農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

「協同組合らしさ」を競争の軸に
ヨーロッパ生協の全国・地域連帯に学ぶ
田代洋一 横浜国立大学教授
 巨大スーパーマーケットなどの進出に対して協同組合はどう対抗すればいいのか。生協では事業を広域で展開する事業連合の機能強化や、さらには全国規模での商品開発や共同仕入れをめざしている。こうした事業方式をすでに実現しているのがヨーロッパだ。横浜国立大学の田代教授に現地の動きとJAグループが学ぶべき点について寄稿してもらった。

◆スモール・イズ・ビューティフル?

田代洋一氏
たしろ・よういち 昭和18年千葉県生まれ。東京教育大学文学部卒業。経済学博士。昭和41年農林水産省入省、林野庁、農業総合研究所を経て50年横浜国立大学助教授、60年同大学教授、平成11年同大学大学院国際社会科学研究科教授。主な著書に『新版 農業問題入門』(大月書店)、『農政「改革」の構図』(筑波書房)、『食料・農業・農村基本計画の見直しを切る』(同)など。

 日本の生協は県域を越えて展開できないため、全国展開できるスーパーマーケット(以下SMとする)チェーンに対して、県域を越えたリージョナルな事業連合を作って対抗してきた。そして今日、ウォルマートやカルフールなどの多国籍企業の日本上陸に対して、広域事業連合の強化、それと日生協とのタイアップによる全国的な商品の開発・仕入をめざしている。その背中を押したのは、「競合が進出する前に先手を打たないと負けですよ」というヨーロッパ生協のアドバイスだ。そこでの教訓は、戦略意思の統一に基づく、全国共同仕入や広域事業連合化である。
 日本の農協は規模の経済をもっぱら単協合併のかたちで追求している。しかし農協の事業部門ごとの適正規模に違いがあるなかで、事業ごとの広域事業連合を追求するのも一つの手ではないか。また「農協のあり方研究会」では、JAの直接販売や直接仕入を強調し、全農は代金決済や情報提供機能に特化すべしとしている。競合がいよいよ多国籍化・巨大化するなかでのスモール・イズ・ビューティフルの追求は、やっとの思いで全国統一仕入を果たしたヨーロッパ生協からすれば驚きだろう。このような日欧比較を念頭に、昨秋、イギリスとイタリアを駆け歩いた。

◆イギリスの全国共同仕入
 2001年に全国共同仕入れに総結集

 イギリスは協同組合発祥の地だが、1960年代以降はシェアの凋落をみてきた(現在の食品市場シェアは6%)。卸売連合会であると同時に小売も行うCWSが、最大の小売生協であるCRSとの合併を追求してきたが、なかなか果たせないなかで1997年には若手実業家によるCWSの乗っ取り騒ぎも起った。それを乗り切ったCWSは、財政破綻したCRSとの合併を2000年にようやく果たし、CG(コーペラティブ・グループ)と改称した。イギリスは今日では、このCGが全生協事業高の5割以上、その他9大生協と併せれば9割以上を占めている。
 イギリス生協は、テスコ、アスダ等がSMの主流になるなかで、10年前からCVS(コンビニ)に力を入れてきた。日本のミニ・スーパーに近く、300平方メートル以下の売り場で、市街地や郊外住宅地に立地しており、SMで週1回買い物するにしても、足りない物を生協のCVSに毎日買いに来て欲しいという意味で「ウエルカム」と呼んでいる。
 同じ頃CWSは他の三大生協とCRTG(共同仕入機構)を作った(93年)。その後参加が増え、最後まで単独仕入でがんばっていたナンバー2のユナイテッド生協も2001年に参加するに及んで、CRTGはほぼイギリス全生協の食を中心とする共同仕入機関になった。
 CRTGは、仕入価格の決定、品揃え、プロモーションと同価格の決定、売り場スペースと棚割り(フェーシング)計画を行う。CGの開発商品(PB比率は50〜60%)もCRTGのルートにのる。

◆強い価格交渉力で仕入れ価格を改善

 それに対して単協は、プロモーション以外の売価決定、店舗開発、店舗運営を担う。出閉店、店舗レイアウト、展示場所は単協が決めるが、CRTGにパネルを設置し、デザイン、カラー等を検討しており、単協はそれを大いに参考にしている。メーカーへの発注、代金支払いは単協が直接に行い、リベートはCRTGにプールされたうえで単協に配分される。
 単協は10%までは地域仕入を認められるとともに、欲しい商品についてはCRTGにとりあげてもらうよう申し込む。メーカーが単協を訪問することは禁じられ、CRTGは単協が共同仕入等を守っているかを定期的にチェックしているが、95%は守られているという。
 CRTGは共同仕入機構といっても、そのインフラと実務は全てCGに依存しており(バイヤーの多くも単協からCGに移籍)、最大単協のCGとCRTGは一体のものともいえる。そこでCG支配にならないように、戦略・監視・実務に関する三段階のガバナンス機構を設け、CRTGトップはCG以外から選出するようにしている。
 全国共同仕入が最も効果を発揮しているのは価格交渉力であり、かなりの仕入価格の改善を見ている。ユナイテッド生協も仕入力では絶対に負けないと思っていたが、条件的に劣ることが判明して参加を決断した。参加のメリットは価格、品揃え、リベートの順である。イギリスではコンビニの伸び率はSMより高く、「生協のルネッサンス」とも言われるが、CVS特化で競争に生き残れるかは今後とも課題である。

