農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

本紙農業法人調査結果まとまる その1

大規模ほど強い加工・外食との取引志向
−JAも積極的な販路開拓を−

谷口信和 東京大学教授

 本紙は今年1月から2月にかけて、農業生産法人などを対象にしたアンケート「大規模農家と農業法人の経営状況とJAグループに対する意識調査」を実施した。この調査には全国の農業生産法人など460を超える経営体から回答への協力を得た。調査結果について東京大学の谷口信和教授と同大大学院の西川邦夫氏協力で分析し、農業生産法人へのJAの対応の課題などを提言してもらった。
 本調査結果の整理は西川邦夫(東京大学大学院博士課程)。


「売る力」、強化に向けたJAのチャレンジに期待

進む農政改革と農業法人の到達点−JAの課題・役割を考える

◆日本農業の行方示す法人

谷口信和 東京大学教授
たにぐち・のぶかず
昭和23年東京都生まれ。東京大学大学院農学系研究科博士課程修了。名古屋大学経済学部助手、愛知学院大学商学部助教授を経て、平成6年から東京大学大学院農学生命科学研究科教授。主著に『20世紀社会主義農業の教訓』農山漁村文化協会、『日本農業年報50 米政策の大転換』農林統計協会(共著)、『農業経済学』東大出版会(共著)など。

 品目横断的経営安定対策を基軸とし、米政策改革と農地・水・環境保全向上対策の三本柱によって鳴り物入りで始まった農政改革は実施第二年度に入りつつある。経営安定対策による農業構造改革は大方の予想の範囲を大きく超えて進展し、農水省の立てた初年度目標を超過達成した。
 しかし、こうした成果の「光」にもかかわらず、品目横断的経営安定対策に対する「現場」での風当たりは政府与党の思惑をはるかに超える強さであった。今日では7月の参議院選挙における自民党の歴史的敗北の重要な要因の一つが、品目横断対策の「選別的性格の強さ」と担い手支援の実効性のなさという「影」によってもたらされたということは半ば「常識」にさえなりつつあるといってよい。
 ところで、品目横断対策を軸とした戦後最大の農政改革は他方で、法人農業経営の強力な育成に向けて農政が大きく舵を切ったことを意味している。そこでは家族農業経営を起点とする認定農業者が法人成りする基本コースと並んで、集落営農が特定農業団体から特定農業法人に至るコースが示されるとともに、JA出資農業生産法人のように農業団体が出資する法人や一般企業が経済改革特区を出発点として、現在では農業経営基盤強化促進法に基づく特定法人として農業参入するコースが示されるに至っている。
 したがって、今後の日本農業の行方を見通す上ではこうした法人農業経営の今日的到達点を正確に把握することが不可欠の課題となっている。また、強力な経済事業改革を成功裏に進めることが求められているJA系統にとっては法人農業経営との密接な関係を構築することが不可避であり、法人農業経営の要求に沿った事業運営が必要性を増しているということができよう。

◆農業法人との関係 JAにとって不可避の課題

 以上のような問題意識を下にして、農協協会は本年1月から2月にかけて「大規模農家と農業法人の経営状況とJAグループに対する意識調査」を実施した。そこでは、以下のように4つの具体的な課題を設定して調査を設計し、分析することにした。すなわち、
 第1に、法人農業経営はどのような存在形態をとっているか(とくに農業構造改革が最も遅れている土地利用型農業を中心にみる)、法人農業経営の今日的到達点を明らかにする。 
 第2に、法人農業経営は今後どのような方向に向かって発展していこうとしているのか、その未来形の一端を探ることにした。
 そして、特別のテーマとして、第3に、品目横断的経営安定対策への法人経営の対応はどうなっているのかを検討した。
 以上の分析を踏まえつつ、第4に、経済事業改革を迫られるJA系統にとって法人農業経営はどのような存在かという点を実態に即して明らかにしようとした。つまり、「大規模農業経営・法人農業経営のJA離れ」といわれる「通説」はどこまで根拠があるのかを明確にするとともに、法人農業経営とJAとの共生の可能性がどのように存在しているのかを解明することにした。本稿はこうした分析結果の一部である。
 なお、本調査では469の大規模経営(75)・法人経営(394)に関するデータが収集されており、法人経営の企業形態別の内訳は株式会社26法人(6.6%)、有限会社284法人(72.1%)、農事組合84法人(21.3%)であって、2005年の「農林業センサス」によるそれぞれの数字、9.9%、70.3%、19.2%に酷似している。
 また、前者での東日本と西日本の法人割合は56%と43%(不明1%)であるのに対し、センサスのそれは51%と49%であって、これまた数字が酷似していることからも明らかなように、この調査の標本が一定の代表性を有していることを予め指摘しておきたい(もちろん畜産経営の標本が少ないといった不十分性があることは考慮せねばならないが)。
 さらに設立年からみると、新政策による農業法人化路線が始まる1992年以前の設立割合が40.7%、1993年以後が59.3%となっていて、近年の設立急増が窺える。

