◆前提条件つき評価は科学的か?
|
10月31日のプリオン専門調査会後に
会見する吉川座長 |
31日の調査会では結論部分の文言をめぐって議論が続いた。
代表的な意見は、今回の審議は、あくまでリスク管理機関である農水、厚労省の要請で行ったものであることを明確に書き込むべきだということだった。
国産牛肉の検査体制見直しの審議では、全頭検査実施で得られたBSE発生データや飼料規制、特定危険部位(SRM)除去などの状況といった、いわば具体的な証拠に基づいて審議することができた。そこが科学的な結論だという根拠となっている。
しかし、今回は米国、カナダから提出されたリスク管理の体制についての文書や農水、厚労省からの説明という材料があるだけだった。たとえば、SRMの除去についても原則的な体制は分かったにしても、実際にどの程度確実に行われているかといった実情が必ずしも示されたわけではない。
したがって、調査会では当初、諮問に答えることが可能なのかといった入り口論で議論になった。しかし、農水、厚労省は、昨年の日米協議で決まった日本向けの輸出プログラムが実施されることを前提にした評価を調査会に要請した。
この点を報告では明確にすべきという意見が出されたのである。金子座長代理は「(科学的データに基づいて評価するという)スタンダードをわれわれは変えたわけではないことを明確にすべき」と主張し、さらに「前提条件をつけて評価することが科学的かどうかという議論自体もされていないことも盛り込むべき」との考えも示した。
◆仮定のうえでの結論
こうした議論をふまえて結論部分では、米国・カナダについてのデータが「質・量ともに不明な点が多い」ことや両国のリスク管理措置の「遵守を前提に評価せざるを得なかった」ことを理由に、BSEリスクの「科学的同等性を評価することは困難と言わざるを得ない」と結論づけた。科学的な同等性についての評価は不可能だとしたのである。
その一方で、日本向けの輸出プログラムが遵守されると仮定したなら、米国・カナダの牛肉と国産牛肉のリスクレベルの「差は非常に小さい」とも報告した。吉川座長は「論理的な破たんはない」と話したが、非常に分かりにくい。
さらに、この評価結果は前提が守られなければ「異なったものになる」ことも明記し、輸入が再開される措置をとった場合は、プリオン専門調査会は輸出プログラムの実効性や確実に守られているかどうかの検証結果について報告を受ける義務があるとした。また、国民に報告する義務も記している。
「リスクの差は非常に小さい」とした点は、あくまで輸出プログラムが守られたという仮定での結論である。しかもリスクは日米でどちらが大きいかということには触れていない。吉川座長も「それに答えるのは無理ということだった」と述べ、「非常に小さい、という言葉が一人歩きしては困る」とも語った。
◆問われるリスク管理機関の説明
報告では結論への付帯事項もつけ、そのなかでSRM除去についての実態が不明で安全担保の実効性に疑問が残ることを指摘したほか、米国・カナダに対して汚染状況を正確に把握するためのサーベイランスの拡大、継続が必要なこと、BSEの増幅を防ぐためSRMの利用を牛以外の動物への飼料でも禁止すべきであることも強調している。
さらに、輸入再開したとしても、SRM除去が不十分な場合や月齢証明ができない場合など、「人へのリスクを否定できない重大な事態となれば、一旦輸入を停止することも必要である」と提言した。
審議の過程では輸入再開には慎重であるべきとの文言を盛り込むべきだと意見も出された。その意見は反映されていないが、リスク管理機関が米国に輸出プログラムを遵守させる責任があることや国民への説明義務などを明記するなど、農水、厚労省の責務を明確にした。
ただし、肝心の安全性についての評価は、国民に分かりやすい判断になったといえず、仮定のうえに立った安全性では不安も高まるのは当然だろう。
こうした結果を招いたのもそもそも諮問の仕方に問題があったという声は最後まで聞かれた。
吉川座長は「この部分は評価しなくていいから、この部分だけ評価してほしい、ということは不可能ではないか。今後は諮問を受け付けるかどうかの議論も深めるべき」と指摘した。
食品安全委員会はリスクコミュニケーションをふまえて農水、厚労省に答申する。それをもとに輸入再開しても「安全かどうかは、消費者が判断すればいい」という声も多い。
しかし、消費者の多くは単に牛肉の安全性を求めているだけではなく、安全な農産物生産について努力がなされているかどうかに関心がある。米国のサーベイランス体制や飼料規制などに疑問や不安が高まるのもそのためで、米国のBSE汚染の実態と撲滅に向けた取り組みが決して科学的に評価されたわけではない。
|