農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム

二つの中国

 現在の中国には三つの格差があると云われている。一つは地域間、二つ目は農業と他産業、三つ目は農業内部の格差である。
 最近、湖北省の農村を調査する機会があり武漢から山峡ダムで有名な宣昌までの周辺の農家を訪問したが、北京、上海など沿海地域との格差はとても同じ国とはいえない程開いてきている。
 中国で“二つの国”といえば政治的に香港か台湾との関係を指すが、三つの格差による貧しい農村の状態は二つの国と見た方が判りやすい。
 中国の人口は公式には13億人で、実際はもっと多いと云われているが農村人口が7割の約9億人でその内約1億5000万人が潜在失業者であるといわれている。
 中国にも日本並みの所得を取っている人もおり、このような統計は確かめてないが仮に2%でも東京都人口の2倍くらいの大金持ちが沿海部の大都市に集中している。北京や上海の繁華街、デパート、スーパーマーケットはブランド品、高級品のオンパレードで品質、価格は日本並みである。流石に食品は安い。街は10年前の自転車の洪水が自動車の渋滞に代わり3ナンバークラスの高級車がごく普通の景色となっている。
 豊かな人達が増え食品の需要が急増して、安心・安全な健康によい食品がブームになるような先進国なみの食品のマーケットができているが、一方で生産と消費を結ぶ流通の仕組みができていないので点と点を結ぶようなことになっている。マーケットが点であるので北京、上海を飛び越えて生鮮野菜が日本へ向かうことにもなっている。
 湖北省の面積は18万km2でほぼ日本の半分の広さに人口5700万人、うち農家人口が約3000万人である。農家の平均耕作面積は5〜7反歩で、出稼ぎに行った人のを借りたりで大きな人で1〜1.5町歩と一戸当たりは零細である。中国では日本のように隣との境を畦で仕切らず、同じような作物を並べて作っているので一枚が広く大農場の様に見えるところが多い。
 平均的な農家の働き手は夫婦と年を取った両親で、若い人は皆出稼ぎで旧正月に帰るくらいである。
 武漢から西・北にかけ江漢平原が続き、高速道路を200〜300km走っても平らな農村風景が何処までも続いている。このあたりは伝統的にコメ、菜種、綿花の輪作地帯で訪れた11月始めは今年の干魃の影響で綿花の収穫が遅れ、まだ手による摘み取りをしている隣で菜種の定植の真っ最中であった。来年の4月頃は菜種の花で見渡す限り黄色の絨毯となる。
 広大な農地は何処も遊んでいるところが無くきれいに裏作で埋められている。耕作は人手と水牛が主力で、ようやく耕耘機が普及を始めトラクターはほとんど入っていない。夫婦二人で表、裏作をしっかりやれば当然のことながらとても忙しい。
 農家の収入は、データもあまり確実といえないが統計や聴き取りによると、小規模農家の年収が7〜8万円、大きな農家でも15万円位という。計算違いで一桁間違えたのではないかと確認をする金額である。
 中国の格差は歴史的な発展過程の要因があるのでややこしいが、農産物で見ると「市場経済」に対応した販売、流通の仕組みができていないことが一番の要因であろう。需要と生産のミスマッチが農家へのしわ寄せとなっている。
 江漢平原から武漢、上海まで長江を1万トンクラスの船便の利用ができ、高速道路も整備されていていわば近郊野菜、果実の立地にありながらコメ、菜種、綿花の輪作で野菜、果実は殆ど見られない。何とももったいないことだ。
 ともかく忙しい個々の農家の人達には考える余裕がないか、その気になっても資金と売る手段がない。
 有能なリーダーがいて野菜団地を育てているところも出てきているが、点と点を結ぶ方式ではマーケットは国内より日本や外国の方が手っ取り早いことになる。
 中国の農村に農協のような組織が育ち、13億人を超える膨大なマーケットを相手にする販売の仕組ができれば、日本にまで生鮮野菜をもってくるのも減るであろうし、農家の人達が豊かになれば中国の社会が安定し日本と中国の友好にとっても大いに歓迎すべきことである。 (原田 康)

(2004.12.8)

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