農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

焦点 全農改善計画
農政の転換に対応した事業改革
事業の選択・集中と経営の合理化・効率化で240億円を担い手に還元

 JA全農は「秋田県本部および(株)パールライス秋田の米取引に関する業務改善命令」に基づく改善計画を12月8日農水省に提出し受理された。
 その内容は「農協法の原点に立ち返ると同時に、農政の転換に合わせて、生産者、会員にどう貢献するかという立場から改善計画を策定した」と関水賢司理事長が語ったように、要員の20%削減などを含む「事業の選択と集中、経営の合理化・効率化」をはかり5年間で240億円を担い手に還元する。生産資材手数料の一本化と引き下げ、物流子会社の全国域会社の再編を行い20年度には全国1社化にするなど、「新生全農を創る改革実行策」よりも踏み込んだ内容となっている。
 この改善計画の主要な部分である事業の検証・見直しと子会社再編を中心に紹介すると同時に、今後の課題について考えてみた。


◆合理化効果の半分を担い手・認定農業者に還元

小斉平大臣政務官に改善計画を手渡す裄V全農会長
小斉平大臣政務官に改善計画を手渡す
裄V全農会長

 農水省の今回の業務改善命令の大きな柱は、(1)経営理念の周知徹底、(2)組合員のために最大の奉仕をする観点からの事業の検証・見直しと人件費や事務管理コストの低減など全農グループの経営のいっそうの合理化をはかる、(3)子会社の管理態勢の強化、事業の検証・見直しおよび再編合理化、(4)法令遵守態勢の確立を含む内部管理態勢の強化、の4つだった。
 しかし、今回の改善計画の中心は事業の見直しと経営の合理化についてだといえる。ここでは、経営理念にもとづく5つの使命として▽担い手への対応強化▽生産者・組合員の手取りの最大化▽消費者への安全・新鮮な国産農畜産物の提供▽生産者・組合員に信頼される価格の確立▽JA経済事業への支援、を掲げ抜本的な事業改革を進めるとしている。
 この事業改革を実効あるものとするために、22年度末までに全農本体2500名、子会社2500名の合計5000名(削減率20%)の要員削減をし、現在の2万5000人余の体制から2万人体制にするとしている。
 このなかで従来みられなかったのが全農の使命として最初に掲げた農政の転換に対応した「担い手対応」だ。具体的には19年度から23年度の5年間で生まれる「全農本体の要員削減による経営合理化効果の半分を目標に担い手対策財源として活用」し、累計で240億円を担い手に還元する。その担い手とは、▽「経営所得安定対策」の対象となる集落営農を含む農業者▽園芸・果樹、畜産などを含む認定農業者▽県内で大口対策をすでに実施しているなど、県本部で育成すべきと定義する者(理事会での承認が必要)だ。経営合理化によって生じる剰余金を経営所得安定対策における国の予算に上乗せさせるのではないかという噂があったが、それが事実だったということだ。
 また、大口割引率の拡大、大口ロット条件の向上など、担い手向け価格条件と大型企画商品を現行17品目から20年度には40品目に拡大する。
 さらに全中と連携して来年3月までに、▽担い手に出向く営農指導体制の整備(18年度)、JA営農経済渉外担当者の設置拡大(21年度に全JAに設置)▽全農の農業生産法人への出資ガイドラインを活用するJA出資法人などへの増資▽集落営農組織への法人化にあたっての出資(5年間累計で15億円程度)などの担い手対応施策を策定する。

