農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム


赤字退治には大義(?)あり

 大型農協は事業内容、規模、関連企業を含めた従業員の数、地域経済に及ぼす影響で地域の企業のなかでもトップレベルとなっている。
 農協がトップレベルの座を維持しているのは、「協同組合」であることと組合員農家が必要とする全ての事業を総合的に行なっていることにある。
 部門別の収支を今の時期に改めて問題とするのは、営農指導、購買、販売の赤字が信用、共済の利益を喰うからという発想である。
 全部門が損益計算書の当期利益の項で黒字であることがもっとも望ましい姿であるが、部門を合計した全体で事業計画の当期利益を確保し、配当と内部留保ができていれば経営としては合格である。
 信用、共済の利益を他の部門が喰うのはケシカランという意見が出てくるのは農協の事業のうち金融を利用をしている人達(主として準組合員と想定されるが)から見れば金融部門で出た利益は自分達への還元の利益であり、他の部門の赤字を埋める財源にするのは間違いであるということとなり、金融利用の組合員から見ればこのような見解が出されるのも当然であろう。
 農協の部門別収支を見ると信用、共済以外の部門は赤字のところが多い。赤字の原因を詳しく分析するとそれこそ農協の数だけの要因と対策がでてこよう。
 例えば営農指導部門の赤字は、農協として力を入れる重点部門であることから、体制、活動内容、経費の賦課をどのようにするかは農協の置かれた条件の中での経営判断であり、事業計画、決算で組合員に十分納得のいく説明をして承認されれば外部の人がとやかく言う問題ではない。
 更に、赤字が問題となる時にいつも例に出されるエーコープ店についてみると、開店当時とは商圏、競合店等周囲の環境がすっかり変わって、スーパーマーケットのオーナーであれば直ちに閉鎖、移転、新規開店をするような店舗を地元の組合員の反対や農協の一斉推進など他の事業への影響からずるずるとそのままの状態で赤字は購買部門に計上される。
 これを店舗担当部門の運営のまずさによる赤字という分析では解決をしない。
 信用、共済の一斉推進も、組合員から営農を始め販売事業の評価が援軍となってライバルの金融機関よりもコストをかけずに成績を上げている。
 赤字部門をそのままというのは経営者としては失格であるが、一方全国の農協の数字を単純に集計して部門の収支を云々するのも見当違いではある。
 信用事業の黒字を喰うことで農協の金融事業の基盤が弱くなり、農協の経営が危なくなる恐れがあるから赤字部門を整理せよとの意見は、どのような立場の人であれ「総合事業を行っている農業協同組合」を理解していない人のご意見というべきである。
 大型合併、1000農協構想が出された時に農協組織は金融を中心にした再編成の方向が決まり、部門採算を基準とした事業の見直しの方向で動き出している。
 最も力を入れる部門とされている営農指導も、地域営農振興のプラン作りや行政との調整が忙しく、以前であれば町の役場と話せば済んだものが今ではいくつもの市、町、村との調整を農協の営農指導担当がしないと一歩も前に進まない。
 農家の圃場に出掛け生産から販売までの相談役として、本来の業務であるコンサルタントが後回しとなっているのが実情ではなかろうか。
 営農指導の経費も、人件費以外は品目部会、婦人部、青年部等の組織活動への助成金が大半であろう。
 このところ相次いで起きている不祥事と、部門収支の問題をありのままに組合員農家に戻して、監督官庁から存立を問われていることを説明し、農協としての方針をとことん議論をして対策を立てるべきである。
 今、農協組織が抱えている問題は従来のように形式的に農協組織内部、役員のレベルの議論ではなく集落に下ろし組合員と膝を交えた議論をすることである。
 減反の割当などで農家との距離が出来、農協運動の原点である“集落座談会”が形式的になっているのではないかと危惧される。
 組合員農家が農協に求めている機能は何か、を再度問い直してみたらどうか。 
 単に現在赤字部門であるからとの理由で切り捨て、農業協同組合の本質を見失わないよう、組合長はシッカリと腹を据えて経営に責任を持つことこそ今求められていることである。 (原田 康) (2003.4.14)


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