◆生産者や地域にとって「なくてはならない存在」の産直
店内入口から奥へ野菜売り場が広がっているが、その中央のシマは産直野菜や果物が占めている。今日の産直品の目玉は、角田(JA仙南)の梨。梨売り場の上にりんご型に縁取られた薄型ディスプレイが下げられ、梨の生産者が栽培方法などを説明する映像が上映されている。野菜売り場の奥、水産物コーナーでは、イカの調理法などが同じように上映されている
ここはみやぎ生協が今年2月にオープンした八幡町店。この付近は、権現造の建造物としてはわが国最古で国宝に指定された大崎八幡宮がある住宅地だが、近隣にスーパーなどがなく、生協の店を中心にいくつかのテナントが入ったここがショッピングセンターとなり、にぎわっている。
みやぎ生協の2005年度の総事業高は987億4300万円(前年度対比101.8%)。共同購入が増えてきているとはいうが、全体の7割強が店舗というように店舗主体の生協だ。そのうち、農産・畜産・水産の生鮮品は371億9000万円と全体の約38%、日配・食品をあわせると7割強が食品だ。その食品、とくに生鮮品の核となっているのが産直品だ。
昨年度の同生協の産直品取扱高は約50億円。もっとも金額が多かったのが豚肉で13億円、次いで米が約10億円、野菜が7億6000万円と続く。農産物では、鶏卵・鶏肉・果物・牛乳などとともに納豆、梅干もある。納豆はJAみやぎ仙南の角田地域160ha、24の小粒大豆納豆生産組合で栽培された大豆を使い、JAの角田納豆センターで生産されている。82年に生協産直として試験栽培されたときは、3haで収穫は90kgだったが、現在は角田地域の大豆栽培面積の約3割と基幹作物になっている。梅干も角田地域で生産され、納豆と似たような経過を経て現在は2万本以上が植えられている。他の品目と比べて金額は多くはないが、地域や生産者にとって、なくてはならないものとなっている。
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八幡町店の産直青果物売り場 |
◆野菜産直生産者のほとんどが特別栽培基準をクリア
青果物については、宮城県の慣行栽培よりも農薬総量を5割以下にすることになっている。これをクリアし化学肥料を慣行の5割以下に減らせば県制定の「みやぎの環境にやさしい農産物表示認証制度」(特別栽培農産物)の認証が受けられる。同生協では、現在認証を受けた20品目の産直品に「グリーンセレクト」の愛称をつけ利用拡大をはかっている。小野勝一郎同生協産直推進本部事務局長は約400名の産直青果物生産者のほとんどが「申請すれば認証される水準にある」という。
農薬については、毒性の強い34原体について産直野菜栽培での使用を禁止。使用できる農薬についても産直野菜を生産する農協や生産者グループで構成される「農薬・農法プロジェクト」で、品目ごとに「産直野菜栽培使用登録農薬」を決め、それ以外の農薬は使用しないことにしている。使用できる農薬については、毎年、このプロジェクトで検討・見直しが行われる。
使用農薬が制限されていることについて、JAみやぎ登米で同生協の産直を担当する伊藤由賀さんは、最初は自分たちがいままで使っていた農薬と違うことに戸惑いはあっても「やってみればスムースで、楽だ」と評価する。
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「グリーンセレクト」トマトの看板 |
◆生協の生産指導員が産地を巡回指導
もう一つの大きな特徴は、産直基準を守り、良質な農産物を生産するために、種苗会社で品種改良や栽培方法を研究していた鎌田祥司氏を生産指導員として生協が雇い、産地を巡回指導していることだ。
JAには営農指導員がいるので抵抗はないのかと思ったが、JAの指導員は作物別の生産部会を担当し、その作物は分かっていても野菜全般については詳しくなかったり、若い人が多く、経験や知識の蓄積がないので、ほとんどの作物に精通する鎌田氏の存在は大きいという。JAみどりので産直事務局を担当する菅原正博氏は鎌田氏がJAの近所に住んでいるので「よく電話して相談します」という。
◆店舗を活気づける「旬菜市場」
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店を活気づける「旬菜市場」
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いま、みやぎ生協の店舗で話題になっているのが、生産者が売り場の責任を持つ産直のインショップともいえる「旬菜市場」だ。産直品売り場の中にあり、生産基準などは産直品と同じだが、生産者が規格や価格を決めて売り場に出す。
規格外の不ぞろいなものだったりするが、その分、価格のメリットがあったり、鮮度がよいことなどから、評判になっているという。現在、45店舗のうち25店舗でインショップが展開されている。JAみやぎ登米のように野菜は旬菜市場だけに出荷しているというところもある。
◆36年前に旧角田市農協と始めた産直
みやぎ生協の産直は、同生協の前身・宮城県民生協が設立された1970年にまで遡る(82年に宮城学校生協と合併)。当時の角田市農協(現・JAみやぎ仙南)と鶏卵・鶏肉・豚肉で始めたのが最初で、初年度の取扱高は1500万円だった。その後、71年に野菜・梨、74年に納豆、梅干、76年にいちご、81年に平飼い鶏卵「赤卵」というように品目を拡大していく(同生協「産直パンフレット」の年表による)。
