「牛肉コロッケ」問題で問われる「コープ商品」
◆3世帯に1世帯が加入 3兆円を超える規模に
組合員2427万人、総事業高3兆3909億円。これが06年度の全国619生協の概況だ(表1)。そしてその中核を担う地域生協の組合員数は1712万人、総事業高は2兆6914億円で、共済事業などを除いた供給高は、2兆5726億円。05年度対比組合員数が3.6%、供給高が2.1%の増加となった。
業態別にみると、店舗事業は05年度とほぼ同じ9996億円に留まり、1兆円台への回復はできず、一部の生協を除いて店舗事業の赤字を克服するにはいたっていない。一方、無店舗事業は個配供給高が7847億円と05年度よりも13.2%増加し、無店舗事業全体で05年度よりも4.4%伸長した(図1)。共済事業の伸展もあって、購買事業の経常剰余率は、目標の1.5%には届かなかったが、05年度よりは0.1ポイント改善されたと日本生協連では分析している。
個配事業の伸展と加入者が600万人を超える共済事業が、現在の生協経営を支えているといえる。
◆「仕入の統一」にかかる中期計画の成否
こうしたなか、07年度から始まる「10次中期計画」では、「ふだんのくらしにもっと役立つ事業の確立」を実現するために、店舗事業ではその「再生に向けて、10年までのSM出展の計画をエリアごとに策定」し損益の確立をめざす。無店舗では、「個配事業1兆円と無店舗事業全体で利用世帯加入率20%を確立し、経常剰余率の向上と安定確保」をめざす。商品分野では、「生鮮・惣菜分野の強化と『新・コープ商品政策』の具体化によって商品力強化」を果たしていく、ことなどをあげている。
そしてそれらを実現するためには「各生協が主体的に組織改革を成し遂げ、それを基盤にリージョナル事業連合が指導性を発揮し機能統合を強化」。その「パワーを結集し全国機能の強化を果たす多様性と重層性をあわせもった」日本生協連と事業連合の提携関係を構築していく。その先行事例が、コープネット事業連合と日本生協連の提携であり、これを全国に拡大していくことだと考えている。
小倉修悟前会長が、会長として最後になる今回の総会挨拶で、流通業界の寡占化が進んでいることを指摘したうえで「(生協に)3世帯に1世帯が加入。事業高が3兆円を超えており、他社からみれば垂涎の的だといえる。そのことに誇りを持ってよい。だがしかし、それはあくまで計算上の数値であり、実態はバラバラの数字だ。各生協のトップは過去を乗り越え小異を捨て大同につき、NB商品を含めた仕入れの統一を実現し、連帯の実態化をすること。次期中計の成否はこの1点にある」と語った。
つまり、日本生協連をチェーン本部とし「全国的な企画や品揃えの共有化」をしていこうということだ。そのために、日本生協連は「世界規模での食料調達競争が激化することをみすえ優良な海外産地の開発、調達力の強化」に取組むとしている。
◆500万人・7000億円の事業連帯が首都圏に
こうした考えを具体化する動きがいま首都圏で始まっている。
今年2月1日にはコープネット事業連合の赤松光専務理事(現:理事長)とユーコープ事業連合の丸山基雄専務理事が「あらゆる連帯の可能性について検討を開始」することを確認。今年9月までに「連帯の枠組みについての方針を共同で作成」することにした。検討にあたっては「事業戦略の共同化を先行し、機能統一まで時間のかかるシステムや物流分野については、将来を見通して投資を行い、会計基準の統一を先行」する。
そして「コープネットと日本生協連との連帯の成果を生かし、より有効な形態で新たな首都圏の事業連合の形成を追求し、全国の連帯の先行事例としての役割を果たす」としている。両組織の総会でこのことは議案に盛り込まれ了承された。まさに小倉前会長の言葉の実践といえる。
具体的にどのように「連帯」するのかは9月にならなければ明らかにはならないだろうが、一挙に「組織統合することもありうるのではないか」と推測する生協関係者もいる。これが実現するとそのエリアは、東京・埼玉・千葉・茨城・栃木・群馬・長野・新潟(今回の総会で市民生協にいがたが加入)(コープネット)に加え、神奈川・静岡・山梨(ユーコープ)となり、組合員数約500万人、総事業高約7000億円という巨大な組織が誕生する。
