農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

日本生協連総会
低価格追求路線を強める
生協の2010年ビジョン



事業連合の確立で「経営構造改革」をめざす

 日本最大の消費者組織である日本生協連(小倉修悟会長)の第55回通常総会が、6月16〜17日に東京・品川のホテルで開催された(写真)。
 生協はJAグループにとっては、同じ協同組合の仲間であると同時に、産直をはじめとする国内農畜産物の重要な取引先でもある。そして最近は、農水省がパブリックコメントを求めた「新たな食料・農業・農村基本計画骨子(案)」に「金額ベース自給率目標の追加に賛成」という意見書を提出したり、産直事業を見直し新たな産直基準ともいうべき「青果物品質保証システム」(生協版GAP)の開発、さらに関税引き下げをも含む「日本の農業に関する提言」(以下、農業への提言)をするなど、日本の農業と生産者に大きな影響を与える提案を行なってきている。
 今総会の最大の関心事は、これからの生協陣営の方向を決める「日本の生協の2010年ビジョン」(以下、ビジョン)の決定にある。組合員数2250万人というナショナルセンターの動向がおよぼす影響力は大きい。農業に関わる論議を中心にこの総会を取材した。

購買事業全体に危機的な状況が継続
−「ビジョン」の狙い

 日本の生協は、2000年前後の生協全体の経営危機を克服するために、経営構造改革を最優先課題として取り組んできた。その取り組みのなかから個配事業の伸長、事業連帯の全国的な広がりなど、新たな展開が見えてきた。しかし「地域生協を中心とした購買生協の業績は、03年度は供給高こそギリギリで前年を維持」したが、「経常剰余率は1.2%のレベルにとどまり、事業構造改革の必要性が全国的に再確認される状況」になった。とくに収益改善の焦点である店舗事業は「経常剰余率がマイナス2.3%というきわめて深刻な状況」(ビジョン)だ。
 04年度も店舗事業は「経常剰余率は1ポイント改善されたが、依然、多くの店舗、多くの生協は赤字を続けている。61生協中53生協が赤字」(小倉会長)だ。さらに04年4月からの「消費税総額表示への対応不足などが重なって、供給高の前年割れと経常剰余金の大幅な減少が続き」店舗事業だけではなく「無店舗事業の採算悪化が確認され、購買事業全体の危機的な状況が継続」(ビジョン)している。そうした生協の経営を支えているのが、伸長著しい共済事業だ。

◆500店のSMチェーンづくりと1兆円の無店舗事業を進める

 こうした「事業経営の困難な現状を早急に克服し、店舗事業はもとより、無店舗事業や共済事業、福祉事業など、あらゆる分野での競争の強まりに対して生き残りをかけた改革を持続させ、2010年に向けた生協の事業目標を全国的なレベルで設定する」として、この「ビジョン」が提案された。
 ビジョンは、(1)事業「ふだんのくらしにもっとも役立つ事業」、(2)経営「コスト構造改革を徹底する経営」、(3)連帯「くらしへの最大貢献をめざす事業連帯構造の確立」、(4)組織「社会に開かれた組織」、(5)社会的役割「消費者組織としての社会的役割の発揮」の5つから成っている。
 「事業」では、「食を中心にすえ」「安全・安心を軸にふだんのくらしを支えられる商品の鮮度維持と品揃えの充実、競争に負けないリーズナブルな低価格の実現、組合員にとって利用しやすい便利な提供方法の開発を進める」としている。
 そして店舗業態の戦略としては、食品中心の「SM(スーパーマーケット)展開に集中して取り組む」とし、コープさっぽろ・東北サンネット・コープネット・ユーコープ・コープこうべの5つの「地域で存在感があり競争力のある」エリアをチャレンジエリアと想定して「全国で500店規模のSMチェーンづくりを進めて、将来に向け1000店規模のSMチェーンづくりを展望」する。
 無店舗事業では、「個配の毎年2桁成長を堅持して1兆円を超える事業規模を確立」する。また「班供給の縮小を抑え、無店舗事業全体の収益性の改善を進める」としている。そして、個配と班供給を合わせた利用世帯加入率を「現在の全国平均15%から20%」に引き上げる。現在、20%を超える県は「加入率30%」をめざす。
 商品面では「生鮮・惣菜の強化を、店舗と無店舗のそれぞれで重点的に取り組む」。そして「単品集中力と、組合員宅に直結した物流機能をもつ」生協の強みを活かしたSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)システムを事業連合と日本生協連でつくりあげ「値打ちのある低価格商品の開発を積極的に」進める。

