◆組織の継続問題も示す
この1年で新たに設立された集落営農は981。全国で1万481となり、前年にくらべて4%増加した。このうち担い手として期待されている「集落内の営農を一括管理・運営している集落営農」は1628で前年にくらべて10%増えている。
農地の集積面積は36万ヘクタールで前年より7000ヘクタール増えた。10ヘクタール以上を集積している組織が約8割で、20ヘクタール以上は約5割となっている。
品目横断的経営安定対策への加入を予定しているのは、2941で28%。「未定」が56%となっている。(図)
一方、この1年で解散・廃止となった集落営農は、563。農水省によると、このうち他の組織と統合したのが100ほどあるが、それでも460ほどの組織がなくなったことも示された。
集落営農の実態調査は2000年に実施され、当時は全国で9961だった。調査は昨年5年ぶりに実施され、その結果では1万63組織と5年間の増加率は1%だった。それにくらべてこの1年間の増加率は4%と急カーブを描き、増加率でみれば、まさに新たな経営所得安定対策の導入にともなう「集落営農フィーバー」(田代洋一横浜国大教授)を裏付けているといえる。
ただし、今回の調査で初めて集落営農の動態として解散・廃止が数として示された。農政の大転換のなかで、集落営農が要件はともかくとしても「担い手」に位置づけれるなか、一方で現場では集落営農の継続が困難になっている例も出てきているようだ。小田切教授はこれまでに集落営農が「分厚く存在していた北陸・中国での解散・廃止が目立つ。集落営農が継続できない理由など事例についての情報と分析が今後必要になる」と指摘する。同様に新規設立についても農水省はまだ分析はこれからだというが、どのような組織として立ち上がったのか、今後の情報が望まれる。
◆担い手要件クリア3割?
注目される品目横断的経営安定対策への加入意向については6割近くが「未定」とした。調査時点は5月1日であり、担い手新法も未成立で実施要綱も決まっていなかったため農水省担当者は「この段階の数字としてはまずまずではないか」と説明する。
もちろん集落営農といっても野菜、果樹をおもな作物とする組織もあるが、やはり、水稲、麦、大豆が大半。新たな経営安定対策の対象品目をおもな作物としている。
その経営安定対策の対象となる要件をどれだけ満たしているかをみると、「規約・定款の整備」は86%と高い。しかし、「出荷販売の一元経理」は32%、「組織名義出荷」は41%、「主たる従事者の所得目標設定」は19%であり、「法人化計画」については現に法人になっていたり、予定しているも含めて37%となっている。要件にはこのほか集積面積もあるが、それをのぞく条件だけでみても、ざっと3割程度の組織しか要件をクリアできていないことになる。
JAグループは全国で集落営農を中心とした担い手づくりに取り組んでおり、調査時点以降、秋の経営安定対策の申請開始に向けて、担い手要件をクリアするように集落営農組織を育成している例が増えていることは現地の取材でも聞く。
しかし、小田切教授は、調査結果と自身の現場調査をふまえて「強力に政策誘導されているとはいっても、集落営農はやはり多様。経営として強固に一元化されている組織がある一方で、くらしの保全を目的にしている組織もある。耕作放棄の防止などに少しでも元気な高齢者が集まり作業受託で農地を預かっている。当然、主たる従事者の所得目標も法人化計画もない」と依然として集落営農は多様であることに目を向けるべきだという。
今回の調査結果で示されたことにひとつに、新規組織の半分近くが東北と九州で占めたことがある。(表)これまでに集落営農があまりなかった地域であり、これは新たな政策導入を目前にした動きが出てきたともいえるが、高齢化・兼業化で地域農業維持のために集落営農を組織せざるを得ない状況が強まっているかもしれない。
また、複数集落を基盤とする組織も前年の2083から2230へと増えた。これは20ヘクタール要件を満たすための取り組みとも考えられるが、小田切教授は「ひとつの集落だけではリーダーやオペレーターが確保できないために、複数の集落を基盤として組織を作り上げている例もかなりある。いわば集落営農の新たな生き残り策の面もある」という。
◆6割の集落で組織化望む
集落営農は「担い手」として位置づけられたが、周知のように施策対象となるためにはさまざまな要件があるために、それをクリアするための集落の話し合いやJAなどのサポートに力が注がれている。それは重要な課題だが、現場の声からは集落営農の必要性について、また別の側面もみえてくるようだ。
集落営農実態調査と同じ日に「集落の農業の担い手育成に関する意向調査結果」も公表されている。これは集落営農がない水田集落3000の代表者に聞いたものである。
その結果、集落営農の組織化・法人化について、6割の代表者がその必要性があると回答している。しかも注目されるのは、自分の集落のおもなに担い手が法人であると応えた代表者でも55%が集落営農は必要だとしている。おもな担い手が認定農業者の集落でも集落代表者の64%がその必要性をあげた。
ただ、組織化にあたっての課題で多かったのはリーダーの不在(50%)と高齢者が参加したがらないこと(27%)。一方、認定農業者など既存の担い手との「共存が難しいから」という理由は13%にとどまっている。
