安全は科学、安心は納得
安全は科学、安心は納得と違う分野を“安全・安心”とポツで結んでキャッチフレーズにすることが間違いのもとである。
安全は科学的な裏付けに基づいた対応策が不可欠である。
食品で言えば、例えば鳥インフルエンザは発生の原因、伝染のルート、人への影響、予防の方法、発生したときの措置等について科学的な説明と対策が必要である。
現在の科学の水準でも不明な点は、そのことも合わせて明らかにすることである。
残留農薬問題は、農薬の種類、使用の回数、期間をきちんと守ることで安全は確保できる。最近話題の回転ドアーもビルにとっては便利なものであるが、五体満足な大人でも危険なドアーであり緊急停止、はさまれないための枠の設置は構造と技術の問題である。
安心は、安全であることを納得することであり、これは生産者、メーカー、流通関係者、消費者が共同して作り上げるものであろう。
安全と安心を同様に扱いキャッチフレーズとすることで責任があいまいになり、これにマスメディアと売らんかなの商魂が加わっておかしくしている。
アメリカで牛のBSEが発生してアメリカからの牛肉の輸入がストップしている。
日本のBSE騒動は、肉骨粉の輸入、使用の禁止を明確にしなかった責任をあいまいにして、狂牛病という映像が風評被害を拡げ、時の農林水産大臣がおおあわてで全頭検査、疑わしき部位は全部廃棄とやったことが今になってアメリカとの紛争のタネになっている。
吉野家の牛丼のレベルの話ではない。検査の対象とする牛、廃棄をすべき部位等をこの際、国際的にも通用をする基準を科学的な根拠にもとづいてハッキリさせるべきである。
いつもの手で、アメリカの圧力で政治的な解決をして、消費者の要望に応えて安い牛肉を入れましたとならないようにするべきである。
◆“政治”が安全基準を変える?
4月23日の日経新聞によると、日米政府は7月の参院選挙後、11月の米大統領選挙前の中間で米国産の牛肉の輸入再開をする政治日程を考え、BSEの安全基準見直しの作業部会の設置を決めるという。
牛肉の安全の基準まで米大統領選挙に協力する小泉内閣が世論調査をすると高い支持率を続けている。なんとも情けない姿である。
鳥のインフルエンザにしても、食品安全委員会は3月11日付で、万一食品に鳥インフルエンザウイルスがついたとしても鶏肉や鶏卵を食べることでヒトが感染することはなく安全です、と発表をしたがマスコミの扱いは小さく、発生した養鶏場の全部の鶏や鶏卵を処分をしたり、広範囲の移動禁止処置による危険性が大きく報道され、届け出が遅れたことを社会的な責任として追及する事件に拡がり、カラスまでが入ってきて食べても安全の情報は隅に押しやられたままとなった。
スーパーマーケットによっては、安全性をキャッチ・フレーズにするため、九州の産地からパックにした鶏肉、鶏卵を保冷車で運ぶのに感染地帯の高速道路を迂回してフェリーで運ばせるというところまで出た。もちろん割増運賃は出荷者負担だ。
◆被害者が加害者になる国
BSEも鳥インフルエンザも最大の被害者は、発生した農場であり、移動禁止となった範囲の農場と風評被害で価格の下がった生産者である。
科学的な根拠があいまいなまま、法律や行政の指導で廃棄をしても補償が明確でない上に、社会問題として大騒ぎをすることで被害者が加害者にされてしまっている。
トレーサビリティ・システムは安心を目で見えるようにしたものである。安全であることを目で確かめることで納得をする仕組みである。
HACCP(ハサップ)による安全性の確保の手法も、製造のプロセスをきちんと管理、監督、記録をすることで間違いを防止する方法であるが、チェックをするのはやはり人間である。
いくらシステムを作っても「ふさわしくない人間のもとではHACCPは“コーヒーでも飲んであとは祈るだけ”Have A Cup of Coffee
and Pray の略語にすぎない」(エリック・シュローサー著「ファストフードが世界を食いつくす」楡井浩一訳 草思社p300)。(原田 康) (2004.5.7)