農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

JAグループの担い手づくりと地域農業振興の課題

全員参加型の集落営農組織づくりへ意識転換を

JA全中 冨士重夫常務に聞く

 第24回JA全国大会では「担い手づくり・支援を軸とした地域農業振興」を決議した。担い手づくりは19年産からスタートする品目横断的経営安定対策にとって必要な課題だが、それだけではなく地域農業の将来をどう描くのかという取組みでもある。全国大会決議を機にJA全中の冨士常務に今後の取組みのポイント、JAに求めれることなどを聞いた。

「担い手づくり」こそ米の計画生産を確保する

◆零細経営の切り捨てではなく協業組織づくり

JA全中 冨士重夫常務
JA全中 冨士重夫常務

 ――第24回JA全国大会では「担い手づくり・支援を軸とした地域農業の振興」を決議しました。改めて担い手づくりが必要な背景についてお話いただけますか。
 担い手づくりが求められているのには2つの側面があって、ひとつは土地利用型農業が持っている構造問題、要するに小規模・分散作圃、零細経営、高齢化、後継者不足という長年の問題をどう解決していくかということですね。
 もうひとつは、WTO体制のなかで国内農業を守っていくには、品目横断的な直接支払いを一定の要件を満たした担い手に実施していかざるを得ないという面です。そういう農政を展開していかないと農業政策の財源を担保できないということがあります。
 その両方から担い手づくりが喫緊の課題ということになっているわけです。
 これまでさまざまな地域農業振興の取組みや地域水田農業ビジョンの作成など節目、節目で土地利用型農業の構造問題を解決するための取組みをしてきたわけですが、品目横断的経営安定対策の担い手要件も決められたわけですから、担い手づくりはもう待ったなしという局面に来ていると思います。

◆話し合いから解決策を

 ――品目横断的政策には小規模・零細農家の切り捨てだという批判があります。
 その批判がよく出ますが、担い手づくりの取組みがいちばん問題としているのは、兼業で農業をしていて農業からの労賃はタダ、しかもコストもまかなえず農外所得で赤字を埋めている、というような個別経営にまだこだわっていていいのかということです。それにこだわっても経営的には赤字だし、後継者もいないということには変わりがなく、やはりどうするかということは考えていかなければならない。
 そこでわれわれが言ってるのが集落営農だということです。個別経営から転換して集落みんなでやる共同営農協業組織体、これをつくってそこに参画し営農活動をやっていきましょう、ということですね。そういう組織体を作って政策の対象になろうということですから、決して切り捨てではないわけです。たしかにその意識転換がなかなかできないということはあると思います。
 担い手づくりには地域で温度差がありますが、あえて最大の問題は何かといえば、個別経営にこだわる、ということではないか。しかし、よく経営を突き詰めてみれば、5年、10年と長続きしていくのか、ということになるのではないか。
 集落営農組織づくりや地域水田農業ビジョンなどで表彰されている地域のなかには、実際に集落すべてが総兼業農家という例もあるわけですね。そのなかでこれからもそれぞれが農機具を持ち個別経営をしていくのか、このままでやっていけるのか、という同じような悩みを抱えているなかから、なんとか解決できないかという話が出てきて話がまとまっていったというケースもあります。

◆地域水田農業ビジョンで米の計画生産を達成

 ―― 一方、19年産からは米の生産目標数量も農業団体が主役になって決め配分していくシステムに移行しますが、全国大会前日の分科会では、米の計画生産を担う担い手づくりという視点が必要だとの指摘もありました。
 まさにそうだと思います。米の計画生産と担い手づくりは裏腹の関係にある。地域農業の課題は転作もふくめてどう農業を展開するかということになるわけですが、それを集落全体で農地利用を集積してまとめる。そうなれば米も計画的に生産するということになるわけですね。「売れる米づくり」をめざして、米はこれだけ作付けする、麦・大豆はこれだけ作付けする、そして残りは野菜づくりをやろうというような集落からビジョンを描く。米生産と転作がセットになっているのが地域水田農業ビジョンで、それをみんなで役割分担して集落の営農をかたちづくっていく。こういう仕組みを作り上げればこれから転作が増えても米の計画生産も実効確保がしっかりできるわけです。

