国民の生命と健康を守る国内農業の振興を
◆中国は日本の食卓に不可欠な存在なのか
この事件の発生を聞いてまず感じたことは、この間、さまざまな食品偽装事件が起きてきたが、初めて人の命・健康に関わる事件が起きたということだった。
2つ目は、昨年のミートホープ事件と同様に、また日本生協連のコープ商品でありこれは何故なのかということだ。
3つ目は、コープ商品ではないが、同じ工場(天洋食品)で製造された冷凍食品が600近い学校で給食として供されていたことだ。このことから想像するに、相当な量の輸入食品が学校給食で使われているだろうということだ。
しかし、新聞やテレビでのこの事件の報道を見聞きしていると「食料自給率が39%と低い日本にとって、中国は重要な食料輸入先である」「冷凍食品は日本の食卓(飲食店)には欠かせない存在」「中国は日本の食卓を支える重要な一翼を担っている」のだから、1日も早く原因を究明し、安心して食べられる食品を中国から…と語られることが多い。これは正しい認識なのだろうか。
話は逆で「食料自給率が低いから中国に依存」しているのではなく、国内農業をないがしろにして中国や海外に食料を依存しているから自給率が低いのだ。そこのところをシッカリと認識してもらいたい。そして海外に依存する最大の理由は「価格」だろう。だがその結果出てきたのは、2002年の冷凍ほうれん草の残留農薬問題であり、昨年のエビやウナギなど中国産魚介類から使用禁止の抗菌剤検出などの食品トラブルであり、今回の事件ではないのか。
しかも、いまや海外の低価格食品を求めるのは、商社や量販店だけではなく、組合員2000万人を超える巨大組織となった日本生協連も同じだ。
◆中国産コープ商品は280品
日本生協連のコープ商品は、06年4月現在で5623品目あり、うち食品が4723品目となっている。その中で冷凍ギョーザのような調理済み冷凍食品は349品目あり、菓子・水産に次いで3番目に多い商品となっている(日本生協連「食品の安全レポート2006」)。
中国産については「商品パッケージに中国産を表示している食品280品」と日本生協連ホームページ上に掲載されている「コープ商品における中国産商品の品質管理についてのお知らせ」(07年9月27日付)に記載されている。この文書によれば、コープ商品を製造している中国の工場は46工場。一括表示で原産国「中国」と表示しているコープ商品は165、同じく原料原産地「中国」表示が70、その他商品パッケージに中国産である旨を表示している商品が45と記載されている。
◆低価格を実現する優良な海外産地?
かつて生協は「“品質”に敏感な年収の比較的高い層から支持を受けて」きたが、最近は年収400万円以下という組合員が増えており「厚みを増す低収入層への対応を強化していく必要」があり、「低価格戦略に耐えられる、商品開発や商品調達力の強化とコスト対応力がますます重要」との考えだ。さらに「世界規模での食材調達競争が激化することをみすえ、優良な海外産地の開発、調達強化に取り組む」ことを05年に決定した「日本の生協の2010年ビジョン」や同年に提言された「日本の農業に関する提言」以降、これを毎年度の事業計画で謳ってきている。
そうすることで量販店などと対抗していこうというのが基本的な日本生協連の戦略だといえる。つまりコスト対応力の柱は、事業連合による組織の大規模化と「優良な海外産地の開発」というわけだ。
本紙では、05年以降の日本生協連の考え方に常に疑問を抱いてきた。ミートホープ事件の際にも低価格の追求が事件の1つの要因ではないかと指摘したが、日本生協連は「品質管理」の問題であり、価格とは別の問題であるとしてきた。だが、本当にそうなのか。
◆月1万5000円の労働力で国産より3〜6割安く
昨年のミートホープの偽牛肉コロッケが8個198円(1個24.75円)も驚きの安さだったが、今回の冷凍ギョーザは40個398円と1個10円もしない安さだ。
2月2日の土曜日、冷凍食品が4割引と目玉になっている何軒かの量販店の売場を見て回った。国産冷凍ギョーザは、12個で178〜198円(4割引で、である)、1個当たり15円弱から16.5円。黒豚を使った高級品が10個252円、1個25円だ。
