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コウノトリの郷から環境保全の取組み学ぶ
−田んぼの生きもの調査プロ (11/26)


豊岡市の取組みを語る(公開座談会)
豊岡市の取組みを語る(公開座談会)

 JA全農、パルシステム生協連、生活クラブ事業連合、農村環境整備センターなどで構成する「田んぼの生きもの調査プロジェクト」主催で11月26日、『第3回田んぼの生きもの調査全国シンポジウム』がJAホールで開催された。同プロジェクトは、生産者団体、消費者団体、環境NPOなどが協力して田んぼの虫や植物を調べ、人と生きものに優しい農業への支援、環境保全型農業のための営農指導や農業への理解を深め食と農の距離を縮めることなどを目的に活動している。
 今回から後援することになった農水省の山田修路農村振興局長は、「来年度から実施する〈農地・水・環境保全向上対策〉は視点を農村環境に置き、農業政策ではなく地域対策、農家だけでなく地域ぐるみの対策、と位置づけ、生産者だけでなく都市住民なども一緒になって環境を守っていく取組みだ」と述べ、田んぼの生き物調査が環境保全向上対策に沿った活動で、農水省はこれからも支援していくと挨拶した。

◆環境を整備し、地域経済の活性化を進める

 中貝宗治兵庫県豊岡市長は、コウノトリとの共生をめざす市の環境への取組みを報告。昭和30年代には日常普通に見られたコウノトリが、餌となる田んぼの生き物などが農薬等の影響でいなくなり、その数を減らしてきた。その後、官民一体で保護に取組み、1989年に人工飼育により初めてのヒナが誕生、現在では110羽を超えるコウノトリが飼育され、放鳥により野生化への取組みも行われている。
 「市はコウノトリをシンボルに環境に配慮したまちづくり宣言し、里山整備、環境創造型農業などを進め、コウノトリも住める豊かな環境づくりを行っている。コウノトリの住む街として全国的に有名になり、豊岡に人が来るようになった。環境保全に取組むことで、経済の活性化にもつながっている」と、環境整備と地域経済の活性化は同時に進めることができることを力説。しかし、「環境を守る取組みは産地だけでは行えず、消費者に産地を支えてもらうことが必要で、消費者と連携して環境保全を進めていきたい」、とも語った。

◆豊かさとは人と生きものが地域で共生できること

 鷲谷いずみ東京大学大学院農学生命科学研究科教授の司会による、公開座談会「コウノトリと豊岡の農業を語る」では、コウノトリが住める環境づくりの現場から、佐竹節夫豊岡市コウノトリ共生課長が「有機農業をしている人を集めて環境保全型農業に関する勉強会を始めたことが、環境への関心の始まりだった」。その後、「平成7年にアイガモ農法で稲づくりをする人が出てきたのが、コウノトリと共生する農業に取組むきっかけとなった」と手探りで環境に配慮した農業への取組みを進めてきたと語った。
 農薬7.5割減、栽培期間中は化学肥料を使わず、コウノトリとの共生のシンボルとして栽培する〈コウノトリの郷米〉について、JAたじま営農生産部米穀課の堀田和則氏は、「売れる見込みのない米を扱っていいのかという声が、昨年9月に初めての放鳥が行われるまでは、JA内でもあった」と、最初から理解されていたのではなく、取組みを進めるなかで徐々に理解されるようになったと語った。また、生産者の立場から畷悦喜氏は、「生きものとの共生は必要だがそれだけでは不十分。生産者が取組めるような経済的メリットが必要」だと、環境保全型農業でも経営的にも成り立つ農業をめざすことが必要と語った。
 NPO法人田んぼ代表の岩淵成紀氏は、「地域の豊かさとは、人とすべての生きものが同じ環境の中で共生できることではないか」と、豊岡市の取組みを評価。また、NPO法人民間稲作研究所理事長稲葉光圀氏は、「生きものと共生する農業という理念はすばらしいが、技術的には難しい。特に苗づくり、水管理が問題になる。JAをはじめとした関係者の努力で、しっかりした苗づくり、水管理が行われている」と、栽培技術の高さは関係者が協力して作り上げたものだと評価した。
 会場からは「環境保全型農業に取組む場合、地域の盛り上がりをどのように作っていったか」との質問があり、「核となる人をつくることや仲間づくりが大切」と、豊岡市の経験を例に、日ごろから地域の中でなんでも言い合える人間関係を作っておくことの必要性が強調された。

(2006.11.29)



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