家族経営の枠を超える法人農業経営

◆農業の企業化を一段と進めた株式会社化

 法人農業経営をみる上での第1の視点は、資本(出資者)・労働力(雇用)・規模などの点での家族農業経営からの脱却の程度である。
 表1によれば、有限会社より株式会社の方が、法人代表者の家族・親戚が出資しているより、出資していない方が出資者数の多いことが明らかである。つまり、有限会社から株式会社へと企業的性格が深化するにしたがい、(会社法改正により今後はこうした議論は意味がなくなるが)、家族の枠を超えた出資者を募るのに対応して出資者数が増加している。そして、出資者も他の農業者から非農業者・他の法人へと範囲が広がっている。とはいえ、注意を要するのは株式会社も含めて出資者の6割は家族の範囲であって、出資の面からみれば日本の法人農業経営は家族(同族)経営の枠内に止まる段階にあるということができるのである。
 なお、農事組合法人は代表者の家族員がいない場合は出資者が16人に達しているのに対し、家族員がいる場合は5人に止まり、前者の集落営農的な組織と後者の家族経営的法人という性格を異にするものが併存していることに注意を払う必要がある。
 表出してはいないが、出資金の規模別内訳は300万円未満が5.2%、300〜1000万円が65.2%、1000万円以上が29.6%となっており、筆者らが『JA出資農業生産法人』の研究で明らかにした数字(それぞれ、3.0%、59.8%、37.1%、2004年)と比較すると若干出資金額が小さい法人が多いが、その原因の一部は農事組合法人の多さ(出資金の下限がない)によるものと思われる。
 役職員をみた表2によると、株式では男性の役員・常勤役員・正職員・パートのいずれでも有限を凌ぐ人数が就業しており、常勤役員3人に対し、10人の正職員、パート3人(225人日で常勤1人に相当するものと換算)が対応しており、常勤1人に職員が4.3人に達している。有限は常勤役員2.2人に正職員4人、パート2人が対応し、常勤役員1人当たり職員2.7人が対応している。職員やパートの中にも家族員が含まれている可能性があるから、断定することはできないが、労働力の面では株式・有限のいずれも家族経営の枠を大きく超えているものとみることができよう。
 なお、農事では役員のうちの常勤率が低いが、出資者数の多さに対応して役員数が最も多いこと、他方で正職員3.5人とパート1人程度を抱えていることが注目されるであろう。
 土地利用型農業経営に絞って企業形態と作物作付の関連をみたのが表3である。ここでは作付がある作物ごとに企業形態をみているから重複があるが、どの企業形態でも稲作を行うものが最も多いこと、これに麦作・大豆作を加えると水田作の法人経営が中心であることが分かる(60%が稲作を行っている)。同時に、株式では露地野菜、有限ではその他に分類される花卉・花木にも法人が多いことがみてとれる。

