農産物直売所の過大評価は販売事業をミスリードする
農産物直売所が一躍脚光を浴びている。朝市の延長的な売り場を「直売所」、生産者のグループが主体となって運営する新しい業態としての店舗を「ファーマーズ・マーケット」と称するコンサルタントもいてともかくブームである。
農協は、従来この種の販売を共販、共計の秩序を乱すものとして邪険にしてきたことへの反省も含めて、各地で多種多様な農協の直売所ができている。
生産者の皆さんが自主的なグループを作って創意工夫をし、生産と消費を結びつけることに農協が応援をするようになったことは結構なことである。農協が地域と結びつき、観光客にも喜ばれ、農協としてともかく分かりやすい事業である。
なんといっても一番の魅力は、ご婦人方の個人口座に販売代金が入ることで自由に使える小遣いができたことであろう。農家の女性の皆さんにとっては画期的なヒットで、いきおい運営にも力が入る。
旬の野菜、果物、花や裏山の山菜、手造りの漬物からお菓子など地域色豊かな楽しい店ができている。
しかしながら、可能性が過大評価をされ、農協の直売所の拡大が生産と消費を直接結びつける新しい流通ルートを創り、地域農業の振興の切り札となり、直売所を発展させることが現在議論をされている農協組織の改革を促し、連合会主導の販売事業から生産者の創意工夫による単協を中心とした販売事業への転換をもたらす論拠となってきているとなると、これはちょっと待ってくださいとなる。
先に発表された農水省の「農協のあり方に関する研究会」の報告書や、その後の本紙の対談での研究会関係者の意見をみると、現在の全農を中心とする農協組織の販売は組織の維持のための事業であって、直売所を発展させ生産者自らが消費者のニーズを反映した生産、販売をすることが本来の農協の販売事業という考え方のようである。
農産物直売所が、卸売市場を中心とした複雑な流通を改善し、全農を中心とする連合会主導の事業をも改革し、生産者の皆さんが主役となった農業の振興と、併せて食料の自給率の向上、このような可能性を持った直売所が全国にできていることこそが、農協改革の具体的な対案となるものとの見方である。
全農や県連の農畜産物の主要な販売先は、スーパーマーケット、生協などの量販店、外食・中食のチェーン店、食品メーカーなどである。巨大なバイイングパワーを背景にした厳しい取引条件と、輸入品に対抗して販売をするのには、農協組織とその関連企業が時代の変革に合わせ、商社や業者との競争の中で努力をして流通の当事者としての卸機能を築いてきた結果である。
全農をはじめ各県の連合会とその関連会社は、コメ、青果物、畜産物、地域の特産物とそれらの加工品を、単品で売るだけではなくあらゆる商品を総合して取引先へのトップセールスと、あらゆる業態・業種、全国規模からローカルまで、365日、24時間いつでも納品のできる体制を組んでいることで組合員農家の作った物は販売ができているのである。
また、卸売市場の機能を活用した農協組織による出荷量の調整により、季節、天候による毎日の大幅な出荷量の変動と、品質格差がありながら出荷の全量が販売されしかも間違いなく代金が入っている。
「あり方研究会」はこのような努力を知ってか知らずか、全農を中心とした連合会は、農協の自ら販売をしようとする芽を摘むもので、今後は段階的に縮小をして農協の販売の支援として情報の提供と、代金決済をすればよいという。
その一方で、部門独立採算を強調している。
直売所が既存の流通を変革し、地域農業の振興、食料の自給率を高めるところまでの発展をさせるのには、立地のよいところへ大きな店を建て、POSを入れ、IT技術を備えて、品揃え、品質管理をした店を多店舗作るとなれば、農協の遊休施設の活用、既存の改装ではとても間に合わない。
国産の農畜産物を売るとはどういうことかの現実をみて、農産物直売所の可能性と限界を正しく認識をして判断をすることである。
いずれこの問題は農協大会のテーマとしても議論をされようが、農協改革の路線にそった販売事業の対案として、農産物直売所の過大評価と、現状の認識不足によるミスリードが危惧される。 (原田 康) (2003.6.12)