戦争のプロパガンダ、100年変わらず
戦争を始める時と、起こした戦争を正当化するために指導者や政府が使うプロパガンダ「敵が先ず仕掛けてきた、我々は平和的な解決を望んでいるが、偉大なる使命のためやむを得ず武器を取らざるを得なかった」は第一次世界大戦以来幾多の戦争を通じて、更に今も続いているイラク戦争にも同じものが使われている。
背景は、資源と権力
戦争の背景には必ず地政学的、経済的な利害があり、それに宗教が一枚加わる。
ポーランドは、13世紀の十字軍の時代から東西の軍事上の要所で、西から十字軍、東から蒙古軍が来ての取ったり取られたりに始まり、17世紀から19世紀までの間ヨーロッパの列強帝国に挟まれ何度も国土を分割され地図の上から三度も消え、ようやく第二次世界大戦が終わった1945年になり現在のポーランドとなったというまさに戦争の歴史の国である。
首都ワルシャワの歴史博物館にはこれらの戦争の歴史が展示されているが、その中に壁いっぱいに“戦争絵巻物”ともいえる大きな画がある。
先ず先頭を長い槍や刀を持った雑兵が進み、その次に甲冑に身を固め馬に乗った騎士、次に華やかに着飾った王侯・貴族の一団が続き、最後に金ピカの衣に帽子を被り十字架を持った僧侶か神父が来るという図である。
神聖な大儀のためには武器を持って異教徒と戦い正義を守るという名のもとに、支配する領土を広げ富と権力をほしいままにした戦争の本当の姿がこの行列の順番に図らずも現れている。
プロパガンダ10の法則
戦争を正当化するために使われるプロパガンダには10の法則があるとして、歴史の事実に基づいて詳しく解説をしたのが『戦争プロパガンダ10の法則』(アンヌ・モレリ著 永田千奈訳 草思社 2002年3月)である。
同書によると、この本の基になったのがアーサー・ポンソンビー(1871年〜1946年)というイギリスの名門に生まれ下院、上院議員となり大臣まで経験したが、平和主義を貫くポンソンビーは第一次大戦中に義勇兵を募集するために行ったイギリス政府の戦争のプロパガンダを批判するパンフレットを発行し、のちに「戦時の嘘」を書いた。
ポンソンビーによると、戦争プロパガンダの基本的なメカニズムは10の法則に集約出来るとしており、アンヌ・モレリがこの10項目を具体的に歴史の事実から証明をしたものである。
第一次大戦、第二次大戦から湾岸戦争、コソボ紛争、イラク戦争まで10の法則が交戦国双方でどの様に使われて来たかを解説している。
少し長いが、法則を紹介する。
1.「われわれは戦争をしたくない」
2.「しかし敵側が一方的に戦争を望んだ」
3.「敵の指導者は悪魔のような人間だ」
4.「われわれは領土や覇権のためではなく、偉大な使命のために戦う」
5.「われわれも誤って犠牲を出すことがある。だが敵はわざと残虐行為におよんでいる」
6.「敵は卑劣な兵器や戦略を用いている」
7.「われわれの受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大」
8.「芸術家や知識人も正義の戦いを支持している」
9.「われわれの正義は神聖なものである」
10.「この正義に疑問を投げかける者は裏切り者である」
太平洋戦争を経験した人なら、戦時中これらのプロパガンダが日常生活の中に入り込んでいたことを思い出すであろう。
法則はITよりも強し
現在でもメディアを通して、イスラエルとパレスチナの“戦争”も民間人が攻撃をするのは「テロ」で、正規の軍隊が戦車やヘリコプターでミサイルを撃ち込むのは「正義」というプロパガンダが流されている。
「9・11」に端を発したアフガニスタン、イラクの戦争もこの10の法則通りに進んでいる。
情報技術が発達し、言論も大幅に自由となり、世界中の人がリアルタイムでテレビを見ている現在でもこの10の法則が実証されている。
科学技術の発達と人類の知恵の発達とは、どうやら無関係らしい。 原田 康
(2003.10.24)