◆水稲作経営に二つの行き方

 そこで水稲作を行う経営を麦・大豆作のある経営とこれ以外に分けて、水稲作付面積規模別に平均的な作物の作付面積を算出した。表4によると、麦・大豆作のある経営は20ha未満では水稲より麦・大豆の作付面積の方が多いなど、恐らく粗放型「転作」が重要な意義を有しており、野菜の作付が少ないという特徴を有している。
 これに対し、麦・大豆作がない経営では露地野菜がかなり重要な地位を占めており、集約型「転作」が意義をもつといった、水稲作経営における転作対応の異なった姿が浮き彫りにされているものとみられる。
 ところで、水田農業経営の大規模化に関しては、近年の著しい米価低落傾向の中で、賃貸借による経営規模の拡大よりは、作業料金が確実に所得となる農作業受託による規模拡大の方が高い経済性を有するといった見方も存在している。そこで、総経営面積と農作業受託料金収入の相関を示した図1を作成した。これによると、経営面積の拡大と作業料金収入の間にはほとんど相関がみられず、もっぱら農業経営型の規模拡大を図る法人と農作業受託に傾斜する農業サービス事業体型の法人が併存しつつ、その間に多様な組合せの法人が展開している現在の規模拡大の姿が示されているといえよう。
 こうした法人の販売金額の到達点を表5でみると、1億円以上の販売額に達するのは花卉・花木が群を抜いて多く、26法人に達していて、これに施設野菜11法人が次ぎ、米は第3位に止まっている。5000万円以上の割合をとると、花卉・花木54.9%、施設野菜32.5%、果樹28.6%、露地野菜19.0%となっていて、より集約的な作物で販売額の大きな法人が多いのに対して、米は15.9%、麦4.6%、大豆3.7%と粗放な土地利用型農業の劣勢が明らかとなる。なお、施設野菜ではモードが100〜500万円と2000〜5000万円の二つに分かれており、施設野菜専業的な大規模法人と+αで施設野菜に取り組む法人の対極的な行き方がみてとれるであろう。

多様な階層を取り込む事業方式をいかにつくり出すか

◆法人農業経営はどこに向かっているか

 法人経営の今後の行方は単に今後の取り組み方針の中に反映されているばかりでなく、現在の資本投下や施設などの運用状況の中にも芽が宿っているとみるべきであろう。そこで、表6を掲げた。現在、法人が施設を所有している割合をみたものである。

◆JAからの独立化が進展?

 これによると、温室・ハウスから加工までと、直販に関する施設では低位の非法人から高位の株式へと明瞭な傾斜を伴った装備率の急上昇が看取される。このうち温室・ハウスを除けば、JAにおいて共同利用施設として装備されることが多い施設であるから、法人化・企業化が深化するのに対応して、施設整備の面ではJAからの独立化が進行しているものとみることができよう。
 とはいえ、堆肥・育苗では企業形態間に際だった差違がなく、乾燥・調製施設に至ってはむしろ逆の装備率上昇(株式→非法人)がみられることもあり(その一部は株式などでの稲作経営割合の低さが反映している)、一面的に独立化を強調することは事態を正確に捉えたことにはならないであろう。
 そこで、こうした施設装備に密接に関連する経営の取り組み状況を表7(1)でみておこう。これによると、全体では小売店(スーパーを含む)との直接取引に71.7%の法人が取り組んでおり、これに直売所出荷57.0%、農産加工42.1%、直売所経営33.7%が次いでいる。作物別にみると水稲作付経営では小売店直接取引がとくに高いものの、その他は他と比較してとくに高いというわけではない。しかし、麦・大豆を作付する法人では農産加工・直売所出荷などの取り組みが目立っており、転作大豆の加工や加工品の直売所出荷といった姿が浮かび上がってくる。これに対し、野菜(露地・施設)では加工・直売所への出荷・直売所直営・観光農園、果樹では加工・直売所経営・観光農園などがとくに高い構造となっている。

◆大規模化は「販売力」のニーズを高める

 水稲について、作付規模別に取り組み状況をみた表7(2)によると、大規模になるにしたがって取り組みがとくに強化されているのは直売所出荷や小売店直接取引で、販売量の増加が販売に対する特別の取り組みを要請していることが窺われる。
 それではこれまでの取り組みを前提にして今後重視する取り組みとしては何があげられているのであろうか。表8によると、全体としてはコストダウン・品質向上・収量向上がベスト3であって、生産に関する取り組みが重視されていることが注目される。
 しかし、株式ではコストダウンに次いで、安全・安心、販売強化があげられており、消費者の方を向いた取り組みが意識され、農産加工以下の多様な取り組みに関心がもたれている。これに対して、非法人では規模拡大がとくに目立つところであり、法人化が規模拡大を通じて行われ、次いで複合化や研修・観光事業といった新たな事業へのチャレンジが始まる構図がみてとれるといってよいだろう。

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(2007.11.8)



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