◆イタリアの全国共同仕入・事業連合
 食品シェアはカルフールを抜いてトップ

イタリア ハイパーマーケット
イタリア ハイパーマーケット
 イタリアは日本と同じく小規模小売業が林立していたが、生協陣営はSM業態への転換を図るなかで1968年にコープイタリア(全国生協事業連合)を設立し、それまで地域の事業連合が行っていた仕入・物流を全国統一し、金融的にも単協を支援するようになった。その後オイルショック後のインフレのもとで多くの生協が不振に陥った。コープイタリアがそれを救済するなかで全生協がコープイタリアに加盟することになったが、その際にコープイタリアは契約機能(価格決定)に純化することとした(メーカーとの債権債務は単協責任)。従来の直接仕入のやり方だと1単協の経営危機が生協陣営全体に波及するためである。
 その後80年代に生協陣営はハイパーマーケット(HM、ほぼ6000平方メートル以上)業態の導入にいち早く取り組んで同業態でトップにたち、今日もSM、HM含めて食品全国シェアは18%で、2位のカルフール10%を引き離している。また生協陣営は果敢に合併を押し進め、現在は9大生協が事業、組合員数の9割を占めている。
 コープイタリアは、コープ商品(PB)の開発、品揃え、仕入価格、セールスプロモーション等に責任をもつ。商品を、(1)品質面でのリーダー商品(NB)、(2)市場リーダー商品(NB)、(3)COOP商品、(4)ローカル商品、(5)低価格本意の商品の5カテゴリーに分け、(4)を除く商品をコープイタリアが直接に仕入れる。(4)は単協が仕入れるがその最終決定権と品質等のチェック責任はコープイタリアがもつ。コープイタリアの経費は、単協が事業高の0.2%程度を支払うかたちで負担する。
 このような形で全国統一仕入のメリットとローカル性重視の折り合いをつけたわけである。コープ商品はコープイタリアが開発するが、かならず全国500人規模の単協組合員のブラインド・テストを行ったうえで採用する。
 単協は仕入量と売価を決める。出店(箱づくり)は単協が行い、コープイタリアはハードには一切タッチしないが、店の業態、フォーマット、レイアウト等についてはコープイタリアが単協理事長、専門家とともに研究している。

◆広域事業連合もスタート

イタリア HMの食肉売場
イタリア HMの食肉売場

 イタリアでもここ数年いよいよ低価格競争が強まるなかで、生協陣営は、全国3地域ごとに広域事業連合を立ち上げ、これまで単協が行っていたカテゴリー(4)の仕入れを統合して行うことにした。つまり地域性の追求をリージョナル規模にまとめたわけである。こうして2003年10月にアドリア海沿岸地域に広域事業連合が立ち上げられた。
 事業連合はカテゴリー(4)について、品揃え、仕入れ価格・売価の決定、プロモーション、ロイヤリティ、宣伝、棚割(フェーシング)を行う。店頭売価は、HMの青果と魚は各店舗が決めるが、それ以外は全て事業連合が決める。とはいえ各地域における競合との関係で、単協からの売価に関する希望は聞くことになる。グローサリー、冷凍品、精肉、非食品についてはカテゴリー別仕入れ、乳製品、総菜、魚、青果物についてはエリア別仕入をしている。

◆ヨーロッパと日本の比較
 戦略意思の統一で国際競争に対抗

 イギリス、イタリアに共通するのは、全国規模でクリティカル・マス(競争力を発揮しうる商品結集)を追求して統一仕入価格を実現し、品揃え、プロモーションも全国規模で行い、単協は仕入数量や売価を決め、メーカーへの債務を負い、店舗運営に徹するという、全国規模でのスケールメリットの追求と地域密着でやることとの分業関係の徹底である。ただしイギリスの仕入は一本だが、スローフードの国イタリアでは、地域性を重視し事業連合の仕入も加わるという違いがある。
 このようなヨーロッパと日本を直接に比較することはできない。日本はなお多数の単協があり、業態も共同購入と店舗の両方をもち、また巨大な問屋資本が介在する。しかし、ヨーロッパも単協数を一桁まで減らしたが、これ以上の統合は展望していない。地域に組合員がいるメリットを大切にしなければいけないというスタンスである。
 このような単協合併、全国連結集を果たすにあたっては、気の遠くなるような話し合いが必要だっただろう。個性や地域性の強いイタリア人気質からすればなおさらである。にもかかわらず、いったん決めたらその戦略意思の統一はみごとなものである。その背景には統合EU市場における低価格化をめぐる激しい国際競争がある。

◆日本の農協は何を学ぶか

 日本の生協がそこまでいくのは時間がかかるだろう。何がなんでも統一ということではなく、一致できるところからの統一が大切である。ヨーロッパにはなくて日本の生協だけにあるのは、商品開発への単協組合員の参加である。ヨーロッパはせいぜいモニター機能にとどまる。日本はこの「協同組合らしさ」の発揮を国際競争の軸に据えるべきである。
 翻って日本の農協は何を学ぶか。全国統一仕入という点では既に全農という達成がある。
 問題は、それが全国農協の戦略意思の統一に基づくクリティカル・マスの結集で、真に価格交渉力を発揮できているか、そこで実現した低価格を単協まで貫徹できているかである。問題の原点にたちもどった論議と位置づけが期待される。

(2005.2.10)


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