産直10周年を迎えた80年には、生協と農協のトップ会談を行い、▽お互いの共通認識と信頼関係の確立を目的に、相互交流の実施▽協同組合間協同によって、農産物の地域内自給をめざす▽同志的批判はいわゆる産直の条件である、という3項目を確認する。
その後、産直は県内の他農協や生産者組織などに広がっていくが、そうした産直関係者によって、産直事業の基本的な方向やあり方などを協議する組織として「宮城県産消提携推進協議会」(提携協議会)が85年に発足する。
◆産直とは相互交流して共通の価値観を創りだすこと
そこでは、みやぎ生協の産直は次のような理念として確認されている。
(1)健全な日本型食生活の確立と食糧の安全性を高める。
(2)食糧自給率の向上めざし、日本と宮城県の農・水・畜産業とその加工業および生産者の暮らしを守る国民合意の運動を進める。
(3)産消提携活動に積極的に取組みながら、地域経済復興と文化の発展、自然環境の保全に寄与する。
また「産直」とは、消費者と生産者が相互に交流し、共通の価値観を創りだすことにあり、そのために「消費者と生産者が、対等・平等の立場で連携する」。つまり「産消提携活動」「産消直結活動」と呼ぶべきもので、同生協の産直は「産地直結」の略であって「産地直送」とは区別する。
そして▽産地と生産者が明確▽生産方法と手段が明確▽メンバー(生協組合員)と生産者の交流がなされている(共通の願いの実現)、の3つを満たすものを産直生産物としている。
さらに「産直の生産者が増えれば、安全な食べ物が増える。また消費者が増えれば、生産物の消費が保障されて、運動と事業の両者が成り立つ」から、産直の「運動と事業」を一緒に進めていくとしている。
県内産農産物を優先し地域農業に貢献
◆交流を深め「顔と“くらし”の見える産直」
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「旬菜市場」では、ほ場の写真や
栽培方法、食べ方も表示
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よく「顔の見える産直」といわれるが、みやぎ生協では「顔とくらしの見える産直」と“くらし”を重視している。生協についてくわしい大木れい子元宮城学院女子大学教授は「自給率向上や地域経済の復興、文化の発展を産直理念に掲げていること。消費者だけではなく生産者の“くらし”に注目し、県内産を優先していること」が、みやぎ生協の産直の特徴であり、評価できることだという。
野菜の場合、宮城県(一部近県も)産を「顔とくらしの見える産直品」(県産品)、産地が日本全国のものを「全国の産直品」、そして気候条件などで産直品が産直品基準を満たせなくなったものか、産直品への過渡期の農産物である「提携品」の3つに分類されている。まず県産品が優先され、県産品がないものや県産品があっても端境期だから全国品を取り扱うというように、産直の基本は宮城県産なのだ。
その考えをもっとも如実に表しているのが生産物の基準だ。県産品は「メンバーと生産者の日常的な交流と信頼関係があること」と明記しているが、他の2つの全国品と提携品では「生協の担当者が現地を視察していること」としている。つまり「交流」できるか否かを大事なポイントとしていることが分かる。
最近は量販店や食品スーパーでも「産直」とか「地産地消」というが、消費者と生産者の「交流」がもっとも生協らしい活動であり、量販店などと差別化するものだと、小野事務局長は強調する。メンバーが産地などを訪問するだけではなく、生産者や農協担当者がメンバーの集まりに参加して意見交換するなど、年間に延べ7000人が交流している。
JAみやぎ仙南で直販・産消提携を担当する山本正人氏は「メンバーが交流などを通して産直を理解してくれ、県内産を買い支えてくれる」ことが、これからの地域農業振興にとって大事だという。
◆生協との産直をJAはどう位置づけるか
産直野菜の目標は10億円なので、その目標を達成することがこれからの課題だと小野事務局長は話す。そのためには、産地の拡大と、生協組合員に産直をさらに理解してもらい利用を拡大することだという。
産地の拡大については、小規模生産者が多くしかも高齢化していくことや、生産基準が市場出荷と異なり管理が厳しいこと、交流に時間をとられわずらわしいと考える生産者もいて、JA内で広がりにくいという意見を聞いた。
その一方で「確実に売り場に並べられ買ってもらえる」のだからと、生協の産直生産者を募集する呼びかけに応えた生産者もいる。
生産基準については、生産部会全員がエコファーマーの認証をとり、ブランド化して成功しているJAもある。また、JAが積極的に生協との産直を進め生産者もそれを理解し、成功しているJAもある。要は、確実に販売できる生協との産直をJA全体の営農販売戦略のなかでどう位置づけるのかということではないだろうか。
また、産直というと、生協から提案されそれを受けるというケースが圧倒的多いが、そろそろ農業側から「こういうものを作る」「作りたい」がどうかと提案する産直を考えるべきではないか。
地域に密着し、地元の農業を活性化させようと積極的に交流をキーワードにした産直事業と運動を進めているみやぎ生協を中心とした動きに、これからも注目していきたいと思う。