大切なことを落とした所信表明
10月12日に招集された臨時国会で、小泉首相が所信表明の演説をした。
夕刊に全文が載っており農業関連の所信があまりにも少ないので、内容よりまず分量によって首相の問題意識をみることにして行数を数えてみた。
一行の字数が11字で小見出しを除いて演説の全文は625行、うち農業関連はお終いの方に14行でしかもその内9行が食の安全とBSE関連であり、農業という字が出るのは4行半である(なお、これは日本経済新聞12日の夕刊による)。ちなみに郵政民営化は冒頭に2カ所で56行と最大のスペースとなっている。
農業問題の内容は、とみると具体的に何をするかの言及があるのはBSE問題について“国内措置の見直しとともに、米国と輸入再開に関し協議してまいります”だけである。
2003年12月24日、クリスマスイブなので覚えやすいが米国でBSEが発生、米国産牛肉の輸入禁止以降これまでに小泉首相は数回BSE問題で発言をしているが、一貫しているのは大統領選の前までに輸入を再開するということである。選挙の終盤戦に盟友ブッシュさん宛に、はるかに遠い日本からエールを送った。
一国の首相が内閣を改造して新しく出発をする国会での所信表明は、その時点で最も重要な課題についての考え方と施策について述べる場である。
農業問題としては先進国のなかできわだって低い我が国の食料自給率をどのようにして引き上げるか、さらに当面している二国間、多国間との自由貿易協定でも各国共に利害の対立する農業問題を、自給率を上げることと自由化をすすめることについてどのように舵を取ろうとしているのか、首相としての方針を出すべきであろう。
演説ではこの点について、BSEの次に農業という字が出てきて“農業の競争力強化を図るため、やる気と能力のある経営に支援を重点化するなど、農政改革にとりくみます”というのが4行半ある。“やる気と能力のある経営”を行政が認定しようとするところにどだい無理がある。しかも“やる気と能力のある経営”とは言外に“やる気と能力のない経営”が農業の問題であり、これを排除することで国際的な競争力がつくといっている。
これが選挙で多数を取った内閣総理大臣の方針である。
「ゴチャゴチャ云われるこたァねえ、お天道様とコメのメシは付いて回らァ」とは落語に出てくる道楽三昧の若旦那のセリフで、勘当で無一文、真夏の炎天下でフラフラになって「お天道様は付いて回るが、コメのメシはついて回らねェ」がこの噺のオチである。 (原田 康)
(2004.11.5)
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