◆事業連合の本部機能の形成が急務

 「経営」では、販売管理費の抜本的見直しをはかり、「販売管理費率20%以下を実現して、経常剰余率2%以上を安定的に確保できる経営を確立する。また、他の流通企業と比べて「労働分配率が高く労働生産性が低い」人件費構造改革に挑戦するとしている。
 「連帯」では、競争に打ち勝つためには、「社会的存在として一定の事業規模を形成する必要」があり、その規模は2000億円程度が求められるとし、そのために「リージョナル(県域を超えたエリア)事業連合等による連帯が不可欠」だとしている。そして事業連合機能の効果的な発揮のためには「本部機能の形成が急務であり」、無店舗事業における商品開発や仕入の共同化、商品案内の一元化をすすめ、「無店舗事業そのものの共同化を速やかに進める必要がある」としている。
 店舗事業でも、店舗運営能力を事業連合へ集約し、商品構成の統一とベンダー政策の確立、販促プロモーションの統一、物流や情報システムなど、各分野ごとにステップを踏んで統合し、「SMチェーン展開を成功させられるチェーン本部機能の確立をめざして」いく。
 さらにその意思のある「事業連合と日本生協連との機能ごとの統合に先行的に」取り組むことで「全国を視野に入れた厚みのある事業連帯」を進める。

地域生協と中心とした事業連合の規模
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関税引き下げの主張は格差が拡大する社会への対応
−低価格志向の背景

 他の項目については割愛するが、この「ビジョン」は、ある代議員が総会で指摘したように「“ビジョン”というよりは“経営構造改革”」という色合いが濃いといえる。
 その背景には、厳しい事業経営と同時に、生協は従来「“品質”に敏感な年収の比較的高い層から支持を受けて」きたが、最近は年収400万円以下という組合員が増えているので「厚みを増す低収入層への対応を強化していく必要」があり「“低価格”戦略に耐えられる、商品開発や商品調達力の強化とコスト対応力がますます重要」になるという認識がある。
 小倉会長は記者会見で「日本は所得格差がどんどん広がっていく社会になる。生活の厳しい人が増えてくるので、価格についてはできるだけ安くしてあげないといけないと思っている」と語った。
 そして格差拡大社会になると見たときに「高関税率の農産物がそのままでいいのか。消費者を代表する組織として、安い商品を買いたいと思っている人を背中に背負いながら、関税が高くてもいい、とはいえない」と、関税引き下げを主張した「日本農業に関する提言」の背景を説明した。
 これらの発言をみていくと、今後、国内の産地や生産者は生協との取り引きにおいて、従来以上に価格への要求が強くなると予想される。さらいえば、生協との取り引きだからといっても輸入農産物との競合が激化することを覚悟しておいた方がいいかもしれない。

◆“敷居は低い方がいい”薄れる協同組合員意識

 もう一つ気になったことがある。
 それは「買い物しかしない。共済だけで、組合員活動に参加しない人が増えている」ことについて「利用すること自身が活動であり、そこから生協のいろいろな考え方を知り、活動が始まる。だから“敷居”は低い方がいい」と伊藤敏雄専務理事が答えたことだ。
 従来は、意識の高い消費者の協同組合であり、オピニオンリーダー的存在として生協を見てきた。しかし、低価格志向で買い物しか利用しない生協組合員は、量販店や食品スーパーの買い物客と同じではないだろうか。生協が流通業者として2250万人もの消費者を組織し、事業規模を確保した半面、協同組合の一員であるという意識の薄い層が増加してきているということだろう。そうなると今回の「農業への提言」で立脚したと主張する「消費者の視点(立場)」とは、どういう視点なのか、改めてきちんと分析する必要があるのではないか。

◆ビジョンと一線を画す生協も

 総会では岩手県生協連の加藤善正会長が「産直や地産地消を通じて農業を守ろうとしてきた私たちの熱意、地域社会への貢献が反映されていない」とビジョンと「農業への提言」を批判したほか、「組合員が主体である取り組みをもっとアピール」すべき。「社会的貢献など力を入れるべきアイデンティティを提起することで力が発揮できる」(分散会)などの意見がだされた。
 総会での発言はないが、「ビジョン」とは一線を画すとする生協もある。事業連合に参加しているが、組織が大きくなると組合員との距離が開く危険性があるので、組合員参加・地域貢献など協同組合運動としての生協活動をきちんと実践するという生協もある。
 大勢としては「ビジョン」の路線でいくのだろうが、それとは異なる考え方を貫く生協もあり、それらを見極めた対応がJAや産地には求められるだろう。

◆「農業への提言」の論議はこれから

 なお「農業への提言」は、総会初日に会場で初めて会員生協に配布されたため、前出の加藤岩手県生協連会長以外の発言はなかった。伊藤専務理事は「農業にはいろいろな切り口がある。これをさらに論議してもらえればいい」と総会のまとめで述べた。小倉会長は「これはあくまでも消費者側からの一つの提案である。グローバル化とか口当たりのいい言葉や概念で淘汰される、排除される立場の人のことを忘れがちだが、それはよくない。提言を地域に持ち帰り議論して欲しい」と記者会見で語った。
 日本生協連では、今後、地連(北海道、東北、中央、関西、中四国、九州)、部会などで論議し7月9日に東京でシンポジウムを開催することにしている。

地域生協の経常剰余率の推移

(2005.6.23)

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