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コラム


中国山東省野菜産地見聞録−−輸入対策の角度で再構築する時代に

中国の輸入野菜と競争する方法

 6月19日から24日の6日間という短期間に駆け足で山東省の野菜産地・卸売市場・北京の卸売市場・小売店を見て来た。
 山東省の野菜と日本の野菜の競争力を一言でまとめると次の通りである。

 日本の優位点:(1)農協組織がある(2)すぐ近くにマーケット(売り先・買い手)がある(3)農外収入がある
中国の優位点:(1)広い農地(2)豊富な労働力と安い人件費

 中国の野菜の栽培技術・商品化の工夫・物流に関するインフラ整備等はその気になれば比較的短期間に日本と同じ程度にまで追いつくことは出来る。
 組織と、マーケット(売り手・買い手)は短期間には出来ない。日本はこの優位性を充分に活かしていない。
 地球規模、いわゆるグローバルな視点で見ても日本には青果物の大きなマーケットが産地のすぐ隣にある。
 アメリカのような大規模の農家が企業として独立をした国では、生産・販売が農家レベルで完結をするが、中国を始め当面日本と競合をする東南アジア等の各国では、何を、どのように作って、どこに売るかは個々の農家にとっては難しい問題である。
 国内の市場・マーケットがまだ整備をされていない段階で、手っ取り早く外貨を稼ぐための輸出ビジネスは結局仲買人・商社に牛耳られるのが落ちである。
 コストを比較して、労賃が1/10、1/20とそれだけを見れば競争にならないが、農家の実質手取りのところで比較すれば現在の野菜輸出の実態は「間接開発輸入型」であり多段階のマージンとしかもリスクは農家に行くようになっている。
 日本向け輸出野菜が安くなれば先ず商社が利益を確保して、順送りをしていけば農家の段階では労賃をただに見ても、輸出用は種子代・肥料代・段ボール代等割増しの経費が掛かっているので借金が残ることになる。しかも中国ではほとんど売れない商品である。
 商社がいくら太鼓を叩いても中国の農家が作るのを止めれば入っては来ない。
 日本は全部の野菜の競争力がないのではない。弱いところを狙い撃ちして来るのであるから品目別に個別の対策を立てれば良い。
 従って農協がユーザーと納入条件を詰めてマーケットを押さえ契約をする販売方法に持っていく。
 幸い日本の青果物はコストダウンの余地がまだ残っている、ユーザーの売り場を確保するため産地の収穫時期による穴を空けないように年間で押さえるには農協組織が役に立つ。
 農協の販売に責任のある役員が、人任せにせず自らエンドユーザーのところへ行って、どのような条件であれば取引きが可能になるのかをとことん話し合うことである。商談が出来る状態になれば、農協が直接契約するか、卸売市場を経由するか最も効率の良い方法を取れば良い。全部を閉め出すことは出来なくても、少なくとも輸入と国産が主客転倒するような状態は食い止められよう。
 中国は経済政策の第1に農民の所得向上を掲げて中央・地方の人民政府挙げて大車輪である。日本では残念ながら有効な国の政策は期待できない。
 農協組織の販売事業を輸入対策の角度から再構築する時代である。

中国の「龍頭企業」について

◆山東省は野菜の最大産地

 中国の農業を大きく地帯区分すると、黄海に面した東部地域(沿海地域)、峡西省・四川省からチベットにかけての西部地域、沿海地域と西部地域の間に挟まれた中部地域で、沿海地域が経済的に最も発展して農業でも野菜・果実の大産地で農家でも中国のなかでは最も裕福な地域である。
 山東省は沿海地域の中で野菜の作付け面積が一番広く、全国への供給基地であると同時に日本向け野菜の産地としても最大である。
 今回の視察では、青島・菜陽・維坊・安丘・寿光・済南と見渡す限りの畑と中国式ビニールハウスの海の中をバスで走った。

◆農村で育っている「龍頭企業」

 中国では社会主義的市場経済の発展と政治の安定の観点から、農業と他の産業との格差、農業の地域間格差を縮小するために農家の収入を増やすことを経済政策の中で最重点項目に掲げている。
 農村に雇用の機会を増やし、農家収入の確保をする具体的な方法として「龍頭企業」の育成が薦めれれている。企業が龍の頭で、村・集落が胴体で、農家が尾で企業が牽引役となって大きく発展するという方式である。
 山東省で3つの企業を訪問した。