◆生協再編の3つの軸
日本の生協がすべてこうした方向にいくのかといえば、必ずしもそうとはいえない。首都圏を中心に見てみると3つの軸があると思える。一つはもちろん日本生協連・コープネットを軸とするものだ。
二つ目の軸は、「日生協・コープネット一体化が加速され、全国の生協は再編に向けた選択を迫られると予測」し「生協法改正の動きなどにより事業連合への集中化」がすすみ、「地域生協の生き残りをかけた動きが各地で始まる」(総会議案)とし、「コープネットグループとの競合に打ち勝つ体制づくり」(07年政策討論集会資料)を明確に掲げるパルシステム生協連だといえる。
「個配」といういまや生協陣営の「期待の星」ともいえる業態を開発・確立したパルシステムでは、コープネットグループに「拮抗するもう一方の全国規模の生協事業連帯ネットワークを展望する。無店舗事業が中心でパルシステムに特化して作る」(同前掲)としている。パルシステムのエリアには、新たに静岡が加入。さらに、近畿・四国地域のコープ自然派事業連合、あいち生協、あいコープみやぎ、新潟県総合生協がパルシステムのPB商品を利用し交流を深めている。
3つめの軸は、「『協同組合の価値と原則』に則り、競争原理に対して協同の理念を対置し、「協同組合の事業と運動が『未来を予示する社会モデル』となる」ことをめざし、商品を「消費材」と呼ぶなど独自の路線を行く生活クラブ事業連合だといえる。
生活クラブは関西の4生協(生協アルファコープおおさか、千里山生協、生協エル・コープ、生協ウィルコープ)が加入し、従来の首都圏、北海道・東北・東海に加えて近畿エリアに拡大した。
そして首都圏では、いずれのグループにも属さない東都生協が孤高を守っているという構図になる。
◆「ふだんのくらしに役立つ」低価格商品を追求
日本生協連が「仕入れの統一」を急ぐ理由は、一つにはイオン、セブン・アイの2大グループに小売業界が寡占化され、その狭間で店舗事業を営む生協がつぶされるのではという危機感があると思われる。もう一つは、増収増益ではあるが、組合員1人当たり利用高が毎年減少しており、組合員を増やすことで取扱高を維持しているのが実態という点だ。これは、いずれの生協にもほとんど共通していえる。生協も組合員にとっては一つの選択肢だということを示す。
そのため日本生協連は「ふだんのくらしに役立つ事業」、具体的にはリーズナブルな価格=スーパーに負けない価格で商品提供することが最大の課題だと考えている。だから仕入を全国的に統一し、製造コストや物流コストを抑制し、低価格を実現するという戦略を提案しているといえる。
◆組合員の信頼揺るがす牛肉コロッケ問題
コープネットとの提携などでその路線は着実に前進しているようにみえたが、ここにきて暗雲が漂い始めた。それが「CO・OP牛肉コロッケ」問題だ(関連記事3面)。03年にベーシックな定番商品として牛肉コロッケを起案し、何社かと検討したうえで、日本生協連のPB商品として北海道の牛肉とジャガイモを使ったコロッケを北海道加ト吉で作ることを決め、現在まで、全国で約255万袋(8個入)を販売してきた。北海道加ト吉の工場には開発以来何度も立入検査をしているが、原料そのものが偽装されていることは、新聞の取材を受けるまで、一切認識していなかったという。
購入した組合員には代金を返済(5億円程度か)するというが、コープ商品に対する組合員の信頼は大きく揺らいでいる。
かつて、生協産直の偽装事件が相次ぎ、産直のあり方そのものを見直したように、コープ商品そのもののあり方について検討・見直しが当然行われるだろう。だがそれは、商品開発・決定や検査などプロセスの見直しだけでいいのだろうか。規模を拡大することで低価格を追求し、民間企業と同じ土俵で競争することが、協同組合として本当に組合員の「ふだんのくらし」に役立つことなのか。そして、この方法で競合に打ち勝つことができるのかなどが問われているのではないだろうか。これらに納得のいく答えが出されたときに、組合員の信頼も回復するといえるだろう。
そして生協法が改正されたが、これにどう具体的に対応していくのかということもあり、しばし生協陣営の動向から目が離せないといえる。