農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

「食べ物」で保証される品質とは何か
どう反映するか生産者の意見
生協の青果物品質保証システム
 日本生協連は2月4〜5日に開催した「第21回全国産直研究交流集会」で、昨年の同集会で開発提案をした「青果物品質保証システム」の具体的な内容を提案し、実証試験に入ることを明らかにした(本紙1936号既報)。安全・安心を求める消費者の要望に応えるということで、農畜産物の生産・加工・流通・販売について、国や地方自治体、量販店などからさまざまな考え方や仕組み、基準、規範がつくられ、生産現場や生産者団体などにそれに従った生産管理が求められている。
 生協グループは、JAグループにとって産直をはじめとする重要な取引先の一つだといえる。そこで今回日本生協連から提案されたこのシステムの内容を紹介するとともに、その問題点を検証した。


◆専売特許ではなくなった産直事業の弱みを克服

 生協の産直事業を振り返ると、10年前くらいまでは「生協の専売特許」といわれたように「産直は生協の柱」であり「強み」だったといえる。しかし、その後は量販店や食品スーパーなどでも産直が取り入れられ「生協よりも生協らしい」といわれる店も出現してくる。さらに、無登録農薬や適用外農薬の使用や残留農薬の検出、BSEをはじめとする数多くの食品の安全性に関わる事故、そして商品のすり替えや表示違反などの偽装表示事件などが立てつづけに起きたが、生協の産直事業もこれらの事故・事件と無縁ではなく「柱であり強みであると思い込んでいた部分に弱みが見え隠れするようになった」(日本生協連産直担当・壽原克周氏)。
 専売特許ではなくなった生協の産直事業の「弱みをキチンと分析して埋めていく。そして強みをより強くする。その自己努力をしよう」(壽原氏)と産直事業委員会で論議されてきた。そして、生産者の顔が見える・栽培方法が分かる・生産者との交流といった理念的な「産直原則」を確かなものにする仕組み・基準を明らかにし、生産者、JAや生産者団体、加工業者そして生協が「やるべきこと、なすべきこと」の規範をつくり、「それぞれの主体者の責任を全うする」ことで「生協組合員に信頼される農産事業を確立する」ためにこのシステムが開発された。
 そして「農産品全体の品質を保証する基本的なマネジメントシステムを標準化」することで「すべての生協と産地の品質管理のレベルを上げ、食品の安全性をめぐる制度改正やビジネスの動向にいち早く対応できるよう」に「農産事業の再構築を目指す」。当面、産直事業における取り組みを先行して実践し、農産品全体に広げていきたいとしている。

◆ISOや欧州GAP手法を活用し、4つの規範を策定

 システム構築にあたっては、ISO9001の品質管理システム、欧米の適正農業規範(GAP)などの考え方・手法を活用し、▽ 規格・基準の決定:おいしさ、鮮度、安全性などを加えて品質の規格・基準を作成する。▽生産と流通の管理:生産、加工、流通の各段階の管理点を点検・確認するトレーサビリティの仕組みをつくる。▽認証:第3者認証、公開認証などによって上記を評価する。の3点を基本的な要素として策定し、すべての生協に共通の標準として「産直基準統一フォーマット」を作成するとしている。
 このシステムは▽適正農業規範 生産者・農家編▽適正農業規範 生産者団体・JA編▽適正流通規範▽適正販売規範 生協編の4つの規範で構成されている。生産現場から生協組合員の食卓までの規範をつくったことが大きな特色だといえる。各規範は「生協の組合員はもちろん一般消費者に、安全で安心できる“たしかな商品”として供給することが可能となる最低限の項目で、義務的な項目」である「必須事項」(表参照)と、「義務的ではないが、ここまで取り組むことによって、安全・安心はより確実なものとなり、特別栽培品や有機栽培品の基準を満たすことが可能」になる「推奨事項」に分類されている。

生協の青果物品質保証システムの主な項目(必須項目)