 <「龍大企業集団有限公司」 菜陽市
 農村でレンガを作っていた工場が、地元の農産物を原料に一大食品産業に発展をした。1986年の創業であるからまだ15年足らずであるが、青果物・畜産物の加工から関連商品・商業部門まで19の企業集団であり、従業員1万3000人・売上げ84億円以上という規模になっている。
 野菜の主な品目はタマネギ・イチゴ・ナス・キャベツ・ゴボウ・ニンジン・オクラ・トウガラシ等で、これらの原料は全量直営の農場で有機栽培をする。現在は100ヘクタール程度だが将来は600ヘクタールまで広げる計画である。
 商品としては、生鮮品・冷凍・缶詰・ジュースにして付加価値を付けて国内と、輸出先として日本・韓国・シンガポール・カナダ・アメリカ・イギリス・ロシア等である。
 食品工場を中心に、従業員のアパート群から学校・商店まであり、周辺に農場が広がっていて企業集団が町を形成している。

 <「大地食品有限公司」 済南市
 安丘のネギ・生姜の産地の中にある野菜の販売会社である。農家とネギ、生姜の栽培契約をして、農家から泥付きのまま買い取って選別保冷・商品化をして国内と輸出をしている。
 ネギは全量日本向け、生姜は年間4000トンの取り扱いのうち3800トンが輸出である。

 <「桜龍食品有限公司」 済南市
 済南市の郊外で農家400戸と契約をして野菜の輸出を手がけている企業である。
 取り扱いは、タマネギ・ゴボウを主体に約8000トンを日本・韓国・ロシアに輸出をしているが主力は日本向けである。
 この会社のユニークなところは若い社長が10年程前からタマネギの適地を探して各地を歩き、当地に白羽の矢を立てて6年ほど前から契約栽培を始めて事業を拡大していることである。
 また、規模が小さい事もあるが輸出は商社を通さず直接日本のスーパーや食品工場に売り込んでいる。
 現在では従業員160名の企業に育っている。タマネギを主力にゴボウ・里芋など土地の適地であるので儲かりそうな物をトライしているが、社長は自己資金でやっているので従業員の給料を払うのが大変だと言っておられた。
 以上3つの企業を見たが、まさに山東省の野菜産地に龍が育っているという印象であった。これらの企業と省・市・地区の「人民政府」の関係は「応援すれど介入せず」で、企業の誘致・育成に力を入れ、例えば税金(地方税)・土地の集積・電気・水道・道路整備等の応援はするが、企業のビジネスにはノータッチで大きくなっても役人の天下りはゼロとのことであった。

急速に比重占めるスーパー 互角に対応できる農民の組織

◆適地適作で

 山東省だけでも野菜の作付面積は1999年で147.7万ヘクタール、これは中国全体の11.1%で、日本の野菜面積の約3倍という広さである。降雨量は少ないが、黄河の流域を含み地下水や灌漑が整備されていて、肥沃な地帯である。
 従って有機・無農薬の条件が揃っている地帯が広く、その土地に合った作目を栽培することができる。
 日本は逆に適地を人工的に作るためコストが高いものとなってしまう。金の取れる作物を適地で栽培して、加工食品までの付加価値を付ける「龍頭企業」が育つ条件があることは開発輸入を手がける商社のねらいとするところであろう。

◆優秀な人物がリーダーに

 中国中央政府の農民の所得向上政策の1つに、農村の教育水準を上げることが掲げられている。
 率直に言って日本的な一般的な印象は龍頭企業の「頭」となる企業の人物は、情報に疎い農民をまとめて、行政のバックアップを得て急成長をした金儲けをしている典型的な人物という先入観になりがちである。
 今回の視察で合った企業の責任者、社長や市、地区の役所の幹部の皆さんはいずれも中国の大学を出て、日本やアメリカの大学に留学をして学位を取ったり、中国の大学で教えていた人がリーダーとして龍の頭の部分や、それを育てる地位の人達であった。
 企業人として自らのリスクで企業を起し、地域に生産と雇用で貢献している人望のある人達がリーダーとなって農村の振興を図っている構図である。
 山東省の田園風景や農作業を見ていると昭和30年代後半から40年代の日本の農村という印象で、山東省という裕福な農村地帯で中国でも「上の部」であってもやはり農村の遅れを実感させる。
 一方、リーダーとなっている人達は日本やアメリカの一流企業でも、そのまま幹部として通用する人達である。
 中国の農村を見る場合、このような実態も承知しておくことが大切であろう。

