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コラム


営農の「指導員」か「相談員」か


◆「営農指導」のイメージ

 営農指導とは何かについて、三輪昌男教授は「農協改革の逆流と大道」(農文協)のなかでイメージの整理として「営農指導とは、農業者に対する農業の生産技術、経営技術の指導(生産物販売・生産資材購買の情報提供を含む)である」とされている。
 農協の営農指導についていろいろな受け取り方があるが三輪教授のイメージの整理が判り易い。
 この考え方をベースにして農協の営農指導を見てみると、何を作るか、どのように作るか、販売はどうするか、という問題を、農家といっしょになって考え、農家の実力にあった生産の提案をすることとなろう。
 これを基本として、農協の品目部会等を通じて地域全体の営農計画に広げ、生産・販売の規模をマーケットに合わせた大きさに拡大をする。販売が終了したら結果を分析して次のステップに進み、農家の収入を増やし、地域全体が豊かになっていく、営農指導とはこのような農家の生産の現場に両足を置いた仕事であろう。
 何を作るかということから始まるが、売れるものを作るためには市場調査、いわゆるマーケット・リサーチをして、売る時期と売る相手を決めることから始まる。例えば、収穫時期を延ばす作型を組み合わせて売り場を確保する期間を長くするとか、スーパーや生協との契約とするか、卸売市場に出荷をするか、農協の直売所で売るか、原料として加工メーカーに売るか、これらを組み合わせた方法とするか、まずここから始まる。
 販売をするための商品作りは個々の農家の実力、地域の実力を踏まえて具体的な生産に入ることになる。
 買い手、最終的には消費者の要望に応えた商品を作るためには、専門知識に基づく生産資材の選定と、高度な生産技術と経験が無くては良いものはできない。
 ハウス栽培などはコンピューターの制御技術が進んでずいぶん楽にはなったが、使いこなすには専門的な知識と経験が要る。
 また、有機、減農薬、安全、安心で消費者が満足をする商品を作るには、生育のステップに合わせた管理で手間がかかる。
 先進地の視察も国内の産地だけでは間に合わず、海外の技術を学ばなければ間に合わない作物や技術がある。
 また、インターネットで情報は従来に比べれば手軽に入るようにはなったが、例えば、専門的な技術についてどこの試験場、どの大学のどの先生が詳しく、アポイントを取るにはどうするかは個々の農家では難しい。
 栽培の技術は、「売れる商品とは何か」にポイントを置くと、農家の生産の現場で実証をすることが最も大切なこととなる。
 農家の相談の窓口になり、指導もできる、これが農協の営農指導の仕事であろう。
 更に、専業農家や法人化が進めば技術指導だけでなく、経営管理等マネジメントに対する相談、提案の機能が今以上に求められる。
 これができるのは地域の農業に詳しく、農家(法人)の経営内容を知った上で信頼を得ていることが条件になろう。
 一般の企業コンサルタントのような評論家では農家の指導は難しい。

◆農家の手取増に役立っているか

 収穫以降の鮮度管理、選果・選別や加工等により付加価値をつけて販売、代金が農家の口座に振込まれて完結する。
 農家の手取額が計画と比べて多かったか少なかったか、その要因は何かについての分析を行い、次の作付けの改善をしていくことも営農の役割である。
 しかしながら、現実はほとんどの担当者はデスクワークと集・出荷の作業、配達、資材や共済の推進等いわば雑務に追われている。
 コメの生産調整、地域営農計画の作成・説明、大型農協ともなれば管内に7〜8の市町村があり、それぞれの農業振興計画との調整が必要となり施設1つ作るのにも容易でないのが実情である。
 資料の作成と会議に追われて、営農指導員として専門的な知識、技術を勉強する時間や機会がつぶされ、農家のほうが情報も技術も上となれば足も遠くなる。
 農家から見れば、「よく来てくれた、この点をどうすればよいか困っていたところだ」とか、「先進地の視察、試験場や大学に相談に行くのにアポイントを取ってくれないか」とはならず、「今度は何を持ってきたのか」ということになってはいないか。
 行政も農協組織も上の方で色々アイデアを出して、現場との距離が埋まらないままに机上のプランを予算だ、計画未達だと、農家に持ちこむための営農指導の強化では、指導員も農家もうんざりとなろう。

◆営農の赤字が足を引っ張る

 次に、営農指導部門の赤字問題を見てみよう。
 営農指導部門を黒字にしないまでも少なくとも収支トントンにするには、営農指導活動による受益者から費用を徴収することになる。
 指導は定量効果の測定が難しいが、そうかといってコンサルタント的な案件毎にいくらといった費用負担は馴染まず、農家に費用を持ってもらうとすれば、「よくやってくれている、ありがたかった、助かったよ」の評価を何らかの形で負担をしてもらうことであろう。
 購買部門、販売部門は営農指導の活動で事業分量の維持や拡大となって効果が出る。共済・金融部門も同様であるが、ダイレクトに営農指導の評価が効果を挙げるのは共済の推進ではないか。
 これを逆に見れば、営農指導の効果が出なければ費用を負担するところが無くなると言うことでもある。
 いずれにしても、営農指導部門の費用は農協の各事業の拡大を支えるコストとして各部門が事業費用の段階で負担をし、農家にも一定の負担をしてもらい、「営農部門の赤字」は解消するべきである。

◆肩書きは「営農相談員」

 農協の職員、役員でも同じであるが、農家組合員を指導するということに時代錯誤の感がする。生活指導という表現は更に疑問だ。
 農家に対して営農を指導するという表現よりは、営農に関する相談の窓口と言うほうがよいように思われる。
 「営農指導員」という肩書きよりは「営農相談員」の方が実態にも合っているのではないか。
 部や課の名前は営農部、営農課でもよいが、担当の肩書きは実態に合わせた方が職員も農家のところへ行き易くなるのではないか。
 費用負担も「指導」であれば見合う効果が出ないと請求も難しいが、「相談」であれば掛かった費用の何がしかを負担することには抵抗が少ないのではないか。

(社)農協流通研究所 原田康



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