農水省は全国的に問題となっている農作物等の鳥獣被害防止に向けて、今年度から「鳥獣害防止広域対策事業」をスタートさせた。
今年度は全国で9地区で事業を予定しており、すでに中国地方(島根県邑南町、広島県北広島市)と土予県境(高知県四万十市、愛媛県松野町)で事業着手した。事業は県や市町村等の対策協議会を中心に、侵入防止柵等の設置、※GIS(地理情報システム)を活用した鳥獣出没等のマップおよび土地利用マップの作成などを行い、広域的に異動するサル、イノシシ、シカなどの被害対策を実施する。
平成16年度の野生鳥獣による農作物被害は、面積13万9000ヘクタール、被害金額では206億円(出荷額ベース)に上る。約6割が獣類による被害で、特にサル、イノシシ、シカによる被害が獣類被害の約9割を占める。主に水稲、果樹、野菜が被害に遭っており、全国的に拡大傾向にある。被害拡大の要因として考えられるのは、▽天然林の人工林化による生息域の変化、▽過疎化や高齢化の進展による里山等の人間活動の低下と耕作放棄地の増大、▽狩猟者の減少や高齢化に伴う狩猟による捕獲圧の低下、▽少雪傾向により生息適地の拡大と栄養状態の好転等による繁殖率の向上などが考えられる。
担当の農水省生産局農産振興課は、「鳥獣害防止広域対策事業は、群をつくって広域的に移動するシカやサルなどを群単位で補足し、適正な数を認識することなどが狙い。駆除するだけでは群を他の地区に追いやるだけで、被害としては減ることはない。野生鳥獣と我々の生活との接点を無くすことが大切だ」と語る。
また、6月には(財)森林総合研究所が、▽耕作放棄地の整備など里地の環境管理、▽電気柵の開発など感覚や行動の特徴を利用して被害を防ぐ、などを盛り込んだ「ニホンザルによる被害を防ぐ」新たな対策に向けたパンフレットを作成し、被害防止を呼びかけている。
過疎化・高齢化が進み、耕作放棄地も増え鳥獣被害の増大が予想されるなか、広域対策事業により鳥獣被害の“実態把握”が行われ、本格的な被害防止対策が実施されることを期待したい。
※複数の地図や位置情報を組み合わせて解析し、理解しやすい地図や画像として提供するコンピューターシステム。
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