◆フォーマット統一には、いくつかの問題点も

 作成には、生協側からの「一方的な押し付けではいけない」という理由から、JAふくおか八女東京事務所の鶴田晋也所長代理、ながさき南部生産組合の近藤一海代表理事、多胡町旬の味産直センターの高橋清代表理事が参加している。
 JAふくおか八女は直販事業として、いくつかの生協や量販店と取り引きをしているが「求められる基本的な内容は同じだが、仕様や管理の様式が異なる」という。これは、複数の生協と取り引きする産地に共通する悩みだ。そういう意味で、生協だけでもフォーマットが統一されることは、産地に歓迎されるだろう。
 トレーサビリティについて、JAふくおか八女は、生産者が記帳した履歴記帳表をOCRで読み込み、栽培基準に合致しているかを自動的に判断する「農業情報センター」を構築。もし違反がある場合には生産部会を通じて出荷停止措置をとる。さらに「環境センター」が、無作為に農産物を採取し、残留農薬分析などを行い、申告データと分析データを比較し、もし違反がある場合には生産部会を通じて出荷停止措置をとる。現在は、茶・キュウリ・イチゴだけだが、今後、夏野菜・果実に拡大していくという。「トレーサビリティ関係は、現状でほぼできているが、衛生面では課題が残る。しかし、キチンと生産者に説明すればできる」と鶴田さん。
 だが、全国をみたときにJAふくおか八女のような条件が整っているところがどれくらいあるだろうか。規範のJA編では「生産者の記帳している作業日誌を定期的に確認・点検し、その記録を保管している」ことが必須項目とされている。JAふくおか八女が、こうした作業を自動的に行なえるシステムを構築した理由の一つに、作業日誌の点検作業に時間をとられて、営農指導員がほ場や生産者を訪れることが少なくなり「最近はちっとも来ない」と生産者からいわれたこともあるという。
 生産活動を支援する活動とそれを管理する作業のどちらに営農指導員は重点を置くのか。前者に重点を置くならばシステム構築が必要となるが、その費用は誰が負担するのか。
 現場の実態に即していえば、ある作物について複数の生協と取り引きし、その作物のある病害に適用される農薬が3つあるとしよう。A生協はXという薬剤を、B生協はY剤を、C生協はZ剤を使わないで欲しいと要望する。そうすると生産者を生協ごとに振り分けないと使える農薬がなくなってしまうことになる。そこまで踏み込んだ議論をして欲しいというのも、生産現場の切実な要望だといえる。

◆安全性重視だけで「品質」は保証できるのか

 こうした疑問はいくつかあるが、より基本的な疑問がある。それは、「青果物品質保証システム」と銘打たれているが「青果物の品質」とは何かだ。
 「食べ物」である青果物で保証される品質は、安全性や「倫理や社会的責任(環境問題や生産者の健康、公正な取引など)に関わる視点」ももちろん大事だが、鮮度や美味しさ、栄養価など健康面がなければ意味がないと思う。「いくら安全なものでも美味しくなければ売れない」という事例は数多くある。
 本来、食べ物に対する私たちの要望は、こういう美味しさ(糖度など)で、こういう栄養価のものを食べたい(作りたい)。そのために、このような栽培方法で、農薬や肥料はこう使って安全性を確保して欲しい(確保する)、ということではないだろうか。
 最近は、安全性を重視するあまり、この関係が逆になっているように思う。そうした視点でみると、これは「安全な生産管理システム」に見え、鮮度や美味しさという品質は見えてこない。
 BSE発生前後から食の安全性について語られることが多くなり、トレーサビリティをはじめさまざまな提案や意見がだされ、国は食品安全委員会を設置したり関連法規を改正している。その上に、量販店・生協などから数多くの規範・基準の類が生産現場に要求されている。その個々の要求に応えることが「消費者に軸足を移した」ことになるといわれ、生産現場は格闘しているのが現実だ。そしてそうした動きのベースに、少数の生産者・生産者団体が起こした事件・事故を理由にした「生産者不信」があるのではないかという疑問さえうまれる。
 もちろん生産者・生産者団体が果たさなければいけないモラルや社会的責任はあり、それはキチンと果たさなければいけない。それは前提だとしても、消費者あるいは量販店や生協など発注する側の責任はどうなのかが語られることはあまりに少ない。

◆発注者としてのモラル確立も必要

 冒頭でもみたように「商品のすり替えや表示違反などの偽装事件」によって「消費者はこれまで以上に食品の安全・安心を強く要望するようになった」ことが開発の背景にはある。
 生協に関わる「偽装事件」が起きた要因の一つに「欠品問題」があったことは周知の事実だ。このことに対する規範を明確にしなければ、こうした事件が再発する可能性は高いといえる。「適正販売規範 生協編」では「3.適正な取引の確立」で「違反・違約時の対応を文書化し、相互に確認」、「天候不順などへの対応策が相互に確認されている」とは書かれているが、「産地で可能な生産量を超える発注は、組合員の要望があってもけしてしてはならない」とは書かれていないからだ。「偽装事件」はコンプライアンス(法令順守)の問題といえるが、「欠品問題」はモラルの問題だといえる。発注者である生協のモラルを明確にすることで、この「規範」は重みを増すのではないだろうか。

◆生産者から基準・規範を提案も

 最後に触れておきたいのは、生産者団体であるJAグループには「全農安心システム」という先駆的で先進的な取り組みがあり、多くの生協がこれを活用していることだ。これとの関係をどう考えたらいいのかも明確にするべきではないだろうか。屋上屋を重ねるような「システム」の乱立は生産者に煩雑な生産・事務作業を強いる以外のなにものでもないからだ。
 さらにいえば、JA自身が数多くある消費側や行政の要望を整理し、自らが策定している「地域農業振興計画」と「全農安心システム」をベースに、どういう作物を、どれだけ、どのようにおいしく・健康によく・安全・安心に生産するか、という量と質を明確にした「品質保証システム」を作成し、提案したらどうだろうか。その方が、生産者は煩雑な作業から解放され、より生産に集中できるのではないか。

(2005.3.28)


社団法人 農協協会
 
〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町3-1-15 藤野ビル Tel. 03-3639-1121 Fax. 03-3639-1120 info@jacom.or.jp
Copyright ( C ) 2000-2004 Nokyokyokai All Rights Reserved. 当サイト上のすべてのコンテンツの無断転載を禁じます。