農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

改正農協法施行とJA共済事業のこれからの課題
今尾和実 JA共済連専務理事
梶井 功 東京農工大学名誉教授
 今後のJA共済事業運営に大きな影響がある改正農協法が4月1日に施行される。今後、JA共済の推進などで法令遵守が求められ現場には厳しい面もあるが、JA共済連の今尾和実専務は、事業発展のための「宿命」だとして組合員、利用者の信頼や満足の獲得に務めることが重要だと強調する。JA共済事業を取り巻く情勢も含め、今後の課題を話してもらった。聞き手は梶井功東京農工大学名誉教授。


◆農協法改正と保険業界の反応

 梶井 4月1日から改正農協法が新たにスタートすることになります。まず改正農協法とJA共済事業をめぐる状況についてお話いただけますか。

 今尾 農協法改正案は関係各位のご尽力により昨年6月に国会で成立したわけですが、その後、この4月の施行までに省令改正をしていくことになっていました。しかし、実はこの省令改正については3月にずれ込んでいるという異常な状況です。この理由についてお話することがJA共済事業を取り巻く環境をご理解いただくことになると思います。
 今回の改正には、保険会社を子会社にすること、他の保険の業務代理が可能になったこと、また、自賠責共済・自動車共済で自動車販売店や修理工場を代理店にできるといった内容が盛り込まれました。
 こうした内容について、昨年来、保険業界から、たとえば、JAが他の保険会社の代理業務を行う場合、その対象に員外を認めることはまかりならない、という主張がなされた。
 保険会社の立場に立つと、ある地域の営業を自社の営業マンでやるのは効率が悪いから代理店に全面的に任せよう、というのが普通の考え方ですよね。ところが、JAの代理業務の対象は組合員に限定すべきだと主張してきたのです。
 これについては業界や行政庁の一定の理解を得て、農協法に定められている、員外利用(組合員の事業利用分量の5分の1まで)と同一内容の規制にまで話を戻すことができました。
 それから、販売種目にも要望が出されました。JAは信用事業をやっているのだから銀行と同じように、他の保険の代理をやる場合は窓販種目に絞るべきだ、というものです。
 これはむしろわれわれJA共済に対してというよりも、銀行の窓販拡大に対する保険業界からの立場があってのことでしょう。銀行は全面解禁を望んでいますから。また、営業マンを持たない外資系の保険会社も窓販拡大には賛成でしょうからね。

◆少子・高齢化で競争激化の時代へ

今尾和実 JA共済連専務理事
今尾和実
JA共済連専務理事

 今尾 省令改正が遅れたのは、こうした業界の業際問題のなかにわれわれが巻き込まれてしまったということです。 業界では大変にこだわりが強いのですが、ただ、冷静になってみれば保険業界の危機意識は分かります。この問題では財界からも提言が出されており、准組合員や員外利用の徹底管理なども提言されています。

 梶井 その理由についてはどう分析されておりますか。

 今尾 やはり日本社会の少子・高齢化の進行がひとつの理由だと思います。共済・保険市場のパイが増えていきませんから、市場の奪い合いにならざるを得ない。そのため保険会社のなかには中国に合弁会社をつくるなど海外に市場を求めるという動きもありますが、私たちは協同組合保険ですからそうした対応はとれません。JA共済にとっては非常に厳しい環境、と認識する必要があると思っています。
 そういう状況のなかで今後も保険業界の合衝連衡が進むでしょうから、われわれが共栄火災を子会社化したことは、長期的に見て将来有効であると考えています。

◆地域への貢献が安心な暮らしとJA共済事業の発展もたらす

 梶井 財界が執着する株式会社の農業参入と同じで、員外利用の問題などは今後も繰り返し主張してくるかもしれませんね。

 今尾 ですから、私たちは地域に貢献する組織である、という意識をもっともっと強める必要があると思います。JAの事業に利便性、メリットを感じているという組合員、利用者がいることがわれわれの強みです。他の業界から員外利用はけしからんといくら言われても、地域で農協の事業を利用している人から、農協は必要だ、と言ってもらえればいいわけですね。それがJAの事業展望が拓けるいちばんの道だと思います。

 梶井 地域に貢献するという視点での活動を強化するということですね。そのことが結局は共済事業にも結びつくという話は、JAの組合長さんからしばしば聞きます。地域の主産業は農業ですからそれが中心になるのは当然ですが、今は地域協同組合としての活動をやらざるを得ない時代になっていると思いますね。

 今尾 ええ。たとえば、今、360ほどのJAが介護保険事業をやっていますが、その内容は訪問介護と遊休施設を利用したデイサービスが中心で、これは施設型ではないJAの新しい事業だと思います。そうした事業のバックアップをする活動に今後とも取り組んでいきたいと思っていますし、共済事業として介護保険制度とどう連携をしていくかということも議論しているところです。これもぜひ詰めていきたい課題です。

