(財)協同組合経営研究所(福間莞爾理事長)は2月22日、2006年研究総会を虎ノ門パストラルで開いた。今年のテーマは「際限なき競争社会の中での協同組合の役割」。市場主義が強まるなかでどう協同組合が構造改革を果たしていくか、海外の動向も含めて研究者、協同組合役員などが報告し議論した。なかでも注目を集めたのはやはり農協のあり方。今年のJA全国大会議案審議会の専門委員でもある石田正昭三重大教授が、組合員の協同の力を引き出すための組織再編とJAが担うべき事業について提起したほか、田中久義(株)農林中金総研専務がEUや米国の農協で広がっている「持ち株協同組合」化の流れなどを紹介した。
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◆海外の農協で進む持ち株協同組合化
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約120人が集まった研究総会。2月22日 |
農林中金総研の田中専務は市場主義経済が強まるなかでの欧米の農協の動向について講演。90年代以降、各国に共通するのは系統組織の2段化(連合組織と単協)と、連合組織の株式会社化の動きだという。
たとえばフランスでは、協同組合金融中央機関に実際の金融事業を集約し、単協は事業をせずに貸し付け審査のみを行うという再編をした。さらに中央機関を株式会社化し、単協への出資を制度化している。これで単協の自己資本比率が向上し、金融機関としてグループ全体の格付けが上昇したという。
これらの動きは市場主義経済が強まるなかで、資本調達手段を多様化させ「強まる市場主義のなかで資本問題を解決する動き」と田中専務は指摘した。同時に協同組合が子会社を設立する動きも活発になっているが、それにともなって「利用はせず投資目的だけで出資する組合員」を認めており「出資と利用は一体」の原則が揺らいでいる。
また、農産物販売では大企業の競争に打ち勝つためマーケティングを重視するが、一方で組合員になる条件として全量出荷義務を課すなど統制の強化をする農協(連合会)もあるという。
多様な対応が模索されるなか、金融の論理と協同組合の論理の整合性をとることが難しくなり協同組合への関心も低下しているが、たとえば、カナダでは「協同組合は単一である必要はない」と整理、「協同組合原則は組織原則ではなく運営の原則で維持されればいい」といった考え方も出ているという。
こうした動きのなかEUでは(1)大手資本に対抗するため結集力を強めて価格交渉力を高める伝統的な「対抗力的協同組合モデル」、(2)企業と同じような意思決定の仕組み、資本調達、販売手法を持つ「企業家的協同モデル」の2つを提示し、EUは将来は(2)のモデルへと進むことを推奨していることを紹介。その背景には米国の信用協同組合で広がる「株式会社を設立し、自身は持ち株協同組合化する」新世代農協の動きがあることも指摘した。 ◆地域の協同活動の受け皿となる農協づくりを
石田教授はJAを取り巻く環境について、一部の「担い手」への支援へ転換する農政とは、行政が農業振興の場から退場することだと指摘し、一方、地域では非農業者が増える状況のなか、「30万、40万の担い手を支援する農協ではなく1000万人を組合員とするような大きな協同組合として地域の協同活動の受け皿となることめざすべき」と提言した。
そのためには「組合員の自助的連帯による安全網の構築」の視点から▽農地の賃貸借を通した担い手と地権者の連帯、▽ファーマーズマーケットなどを核にした農業者と消費者の連帯、▽金融、共済、福祉事業による地域住民との連帯、▽都市住民との交流、連帯などが課題となると指摘。それらを実現するには「組合員に利用してもらう、から、利用者こそ組合員」への発想の転換が必要だと強調した。
たとえば、ファーマーズ・マーケット、高齢者福祉事業などを「利用」する地域住民、毎年、定期的に農村を訪れ農業体験し交流する都市住民なども組合員(准組合員)にする。「広範な利用者が組合員となり、その願いとニーズをかなえる事業体」へJAは転換をはかるべきだとした。
そのうえでJAは、そうした組合員の連帯による活動組織の法人化の支援や、組合員による支店業務の受託、配送業務の受託など、組合員の協同活動が具体的なビジネスとなるといった「組合員であるメリット」を作ることが不可欠で、それは「行政に頼らないセーフティネットの構築」につながるという。
そして、このような組合員の活動がベースになれば、JAの組織、事業像は利用事業や経済事業の子会社化のほか、既存の形態の事業運営が困難であれば、たとえば連合会の支援、連携、連合会譲渡などの道もあり、「運営原則が協同組合であれば」多様な形態で組織、事業の改革を考えるべきだと提言した。
JAの存在意義を高めるチャンス
そのほか講演では個配を主力に業績を伸ばしているパルシステム生協連の若森資朗専務が生協の構造改革の課題について話した。若森専務は生産者も消費者もともに「生活者」としての協同をつくることが重要だと強調。そのため産直の強化によって産地とともに独自商品を開発することが、組合員の支持を得ると同時に、日本の農業を発展させることにつながることなどを話した。
総会への参加者はJAのトップ層など中心に約120名。参加者とのディスカッションでは、JAの一部事業を連合会に委譲するなど多様な形態を考えるべきとの提言に「経済事業があるから信用事業も成り立っている。たとえば信用事業への経済事業の寄与率を考慮する議論も重要ではないか」、「経済事業で組合員の信頼があるから信用事業もある」といった指摘もあった。
一方、市場競争のなかで他業態との「イコールフッティング」も求められていることなどから、事業ごとの損益を明確にして、事業形態を考える必要があるとの議論も出た。
石田教授は誤解に基づくJA批判は問題だとしても「今後は外部に対しては同じベースに立った事業が求められる」とも指摘。また、田中専務は「一人一票の協同組合原則は基本。ただ、EUの動きが示しているのはこれまでのような“対抗力的協同組合”の形態だけでやっていけるかが問われているのだと思う」と補足した。
福間理事長は「形態論をこえて実際に事業をどう展開するが問われている」と指摘した。JAの存在意義を高める組織、事業のあり方に向けて議論がさらに深まることが期待される。
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