農業協同組合新聞 JACOM
   
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安全確保の「システム」と「実態」は別
−米国の食肉検査体制を米国人弁護士が報告 (11/11)


◆権限弱い検査官

フェリシア・ネスターさん
フェリシア・ネスターさん

 米国で行政実態を調査する「政府責任調査プロジェクト」(GAP)の食品安全部門に関わった弁護士のフェリシア・ネスターさんが来日、11月11日に全国食健連が主催したBSEフォーラムで同国の食肉処理工場の問題点などを報告した。
 ネスターさんは95年から04年まで調査主任として、食肉検査官からの内部告発の聞き取り調査を行った。安全を損なうような実態証言をレポートにまとめ農務省や農務省監察局(OIG)に調査や改善を勧告してきた。今年2月のOIG報告書にはその一部が取り上げられている。また、重要な内容が聞き取れた場合は連邦議会の関係委員会で告発者に証言してもらう活動もしてきた。
 その活動をもとにネスターさんは「日本のみなさんの期待と現状は大きくかけ離れている」と切りだした。
 米国のBSE対策の考え方は、発生状況を一部でサーベイランスし、食肉の安全は30か月齢以上の特定危険部位(SRM)除去のみで確保できるというもの。食肉に回される牛のBSE検査は実施していない。
 したがってと畜前の月齢判断は不可欠だが、聞き取り調査したところ「と畜検査官に月齢判断の権限はなく、食肉企業の検査官の仕事」という実態が浮かび上がったという。月齢判別に疑わしい事例があるときは、獣医師など書類チェックを担当する検査官(オフライン検査官)に現場に来てもらい確認する必要がある。しかし、オフライン検査官がと畜検査官の要請だけで現場へ行けることはなく、あくまで企業側のマネージャーなどの許可がなければ動けないのが実態だという。
 かりに現場に行くことが許可されたとしても、処理頭数は1時間に395頭(9秒で1頭)という例もあるほど大規模工場のスピードは上がっており、月齢など疑わしいものが見つかっても「現場についたときすでにどこに行ってしまったか分からない」。
 違反事例が確認されてもそのまま報告書が提出されると業務停止にもなりかねないため、企業の改善計画も添付した形での報告書提出でなければ企業が認めない。
 米産牛肉の輸入再開にあたって日本向け輸出認定施設の現地調査報告書が公表され、そこでは違反事例と「改善」の数が同一となっているが、ネスターさんは「ノンコンプライアンスレポート(違反事例報告)は改善計画とセットで提出されているため数が一致するのは当然」と種明かしし、実際に改善されたかどうかではないことを指摘した。また、効率を追求するため違反を何度も繰り返した場合のみ報告をすることが現場で了承されているという内部告発もあったという。
 検査官は担当の食肉処理工場に1日1回は顔を出す決まりになっているが、検査官不足で20か所以上も担当工場がある例や、100Km以上離れた工場へ移動しながら「パトロール」するなどの例もある。

  ◆HACCPに問題

 こうした問題を招いた原因としてネスターさんはHACCP(危害分析重要度管理点、ハサップ)導入をあげた。
 米国では97年に全面的に導入。HACCP管理計画を政府に提出するが、チェックポイントとその数は企業が決める。国の検査官は指定された場所で検査するだけで、しかもすでに触れたようにたとえば月齢判断は実質的にできないなど権限は弱まった。では、企業側の検査担当者が月齢判断できるかとえば「そのための研修を受けなければならないという国の規定はない」。
 現場の検査官の間ではHACCPのことを「Have A Cup of Coffee and Pray」(コーヒーでも飲んで運を天に任せる)制度だと皮肉っているという。
 もちろんすべてが問題ではなく企業の担当者にもしっかりした品質管理マネジャーもいる。しかし、ラインを止めて点検しようとしても、ラインの停止権限は量産を目的とする生産管理マネージャーにあり「彼のボーナスは出来高で決まる」。
 米国産牛肉の輸出証明プログラムは日本向けを含めて12か国ある。認可されている月齢、特定危険部位の範囲など基準が違う。一方、米国の大規模な輸出用食肉工場では英語を話せない移民労働者も多く、また、企業が輸出基準を理解できるよう教育にコストをかけることをネスターさんは疑問視した。
 また、消費者の関心は、BSE問題よりも全米で多いときには一日100件も発生するというO157による食中毒にあるという。若くして家族をヤコブ病で亡くした遺族会がBSEによる変異型ヤコブ病(vCJD)の調査を求めるよう動き出すなど関心は高まりつつあるが、ヤコブ病そのものが米国では法定伝染病に指定されていないため医師に通報義務はない。
 食肉の安全確保から健康までネスターさんは米国の抱える構造的な問題を強調、「日本の市民の要求は米国政府への圧力になっている。月齢制限の撤廃要求などの圧力に屈しないで」と話した。

(2006.11.17)



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