JAにも求められる意識改革

◆組織経営体への支援が農協の役割

 ――担い手づくりの推進で農協に求めれることは何でしょうか。
 これもよく聞かれる声ですが、集落営農組織をつくるのはミニ農協をつくることになるのではないかということです。自分たちは利用されなくなり、農協から離れていくのではないか、と。これも先ほど指摘したように個別経営を前提にした、取りまとめ農協的な考えから脱却できていない発想だと思います。
 そうではなくて個別経営だったものを集落型経営体にまとめ上げて、そこに参画している人たちを全部、サポートしていくというこです。しかも農協がその組織を作り上げていけば、当然、農協を利用するんじゃないでしょうか。自分たちが主導で作り上げた経営体なんですからね。
 ――また、集落営農組織をつくっても、たとえば経理の一元化という要件をクリアすることが難しいという指摘もあります。
 それもまさに農協の役割だと思いますね。意識を変えてもらうのは農家ですが、不安もあるでしょうから、そこに農協がどう応えていくか、でしょう。最近では農協単位や県中央会で経理の一元化システムを開発していますが、要するに不安に思っていることや課題に対して、農協からこうすれば実現できるということを提示するべきではないか。その経理システムでは売り上げ全体としては営農組合単位であっても、収入については個々に分割することもできるし、経費もセットにして示すことができるわけですが、そういうシステムを示すといった取組みはまさに農協の果たす役割だと思います。

◆地域農業振興の視点で行政を巻き込む

 ――19年産からの米の生産調整については、農協が配分することについて生産者の納得が得られるのか、やはり行政が責任を持つべきではないかという声もありますが。
 確かに通知の仕方としては生産調整方針の作成者である農協などが実施していくということですが、そこは行政とともにつくっている地域協議会の合意で通知しているというような工夫が現場では必要なんだろうと思います。そういうソフトランディングがないと生産者に納得してもらえないだろうということはあるでしょう。そういう意味で協議会をしっかり体制強化していくことだと思います。
 ただ、これは米の生産調整・転作問題ではなくて、地域農業振興の問題であるという捉え方も必要でしょう。地域農業振興ということであれば、当然、市町村も責任をもって関わるべきことだし、そのなかでの水田農業の問題として生産調整の問題がある、という観点から行政を巻き込んでいくことを考えていくべきだろうと思います。

◆政策の検証から新たな課題を見いだす

 ――新たな政策が実施に移されようとするなかで、たとえば、米価の最低補償制度や品目横断的政策の対象品目見直しなどを政策として要求していくべきではないかという意見もありますが、どういう対応が考えられますか。
 米価対策についていえば、計画生産の実効確保のためには、その受け皿である担い手・担い手組織をつくりあげていかないと実効確保できないわけですから、まずは担い手づくりがどこまで進むのか、その進捗状況をきちんと見極める必要があると思います。
 一方で米の需給という意味では、過剰作付けの実態があるわけで、計画生産目標数量とのズレがどのくらい出てくるのか、過剰分が出てきたときの需給対策をどうするのか、その対策を打ってもさらに米価が下落するかどうか、それをよくみたうえで考えていくことになると思います。
 つまり、計画生産をやっているなかで需給と価格の安定がどう図られたのか、あるいは図られなかったのか。計画生産をしているのだから、価格の安定が図られなければそれは生産者だけの責任ではなくて、国にも補償してもらわなかったら経営が持たないということになる。それをどう実証できるかということだと思います。
 品目横断政策については米・麦・大豆のほかにソバや雑穀などがなぜ対象にならないのかという意見も出ますが、これは品目横断的政策以前に個別品目として価格政策がなかったからですね。産地づくり交付金はありますが。
 しかし、次第に転作が拡大していって、麦・大豆生産にも限界があるではないか、ということになるとソバや粟、ヒエ、あるいはホールクロップサイレージや、エタノール用稲や飼料稲などの生産も必要になる。それに対して引き続き産地づくり交付金だけで対応できるならともかく、品目横断的政策の対象にして支援しなければ産地は持たないということになるかもしれません。そういう状況が生まれてくるのであれば品目横断的政策の見直しをしていくという余地はあると思います。
 ――最後になりましたが、常務としての今後の抱負をお聞かせください。
 日本に農業はなくてはならないものだし、社会経済にとって必要なものです。それをサポートしていく農協はもちろん必要だし、その果たしている役割をもっと対外的にアピールしていきたい考えています。これはWTO交渉やEPA交渉にとっても重要なことです。そのうえで個別の問題についてはそれをどう克服していくか、現場に立って解決していく姿勢で臨みたいと考えています。

(2006.11.6)


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