しばしばこの共存問題が指摘されるが、現場の声からするとさほど多くはない。東北など一部でこの項目の回答率が高いがそれも20%程度だ。
むしろ、法人や認定農業者がいたとしても、リーダーを育成してなんとか集落営農を立ち上げたいという意向が強いと感じられる。それは一部の担い手だけでなく、そこからこぼれ落ちる農地を集落全体で守っていくという「担い手の重層化」をしなければならないという意識ではないか。集落営農組織ができた場合、経営安定対策に加入したいかという問いには、そう思わないが21%、分からないが35%となっている。集落営農への期待がどこにあるのか、地域の実態をふまえて見る必要がありそうだ。
◆村づくり組織にも着目
小田切教授によると最近増えているのは「地域自治組織」が立ち上がり、その一部から営農組織が生まれてくる例だという。村づくり組織として、地域行事や伝統文化伝承、都市農村交流などに関わり、その活動のなかから一部の人たちが地域農業を維持するために集落営農を組織していく。営農組織ありき、ではなく自治組織という土台づくりのうえに営農組織をつくるという二階建てコースだ。 経営体としての集落営農は、今後、農産加工に取り組むなど経営を安定させるための活動自体の多様性を探ることも大事だが、一方で、その組織化自体の道のりにも多様性を認め、その支援策も考える必要がある。
「自治体によっては、経営安定対策に向けた集落営農組織育成目標を掲げるなど画一化が進行している。しかし、本来、地域農政は多様性をもっていたはず」と指摘する。集落営農を地域農業再生の決め手とするために何が必要か、改めて足下を見つめることは大切ではないか。
設立目的を再認識して集落営農づくりを
―画一化する自治体農政に懸念―
小田切徳美・明治大学教授
集落営農数の前年比4%増は一見すれば小さな数字だ。しかし、2000年から5年間の増加率1%とくらべれば、従来のトレンドが変わったといえる。
ただし、解散・廃止も563組織あり、やはりこの数字はおおいに気になる。地域別にみると、従来から集落営農が数多く存在していた北陸・中国での解散・廃止が目立ち、両地域で41%を占める。これらの地域では1年間で6〜7%の組織が解散したわけであり、その不安定性、つまり組織も継続問題が深刻であることが今回初めて明らかになったと言える。
一方、増加が目立ったのは、従来、集落営農の設立が盛んとはいえなかった東北や九州。新設981組織のうち46%と半分近くを占めている。本格的な農業地帯でも集落営農の設立が急増しているのが特徴だ。そこには、政策誘導が背景にあるとは思うが、それだけでなく北陸・中国と同じように兼業化、高齢化で集落営農を地域農業の維持・発展の選択肢とせざるを得ない状況が強まっているのだろう。
◆「くらし」保全の観点も
「品目横断型経営安定対策への加入予定状況」は、「加入予定あり」が28%だが、「未定」が56%と、今後の拡大の可能性を残しているようにみえる。
一方、加入要件をどれだけ満たしているのかについてみると、たとえば「出荷・販売の一元経理」は32%にとどまる。これを地域別にみると、東北、北陸では45%前後と高いが、中国、四国、九州では20%程度であり、東高西低型がはっきりしている。こうした実態からすれば、「未定」が大幅に「加入」に移行するとは考えられない。
つまり、強力な政策誘導が行われている時点でも、集落営農は依然として多様だということを示している。経営体として強固に一元化された集落営農がある一方、地域の「くらし」の保全を目的として、そのための農業の省力化や耕作放棄の防止に少しでも元気な高齢者が集まっている集落営農もある。こうした多様性が地域性にともなって表れている。
◆自治組織からも営農組織生まれる
今後、集落営農を考える場合は、調査結果からも分かるように、何よりも設立目的が非常に多様性を持っていることを明確に認識しておかなくてはならない。地域の住民が何のための集落営農を設立するのか、目的を再度明確化することが大前提で、一元的に「経営」の視点のみで、すべて経営安定対策の要件をクリアするようにという誘導は避けるべきだろう。
同時に、展開の多様性についても理解する必要がある。集落営農は「営農」であると同時に「集落」を基盤とした地域組織。地域の祭りやイベントに関わりを持つことも少なくない。最近では、「地域自治組織」といわれているが、こうしたむらづくり組織が営農面の対応を行う事例が出始めている。
つまり、営農組織が生まれて、それが、むらづくりに対応していくという展開の仕方もあるし、まずむらづくり組織が生まれて、その一部分として集落営農が生まれていくというコースもある。とくに最近は後者が増えている。
そうであれば集落営農の育成といっても、地域によっては、いきなり経営の育成ではなく、まずきちんとした自治組織を作り上げるという回り道も必要になる。
ところが、経営安定対策の加入に向けて加入要件をクリアする集落営農組織の数値目標を県レベルで掲げているところも少なくない。本来、自治体農政は豊かな独自性を持っていて、たとえば、わが県では環境保全型農業に力を入れる、わが県では村づくりに力を入れるといったように、自治体農政の重心は多様なはずである。それが今、急速に画一化が進んでいる。
地方分権が進んでいるなか、豊かな地域農政を実現する条件が生まれているだけでなく、それを実現しなくてはいけない「義務」が地域には生じている。しかし、まさにその時に、自治体農政の画一化が進んでいる点は、実はかなり深刻な問題である。