コープ冷凍ギョーザは、4割引の国産品より3割から6割も安い。これを可能にしているのは、今回の件で報道されたように1日13時間労働で月給が約1万5000円(1000元)という人件費の安さだといえる。1万5000円は、日本のフリーターが時給1000円で1日8時間働いたほぼ2日分だ。そういう条件で冷凍ギョーザをつくれるところが「優良な海外産地」ということなのか。
◆国内農業を軽視した国の責任がもっとも重い
食料を、日本とは安全に対する考え方も基準も異なる海外に依存すれば、さまざまな問題が生じるのは当然なことだといえるだろう。日本人はそういうリスクを負って「体のエネルギーの61%も海外の食料に依存している」わけだ。それは国の政策の結果だともいえる。JAグループのある職員は「生協のやり方に問題はある。だけど彼らも消費者の止めどもない要求を無視できなくなってやってきたことですから…」。本当に責任をとるべきなのは「自国の食料自給のことなど考えず、儲け主義に走ってどんどん輸入を増やした商社や貿易摩擦云々といってそれを黙認してきた国にある」のではという。
自給率向上を目標に掲げながら、何一つ食料問題を改善する有効な施策を行わず、自給率を39%に引下げる事態を招いてしまった国の責任がもっとも重いといえる。言い換えれば、今回の事件は国の無策で食料の61%を海外に依存していることが引き起こした悲劇だともいえよう。
福田内閣は消費者行政の一元化を前倒しで実施しようとしているが、それよりも、「国内農業の振興=国民の生命と健康を守ること」を第一に考えて、自給率を向上させる具体的な施策を実施すべきではないか。
そして経済力で世界中の食料を買い漁ることがすでに難しくなりつつあることを、もっと国民に知らしめることも国の責任ではないのか。
「安ければいい」と、他国の貧困の上に胡坐をかいて実現しているEDLP(Everyday Low Price)がいつまでも許されることなのかどうか、本気になって考えないといずれ日本人は世界から見放されることになるのではないかと危惧する。
◆日本農業の活性化と安定的発展と適正価格を提案する産直
再び生協に話を戻すと、コープ商品では、低価格を追求し海外の優良な産地を開発していくとしているが、生協のもう一つの柱である産直では少し様子が異なる。
今回の事件が1月30日の夕方に明らかになり、新聞もテレビもこの事件の報道一色になっていた2月1日、日本生協連は「全国産直研究交流集会」を開催し、コープ商品と並ぶもう一つの柱である生協産直のこれからの課題として7つの提言を行った(記事参照)。
そのなかで、産地は販売チャネルの多元化をはかっており、量販店PB商品と生協産直を差別化するためには、産地との自立・対応を基礎とした真のパートナーシップを確立し、公平・透明・双務的契約を内容とする文書契約の定式化が重要であり「これは組合員へ食品を提供する価格政策において、EDLPではなくEDFP(Everday
Fair Price)を採用することと呼応」すると価格政策におけるFair Price=適正価格の重要性をあげた。
また「青果物品質保証システム」の改訂版を提案した五島彰日本生協連産直事業委員会代表委員(コープネット事業連合農産部長)は、このシステムを有効に活用するには「日本農業の活性化と安定的な発展」が不可欠だと語った。
「コープ商品」と「産直」という生協の2つの柱で異なる考え方があるようだ。産直で示された方向のほうが国内農業の実態を踏まえた建設的なもののように見える。「安さ」を求める生協組合員を否定するつもりはないが、安さだけを求めれば今回のようなリスクがどんどん大きくなることを、組合員に説明し納得してもらい、生産者も再生産できる「適正な価格」で、お互いに、それなりに満足できる社会を築いていくことが大事ではないだろうか。
産直事業では、JAや生産者と協議がなされて栽培(生産)基準や包装仕様、流通形態などが決められ、そのなかで安全性についての確認もなされているはずである。そのための共通基盤として「青果物品質保証システム」がある。それが組合員からの「生協だから安心」という信頼になってきたといえる。その信頼は今回の事件で崩れた。「コープ商品」で産直と同様な「商品開発」がなされていれば、今回のような事件は防げたのではないだろうか。