◆米の手数料全国一本化し平均水準10%削減

 全農の使命の2つ目、生産者の手取りの最大化では、すでに「米穀事業改革」で打ち出されている米穀流通コストの削減とともに、検討事項であった米の手数料について、手数料設定基準を全国一本化し平均水準の10%削減と稲作所得基盤確保対策などの事務手数料の廃止。JAと県本部の園芸販売手数料の販売機能に応じた見直しを行なう。
 さらに18年度上期までに直販事業拡大基本戦略を策定し、県域の園芸直販施設の増設などにより県域の直販事業を拡充する。園芸については買取販売を拡大し手取りの安定化に寄与する。
 全国本部の園芸、食肉の直販事業を会社化し、販売管理費の削減により競争力を確保するとともに、専門性・機動性を高め販売量・販路を拡大する。また、国産農畜産物の輸出について経営役員会に来年2月に「国産農畜産物輸出促進委員会」を設置し具体策を策定する。

◆Aコープは生鮮青果・精肉の100%国産調達へ

 全農の使命の3つ目である消費者への安全・新鮮な国産農畜産物の提供では、生産履歴が明確なJA米を中心に実需を特定した安定的な取引の拡大(16年産35万トンを20年産で100万トンに)。全農安心システムの取引先拡大(16年度55社を20年度110社に)。輸入青果物に対抗するために加工・業務用向けリレー販売の企画など加工・業務向け販売の拡大。食肉における「こだわり商品」の取り組みの推進などをあげている。
 また、Aコープ店舗では、22年度時点で国産調達ができないものを除いて生鮮青果・精肉の国産100%調達を目標にすることも掲げられている。

◆生産資材手数料を全国一本化 広域物流でコストを削減

 全農の使命の4つ目は、生産者に信頼される価格の確立だが、肥料農薬や生産資材の手数料引き下げ(18年度18億円、20年度以降累計36億円削減)と、全国本部・県本部手数料を19年度から一本化する。地域別飼料会社に機能を集約化し商流の短縮と工場の集約・再編によってコストを低減するとしている。
 全農の使命の5番目、JA経済事業収支確立への支援としては、肥料農薬、生活物資などの広域物流を拡大し、JAグループを通じた物流コストを削減する。農機事業はJAと県本部の事業運営一体化による効率化で収支を改善する(現在4県を20年度17県に)。また、JAのAコープ店舗を県域会社に移管し、県域会社を500億円規模の広域会社に再編する(20年度までに全国11社)。

◆子会社を事業別に再編 20年までに約半数に

 以上のような事業の検証・見直しとともに注目したいのが子会社の管理態勢の強化と再編合理化だ。
 管理態勢の強化としては、現在の全国本部、県本部別の管理方式を、事業を括りとした業種ごとの管理方式に抜本的に変更し管理を強化する。そのうえで、現在、全国本部42社、県本部161社ある子会社を20年度末までに98〜117社に再編する。そのためにまず、育成・撤退区分を明確にした事業別再編方針を18年3月に確認する。その後、18年〜20年にかけて実施する。
 ここでもっとも注目されるのが物流関係子会社の再編だ。全農では全国本部・県本部合わせて17社ある子会社を2〜5社に再編する計画だったようだが、農水省がさらなる改革を求め11月末に改善計画の提出ができなった経過もあり、「全国ベースでの再編として荷主に選択される全国域運送会社として1社化し、市場連動した運賃の導入や運賃決定の透明性を確保」を別項目として掲げた。
 物流会社の再編については、11月17日の経営役員会でジェイエイ栃木運輸とジェイエイ栃木グリーンの合併(18年4月1日付)を決定するなど、各地域・県域などの事情に合わせた再編が考えられてきていたがこれが一気に覆されたことになる。

