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検証・時の話題 |
農地法の「耕作者主義」は利用集積の妨げではない |
梶井功 東京農工大学名誉教授 |
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財界の調査機関、日本経済調査協議会が、また「農政改革を実現する」なる提言を発表した。農政改革木委員会中間報告(提言)と副題がついているから、いずれ本報告が出るのだろうけれど、新「基本計画」が閣議決定され、その「基本計画」が1つの目玉的な政策提言とした農地制度改変が、改正農業経営基盤強化促進法として成立した直後を狙って、この農地制度改変に異を唱えるかたちで出てきたものだけに、今後の政策に影響するところが大きいと思われるので、中間報告だがコメントしておくことにしたい。もちろん内容が問題だが、もう1つ木委員会と麗々しく委員会名をつけているのが、私には内容とならんで、あるいはより以上に気になる。元農水省次官、現農林漁業金融公庫総裁の名を冠したこの委員会が、新「基本計画」に基づいて農政当局がとった施策そのものに異を唱えることに違和感を覚えるからである。農地制度は更なる改変を強要されるのだろうか。 ◆70年改正ですでに利用集積の促進を明示 今の農地法は、“農地の利用と所有を一体化させて”はいない 「提言」は農地制度の問題点の最初に農地法第1条の「農地はその耕作者みずからが所有することを最も適当であると認めて」の文言を引用して現行農地法は“農地の利用と所有を一体化させている”という。確かに、かつてはこの第1条と第3条第2項2号の規定から、農地法は自作農主義に立っているとされたものである。が、その自作農主義農地法は賃貸借拡大を意図した70年改正で耕作者主義農地法に変わった。第1条の文言のあとに“並びに土地の農業上の効率的な利用を図るため”という一句を入れたこと及び第3条第2項に“必要な農作業に常時従事する”ことを権利取得の要件にする4号を新たに入れることで、その理念の転換が図られたのである。 ◆農業の収益性悪化こそ改善すべき農政課題 耕地利用率の低下、耕作放棄地の“急増”は農地制度が原因で起きたのではない 耕地利用率が低下し、耕作放棄地や不作地が“急増している現状を直視すれば現行農地制度の抜本的改革が急務であることは明らかである”という。ちっとも“明らか”ではない。耕地利用率の低下、耕作放棄地や不作地の“急増”は農産物価格の長期的な低迷に起因する農業の収益性の悪化、作っても損するだけという状況こそが生んでいるのであって、そこをなおすことこそが問題の要点である。中山間地域等直接支払制度が成果をあげて、その存続強化を望む声が強いことを木研究会は考えもしなかったらしい。 ◆参入規制の緩和で違法行為摘発が困難に 参入規制を緩和したら、“農地利用に関する違法行為の摘発と違法状態の解消”自体が困難になる 参入規制緩和は農地制度に関しての財界の最大の要求といっていいかもしれない。財界からの農政提言がこれをいわないことはないといっていいくらいだが、今回も“経営形態(これは企業形態の間違いではないかと思われるが)の如何を問わず”参入できるようにすべきことを提言している。目新しいのは“農地利用に関する違法行為の摘発と違法状態の解消を強力に実施するシステム・組織体制”が“参入規制の緩和に伴いより重要になってくる”といっていることである。
◆現行農地法制下でも多様な利用権設定はできる “多様な利用権の設定”は現行農地法制下でもできるし、定期賃貸借はすでに行われている。 提言は、“農地の長期安定利用のためには、例えば、宅地における「定期借地権」のように下限を定めることにもなる一定期間以上……を定めた賃貸借契約を認めるなど、多様な利用権の設定を可能にすることが重要である”という。新「基本計画」のなかに“農地版定期賃貸借権”という制度をつくれということが書かれていたが、このことなのであろう。が、この農地版定期賃貸借も、70年改正の際“10年以上の期間の定めがある賃貸借”についての更新拒絶を許可不要とする第20条第1項3号が加えられたことですでに可能になっている。 ◆“むら”の農地管理は“むらの農業者”で判断 転用許可権限は県知事にある。農業委員会は“意見を付して”申請書を知事に“送付”する立場にあり、知事は“農業会議の意見を聴かなければならない”が、“農業委員会の意見”が必ず通るわけではない。 前出の田子町の場合、立入調査もままならなかった町農業委員会は、転用不許可相当の意見を付して県知事に申請書を送ったが、県レベルの判断で転用許可になったのだった(前掲本紙)。 ◆目的は株式会社の利潤追求にありか? 本音は超低賃金外国人農業労働者雇用による農業経営を株式会社ができるようにせよということか。それは御免蒙りたい。 提言の終わりの方に、こういう一節があった。 |
(2005.7.8) |
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