◆卸売市場について

◇ 1 
 まず卸売市場という表現であるが中国の卸売市場は日本と違い、売り手(生産者、産地仲買商人、等)と買い手(消費地仲買商人、小売商、大口実需者、消費者等)が直接相対で売買を行いその場で現金決済をする「卸売の場」である。
 中国の卸売市場は大きく分けると次の3種類となる。
 (1)産地の地場流通中心の卸売市場。
 (2)中・小都市の地元消費者と、大都市への供給の卸売市場。
 (3)大産地にあって全国の都市へ転送する産地卸売市場、大消費地で全国からの入荷を受ける消費地卸売市場でこれらは中央卸売市場といわれる。
 今回は大産地の、寿光蔬菜卸売市場と北京市の大鐘寺卸売市場、新発地卸売市場を視察した。
 中国の卸売市場は1987年から始まった改革・解放政策によって、「統一買付・統一販売」から、自由な競争の「社会主義的市場経済」に移行をするなかで、生産と消費を仲介する機能として卸売の場が必要となり大規模な卸売市場に発展した。
 国による統制から自由な流通へ移行をする場合、一般的に小売り段階がまず先行し、供給のための流通ルートができ、生産が引っ張られる形となる。
 小売りの段階や海外のマーケットは一挙に近代化に進むが、生産・流通の段階は時間がかかる。

◇  ◇
 中国のように、農家が小規模、多品目、地域差が大きく、一方、消費も所得格差、少量多種、購買頻度が高くしかも産地と消費地の遠いところでは生産と消費を仲介する機能が不可欠である。
 一般的に、農村の産地商人・ブローカーは、“悪徳業者”というイメージが強く、これを排除することが合理的、コスト削減のように主張する論者が多いが山東省で見た範囲ではあるが、
 (1)情報はテレビ、携帯電話で何処でも入手でき、現に生産者は北京、東京の値段をリアルタイムで取っている。
 (2)物流も幹線道路が整備されトラックも増えている。
 (3)農村は集落単位に纏まっており、地縁、血縁、人と人の繋がりを大切にする中国で農家を誤魔化すような商人は自然淘汰をされているであろう。

◇  ◇
 中国では産地仲買人、消費地仲買人が流通の主役となって、卸売市場での相対、現金決済による現物取引きが現状の生産、消費を仲介する流通に合っているので卸売市場が活況を呈して大きくなっているのであろう。
 今後、スーパーマーケットを主流とするバイイングパワーが強くなる中で量販店、食品産業等大口の実需者から自分達に都合の好いような流通、生産の再編成の要請が起きるであろう。
 商流と、物流の分離等、流通過程の再編成が急速に行われると、組織化の遅れている農民はますます弱い立場となる。

◇  ◇
 スーパーマーケット等小売り段階の構造変化が農業に及ぼす影響について、今回見た青島、寿光、済南、北京と先に見た上海でもスーパーマーケットが急速にウエイトを占めて来ているとの印象を持った。
 また現在中国は所得の格差が大きく、住居も高層のアパートが増え生活様式が変わってきており、共稼ぎが多いことなどを見ると、スーパーマーケットの拡大によるバイイングパワーが強くなり、生産、流通が従属させられる姿になりかねない。
 中国では、歴史的な経過から協同組合のような組織を直ちに作るのは難しいであろうが、農家が自衛の手段を持たないとますます所得の格差が開くことになる。
 中国の野菜・果実の技術・生産力が上がり、一方国内のマーケットが大都市に集中して、大型量販店等のバイイングパワーが大きくなった時、国内の需要に産地が対応できないと、手っ取り早い売り先として日本の市場がターゲットになる可能性が大きい。
 巨大な小売りのバイイングパワーや、開発輸入の商社と互角に対応の出来る農民の組織を作っておくことが当面の課題であろう。(社団法人 農協流通研究所理事長 原田康)



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