、新たな需給調整システムに移行するためには、19年産からの米政策改革支援策の万全の財源確保を前提に、計画生産の実効確保がはかれる条件を整備すること。
(1)計画生産に取り組む担い手づくりと経営所得確保対策
 ○19年産からの担い手を対象とした新たな収入減少の影響緩和措置を講じても、米の需給不均衡により大幅な収入下落が生じる場合には、計画生産に取り組む担い手を対象にした所得確保のための対策を講じること。
 ○新たな品目横断的政策の対象者となる認定農業者等は、生産調整の実施を資格要件とする運用の徹底や、計画生産に取り組む担い手への税制上のメリット措置を講じること。
 ○担い手以外の計画生産実施者を対象とした新たな「稲得対策」は、計画生産の実効確保をはかるため、十分な単価と財源確保をはかること。
(2)産地づくり対策の財源確保と水田の利活用をはかる作物対策の充実・強化
 ○今後も引き続く米の需要減に対応でき、かつ、地域の創意工夫のもとに米の計画生産と水田の利活用をすすめるため、19年産以降の産地づくり交付金の十分な財源確保をはかること。
 ○主食用米以外の作物を作付けしても手取りが確保され、水田の有効活用もはかれるよう耕畜連携対策の強化や、バイオマスエネルギー・飼料用米、輸出・援助米等の新規作物への支援対策を仕組むこと。
 ○転作の拡大による麦・大豆の新規作付けによって、品目横断的政策の面積支払がない場合には、別途の助成措置を講じること。
(3)集荷円滑化対策の充実・強化と過剰在庫への支援対策
 ○19年産以降の集荷円滑化対策については、豊作分の区分出荷を行う生産者の手取り水準の増額や、在庫対策への支援への活用等が機動的に実施できるよう見直し、強化すること。
 ○集荷円滑化対策への参加は、産地づくり交付金や、新たな「稲得対策」、担い手の品目横断の収入下落緩和対策の要件とするよう運用し、米の計画生産と集荷円滑化対策の実効を確保すること。
 ○計画生産や豊作分の区分出荷の実効性によっては、米の出まわりが遅い主産地等を中心に在庫が生じかねず、政府米の役割発揮とあわせて、在庫発生にともなう取り組み拡大を支援する対策を講じること。

2.計画生産の実効確保をはかる需給調整システムの仕組みの確立

 ○都道府県・地域水田農業推進協議会の機能を強化し、計画生産の実効確保をはかるためには、国・行政の役割発揮のもとで生産調整方針非参加者への徹底指導をはかるとともに、協議会の円滑な運営のための支援措置を講じること。
 ○国の需要実績に基づく都道府県別の需要量の算定方式については、本年産を含めた作付状況や作柄、需給調整の取り組み状況を踏まえ設定すること。

U.品目横断的経営安定対策の具体化

1.担い手の経営安定をはかる品目横断的政策の単価水準の設定と財源確保

 ○品目横断的政策は、現行の品目別対策の財源確保を前提に、WTO農業交渉の進展など、国際情勢の変化にも対応できる仕組みとし、収入減少の影響緩和対策も含めて、担い手づくりの取り組みに即して万全の財源確保をはかること。
(1)現行手取りを確保する品目横断的政策の単価水準の設定
 ○麦・大豆、てん菜、でん粉原料用ばれいしょの生産条件不利補正の交付金水準は、現行の手取り水準を確保すること。
 ○過去の生産実績にもとづく「面積単価」と当該年の数量・品質にもとづく「数量単価」の比率は、国際規律の強化にも耐えうることを基本に、品目ごとの特性もふまえて設定すること。
(2)過去の生産実績がない場合の対策の確保
 ○担い手の転作拡大にともなう麦・大豆の作付拡大や経営規模の拡大、新規就農等、過去の生産実績を持たない担い手の対象品目の作付拡大に対し、「面積単価」に相当する別途対策を講じること。
(3)現行を基本にした品質に基づく「数量単価」の設定
 ○数量・品質にもとづく「数量単価」は、良品質生産に結びつき、努力した生産者が報われるよう、現行を基本に、適切な基準の設定と単価水準とすること。

2.担い手の収入減少の影響緩和対策の運用強化

 ○担い手に対する収入減少の影響緩和対策の対象者は、米の計画生産実施者となるよう認定農業者制度の運用の徹底をはかるとともに、担い手の加入メリットがある仕組みとすること。

3.円滑な移行を確保するための措置

 ○品目横断的政策移行後も、対象品目の需給と価格の安定や円滑な流通を確保するための品目ごとの重要な仕組み・機能は維持・継続すること。
 ○品目横断的政策への担い手の円滑な加入や事務負担の軽減をはかるためにも、JA等が行う代理申請等の事務について、国・農政事務所の支援策を措置するとともに、担い手づくり、産地づくりなど、行政・JA等の関係機関が一体となった推進や運営体制に対する支援措置を講じること。

V.農地・水・環境保全向上対策の具体化

1.資源保全の「共同活動」への支援への財源確保

 ○資源保全の「共同活動」への支援対策は、取り組みが全国的に展開できるよう、国の支援部分について十分な財源を確保すること。
 ○地方公共団体の裁量による仕組みの追加や中山間直接支払の実施地区での追加要件については適切に設定すること。

2.環境保全の「営農活動」への適切な支援単価の設定

 ○環境負荷低減等の先進的な「営農活動」への支援対策は、品目ごとの取り組み実態を踏まえて適切な助成単価の水準とするとともに、共同で行う環境負荷低減に向けた取り組みへの支援措置を確保すること。

3.地方自治体の負担分の財源を確保する対策等

 ○資源保全の「共同活動」、環境保全の「営農活動」は、地方自治体の支援部分(国と応分負担)について、特別交付税等による地財措置を含めて十分な財源を確保できるようにするとともに、地域協議会に対して、十分な推進支援を措置すること。

JAグループの政策提案
(2006.7.13)

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