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コラム


ガリバー旅行記

 岩波の「図書」2002年8月号で作家の小林恭二氏が「ガリバー旅行記」の新訳、岩波書店刊の「ユートピア旅行叢書」第6巻、富山太佳夫訳を紹介、現代に通用する風刺としていくつかの物語を取り上げられていた。
 早速手に入れて読んでみたが、面白いのでいくつかのエピソードを紹介する。
 ガリバー氏は1700年代、18世紀初め頃のイングランド人らしく、冒険好きで機会があると船で世界中を周り、日本にも1709年5月27日オランダに帰る途中に寄ったが、滞在期間が短く残念ながら面白いエピソードは残していない。
 ある時船が難破して、磁力によって浮かぶ島の都市国家に救われたが、その国で民衆を苦しめないで金をあつめる効果絶大の方法をめぐって議論、一案は、悪徳と愚考に税金を課すこととした。なるほど金持ちから税金を取る方法だ。
 もう1つの案は、人がなにより価値ありとしている心身の長所に課税をする方法で、最大の重税がかかるのは異性にもてまくった男であり、税率は受けた好意の数と中身の査定であるが、自己申告も可とする。
 機知、勇気、礼節なども重税を課す。これも自己申告。ただし、名誉心、正義、知恵、学識などは滅多にお目にかかれない特質で、隣人がそれを認めるものはいないので課税の対象外。
 女にも課税すべきであるが、その基準は美貌と着こなしで、自分の判断によって決定する権利を与える。ただし、貞節、純潔、良識、温順などは徴税する程あるわけではないから課税対象外。今の日本ならば、おしゃべりとブランド指向を課税に追加すべし。構造改革とデフレ対策で税収に四苦八苦している小泉首相にも大いに参考となろう。
 ガリバー氏が馬の国フウイヌムの国王に祖国イングランドの状況を説明し、戦争について、ある国が別の国と戦火を交えるとき、何が原因、動機かは無数にあり、悪政に対する臣民の怒りを抑圧したりそらしたりするための戦争、また単なる意見の食い違い、例えば肉がパンなのか、パンが肉なのか、口笛を吹くのは悪徳か美徳かなど、ともかく例は尽きない。
 敵が強すぎて戦争になることもあれば、弱すぎて戦争になることもある。
 ある君主が、貧しくて無知な民衆が住む国を攻めた場合、その半数を死に至らしめ、残りを奴隷として彼らを文明化し、野蛮な生活から引き戻してやろうというのは合法とする。アメリカのブッシュ大統領も、400年ほど前のご先祖様の遺伝子がまだ健在とみえる。
 もう1つ、不死のお話。ラグナグ国なる国には、極少数ではあるが不死の人がおり、家系や貧富によるものではなく全くの偶然の産物であるという。
 ガリバー氏は、なんという幸福な国民であるか、どんな人にも不死の機会があるのは、古代の美徳の生きた手本、絶えざる死の不安がもたらす心の重圧も暗澹もなく、精神の自由闊達を楽しめると賛美した。
 そして、もし自分にそのような機会があれば、倹約と運用で大資産家となり、知識を身につけ、重要な事件、出来事、日常の生活の様子を克明に記録に残せば私は知識と知恵の生きた宝庫となり、国民に神託を告げる者となるでしょうと、やった。
 これを聴いた国王は念のため不死の人を見、話を聴くがよいと案内をした。ラグナグ国では80歳が人生の極とされ、その時までに彼らも他の老人並みとなっているがさらにそのうえ、死ぬに死ねないという絶望的な見通しから頑固で怒りっぽく、強欲、自惚れのうえに嫉妬と手に余る欲望が剥き出しになる。
 若い連中の持つ快楽とは無縁であることを思い知らされ、葬式を目にすれば自分には望むべくもない憩いの港に他の連中がさっさと入ってしまったことを嘆き悲しむ。彼らの中で一番惨めでないのは、すっかり耄碌して記憶をきれいに無くした者である。
 国王は、これらの不死の人を2人程祖国に連れて帰って、人々の死の恐怖を消すのに活用したらどうかと提案された。
 ただ、惜しむらくは王国の基本法によって不死の人は一切国外に出せないこととなっている。 (原田 康)



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