◆今後の事業展開を見据えた要員削減なのか

記者会見する裄V会長と関水理事長
記者会見する裄V会長と関水理事長

 記者会見で裄V武治経営管理委員会会長は「新しい全農が生まれ変わるときであり、(改善計画を)しっかりやる」、関水理事長は「これはスタートに過ぎない。新生全農を創るための5年間だ」とこの計画の実行について決意を語った。しかし、課題がないわけではない。
 要員の削減について、関水理事長は、採用・退職による減少分(全農本体で1500名)、18年度から稼動するシステムで「1取引2入力」など全国・県本部で重複している業務が合理化されたり、管理部門の集約やアウトソーシング、希望退職で可能とした。しかし、県本部や現場からは、どのような事業をどう展開するのか、5年先10年先にどのような事業展開をするのかを明確にして、そのためにどれだけの要員が必要かを考えたうえでの削減か、という疑問の声がある。
 7回におよぶ業務改善命令でコンプライアンスやガバナンスの強化ということから、管理部門が肥大化しているとはいえるが、グループ全体で2万5000人という「量」だけで「全農は肥大化している」という評価が正しいとはいえないだろう。今後の事業展開を含めた事業に必要な要員を明確にしたうえでの削減計画でなければ、納得は得られないのではないだろうか。

◆個別取引先に対応できるマーケティング本部を

 もう一つは、生産者の手取りを最大化するためには、生産資材のコスト低減も大事だが、生産者が汗水流して生産した農畜産物を安定した価格で確実に販売することこそが重要ではないだろうか。改善計画では部分的に販売についてふれられてはいるが、全農としてどう取り組むのかいま一つ見えてこない。
 例えば園芸販売についていえば、JA園芸販売事業の大半は市場流通だが、これは現在、県域完結になっているが、市場法改正などによって市場流通が大きく変わり販売チャネルが多元化するなかで今後も県域完結でいくのかどうか。
 青果センターや畜産センターが会社化され、全国本部の直販事業がほぼ会社化されるが全農としての販売事業は何をするのか。需給調整や政策対応が全国本部販売部門の仕事とされ、会社化で直販事業の競争力が強化されるとされているが、本当にそうなのか疑問が残る。
 9000億円近くまで伸長してきた直販事業の原動力は、直販各部門・会社が品目の壁を超えて一丸となって、量販店の売場確保や生協との提携を進めてきた結果だといえる。おそらく品目ごとの対応ではここまでの伸長はなかったといえる。そういう意味では、今後の直販事業にとっては県域を含めて、全農ブランドとしてどのような販売戦略を建てていくのか。個別の量販店や生協ごとのマーチャンダイジングを行なう大消費地販売推進部の機能をさらに強化したマーケティング本部のような部署が必要だといえる。
 そうした部署を核に直販会社が一丸となって国産農産物の売場を確保していかなければ、厳しい競争に打ち勝つことはできないといえる。
 現在の中期3か年計画は17年度で終了する。JA大会のサイクルと合わせるために、18年度は単年度計画とし、来年2月の経済事業会長会議でその方向性が確認されるというが、18年度の計画、19年度からの中期計画でこうした課題について明確な方向性が出され実行されることで、生産者から本当に信頼される全農になるのではないだろうか。

●生産者・担い手・消費者にとっての「全農事業改革」 (注:▲印は削減)

★5年間で240億円を担い手に還元
 ○要員の削減(5年間で全農グループ職員2万5000人を2万に体制に(削減率20%)
 ○総人件費抑制(賃金体系の統一、常勤役員、全国本部職員の報酬削減)

★生産資材事業の改革
 ○生産資材手数料の一本化と引き下げ
  =16年度290億円→18年度▲18億円、19年度累計▲27億円、20年度以降累計▲36億円
 ○生産資材の広域物流改革促進
  =16年度推定1200億円→17年度▲92億円→20年度▲160億円

★販売事業の改革
 ○米の共同計算の流通コスト削減、販売対策費の廃止
 ○米の手数料の引き下げ
 ○県域直販施設の増設等による園芸直販事業の拡充
 ○園芸の契約取引・買い取り販売の拡大
 ○物流子会社の全国域会社への再編
 ○農産物物流コストの市場連動型運賃導入などによる削減

★生産者と消費者の懸け橋機能の発揮
 ○JA米、播種前や複数年契約での安定取引の拡大
 ○食肉の取引先指定産地の拡大
 ○Aコープ店舗の国産農畜産物取扱拡大
  =16年度1800億円→20年度2500億円→22年度には全農・子会社運営店の国産品100%をめざす。

(2005.12.12)

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