◆ニューパートナー獲得の意義と課題

 梶井 JA共済の推進という観点ではどのような課題がありますか。

 今尾 少子・高齢化の問題はありますが、JA共済が提供している「ひと・いえ・くるま」の3つの保障事業のうち、3事業とも利用している組合員・利用者は実は20%にとどまっているというのが現状です。残り80%は3事業のうち、1つか2つしか利用していないわけですから、まだまだ取り組むべきことは多いと思います。
 JA共済事業全体としては年間30兆円近くの長期共済新契約高がある一方、7兆円の保有減少です。保有減少の主な原因は満期と解約がありますが、われわれとしてはそのなかでも1年以内の失効解約をできるだけ少なくすることを目標にしています。1年以内の失効解約率は昨年は6.9%でしたが、今年度はこれを1%以上下回る実績で契約内容はよくなっています。それでも7兆円の保有減少ですから、課題として掲げているのが、がん、医療共済や自動車共済でニューパートナーを獲得して保有減少に見合う付加収入源をカバーするという取り組みです。
 このニューパートナー獲得については66万人という目標を打ち出しています。しかし、実績はまだその6割。その点では本当に地域で新しい人を獲得することに真剣に取り組んでいるのかどうかが問われていると思います。
 少子・高齢化という問題はありますが、3事業の利用促進にしてもニューパートナー獲得にしてもやる余地がある。われわれはまだまだ少子・高齢化の壁にぶつかっているわけではない、と考えるべきだということです。

◆JA共済は日本を代表する共済事業

梶井 功 東京農工大学名誉教授
梶井 功
東京農工大学名誉教授

 梶井 課題解決のための推進体制については改めて何かお考えですか。

 今尾 現在はLA(ライフ・アドバイザー)による契約が契約高の6割を占めていますが、一方で一斉推進の役割をどう考えるかということです。経済事業改革ではJAグループの基本方針として、部門別損益を厳格にするということですね。しかし、LA制度を導入したのでもう共済の一斉推進はやらない、と考えていいのかということです。
 そこで現在は一斉推進もしながら、契約内容の説明などの際にはLAや共済担当者が同行するという一斉推進のサポート体制をつくる必要があると考えています。この体制をつくるということの意味は、共済事業が他部門にも貢献していくはずという位置づけだということです。これまではたとえば、営農指導事業があるから共済に結びついている、という面ばかりが指摘されがちでしたが、逆に他部門の収益を共済事業がサポートするという面もあるということを考えてほしいわけです。

 梶井 JAの事業はそれぞれが組合員にとっては関連しながら利用されているものですね。そういう意味では部門別損益というのはひとつの目安であって、あまり強調しすぎるとかえって問題だと思います。
 最後に改正農協法が施行される4月以降、共済事業の取り組みについてJAに対して強調しておきたいことがあればお話ください。

 今尾 大きく違うのは、事業の根拠が法律で定められていたのに加えて、従来通達により定められていた契約者保護や経営の健全性にかかる詳細が法律で定められたことです。これらについて、問題が起きればそれは法律違反ということです。ですからこれまで以上に法令遵守の精神に即した事業展開をお願いしたい、ということです。
 JA共済連の総資産は42兆円で業界からは巨大な事業だといわれており、それにふさわしい法整備という面では、今回の法定化について学者や保険関係者からは一定の評価を得ています。
 その点で、やはり契約時の説明、たとえば、共済金が支払われないケースなどについてしっかり説明をしていかなければならないと思います。
 厳しい面もあるかもしれませんが、これはJA共済が永続的に事業を展開するための宿命だと認識してがんばっていただきたいと思います。

インタビューを終えて

 専務が『共済総合研究』46に書かれていた提言「JA共済の歴史認識」は、短文ながらJA共済がこれから直面しなければならない問題を、少子高齢化、保険業界の攻撃、自然災害の多発化の3つに集約、的確に対処方向を示したいい文章だった。
 その文章のなかで、“地域に貢献するJAという視点での活動の強化が必要である”と強調されていたのが、私には、殊の外、印象的だった。インタビューのなかでも専務は、“他の業界から員外利用はけしからんといわれても、地域で農協の事業を利用している人から、農協は必要、と言ってもらえればいいわけですね”と言われていた。
 同感である。
 損保や外資系生保が問題にしている員外利用や準組合員制度は、共済だけの問題ではない。JA全体にかかわる重要問題である。専務が言われるように、地域の人から“農協は必要、と言ってもらえる”ような活動を全JAに期待したいものである。(梶井)

(2005.3.25)


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