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日豪EPA、交渉開始へ −農業分野には政府一体で対処


日本とオーストラリアの経済連携協定(EPA)・自由貿易協定(FTA)に関する両国政府間の共同研究報告書がまとまったことを受け、政府は12月5日、関係閣僚間で意見交換し交渉入りする方針を確認した。
 報告書では、交渉開始にあたっては「あらゆる品目と課題が取り上げられる」とされる一方、最終段階で「除外」、「再協議」を含めて「すべての柔軟性の選択肢が用いられる」という文言に合意した。松岡利勝農相はその点について「国内の農業者の心配、懸念が払拭できるような交渉の前提となる枠組みはしっかり作った」と会見で話し、また、塩崎恭久官房長官も「農業のセンシティビティについては確認した」と述べ、交渉の結果、関税撤廃などで日本の農業・農村に打撃がないよう政府一体で対処するとしている。しかし、交渉入りすれば農産物のさらなる自由化を豪州から求めれるとみられ政府の対応を厳しく注視していくことが求められている。


◆「例外」明確化は今後も課題

日豪EPA交渉対策全国代表者集会

 JAグループは1日に東京で日豪EPA交渉対策全国代表者集会を開き、交渉入りに反対する緊急要請を行った。(写真)
 宮田JA全中会長は「豪州はWTO交渉でケアンズ・グループの急先鋒。米国とのFTAでも砂糖のみ例外で牛肉でも一定期間後の関税撤廃を勝ち取っている強硬な国」と強調、日豪EPA交渉で関税撤廃などの事態になれば農業はもちろん「関連産業や地域経済に計り知れない打撃を与える」として、重要品目に対する例外措置の確保など具体的な内容が明確になっていないなかでの交渉入りには「断固反対」であると訴えた。
 豪州は締結しているFTAでほとんど例外なくすべての品目で関税撤廃を実現している。宮田会長が指摘したように、米国の砂糖だけが唯一の例外である。
 豪州から日本への輸入額のうち3割近くが農林水産品で、農産物総輸入額では約1割を占め米国、中国についで3番めの対日農産物輸出国である。品目別にみると米、麦、牛肉、乳製品、砂糖などのわが国にとっての重要品目が豪州からの農産物輸入額の半分以上を占めている。
 こうしたことからJAグループの緊急要請では、生産現場で担い手育成や構造改革に努力しているなか、重要品目の関税撤廃が行われれば改革努力が無になると「重要品目の関税撤廃には断固反対」も主張した。

◆麦など4品目で8000億減

 農水省も豪州産農産物の関税が撤廃された場合にどんな影響を受けるか試算を公表している。
 それによると小麦、砂糖、乳製品、牛肉の4品目について品質で豪州産と競合価格は圧倒的に豪州産が安価小麦粉、精製糖など製品関税も撤廃され競合する、などの状況から、国産品は豪州産に置き換わり、その際、4品目計の国内生産は約8000億円減少すると試算した。
 しかも国内生産の縮小によって製粉業、製糖業、乳業など関連産業の経営と雇用にも「甚大な影響」を及ぼすことや、農業が壊滅的な状況になれば、国土・環境保全など多面的機能も発揮されなくなることを指摘した。
 さらにこうした影響が出ないよう関係する生産者の手取りを確保する追加的な支援策には4品目に限っても約4300億円という新たな財政負担が必要だとしている。また、国産原料を利用する関連事業者が製品ベースでの競争に勝ち残れるような施策も必要になる。
 北海道農政部は新たに必要とされる財源が確保されない場合、農家戸数で2万1000戸の減、関連産業、地域経済への影響で4万7000人の雇用喪失など、経済的損失が1兆3700億円にも及ぶ試算を公表している。これは道内GDPの4.2%に相当し、拓銀破綻を上回る打撃となり、酪農・畑作地域の崩壊につながるとしている。

◆WTO交渉との整合性

 農水省は豪州産農産物の関税撤廃をすれば米国、カナダなどの輸出国の反発を招き、かりにそれらの国とも同様の措置をすればさらに大きな影響が出ることも強調している。
 JAグループの緊急要請も「WTO農業交渉に対するわが国の主張に基づいた対応の確保」を訴えた。日本はWTO農業交渉で「多様な農業の共存」の観点から市場アクセスの改善では重要品目の十分な確保と取り扱いを主張している。その点でG10を形成し一致して交渉を続けてきた。ところが日豪EPAで豪州の譲歩をすれば、これまでの主張と整合性が取れないばかりか、「G10諸国を裏切る」ことになる。
 こうしたJAグループなどの要請については自民党農林水産物貿易調査会も「根本的な思いは同じ。農業・農村が破壊されれば国益に反する」(大島理森同調査会長)として政府に例外措置の明確化などを要請していたが、共同報告書に「除外」や「再協議」という文言が盛り込まれたことで一定の条件で交渉入りを容認した。

◆交渉中断も視野に

 その条件として、重要品目が「除外」または「再協議」の対象となるよう政府一体で全力で交渉するWTO交渉方針との整合性を図るとともに米国・カナダ間との農産物貿易に与える影響に十分留意する交渉期限を定めずねばり強く交渉。豪州側が重要品目に十分配慮しない場合は交渉中断も含めて厳しい判断をする交渉中も国際競争力強化に全力を挙げるとともに交渉の帰趨いかんでは国内農業、関連産業、地域経済に及ぼす影響が甚大であることをふまえて対応すること、の4つを決議した。
 交渉開始は安倍総理が13日に開かれる東アジア首脳会議での両国首脳会談で表明すると見られている。塩崎官房長官は5日の会見で関係閣僚会合では「農業のセンシティビティについては、農林水産物貿易調査会の決議をふまえて確認した」と述べ政府一体で対処することを表明した。
 また、松岡農相は共同研究の報告書に「除外」や「再協議」などが盛り込まれたことについて「農業者の懸念が払拭されるような枠組みを作った。これは今までどの国とのEPAをやったときにもない」ことと強調し、重要品目については「全部守るつもりで交渉に入ります」と語った。
 「EPA」といえば経済連携協定を意味するが豪州側がめざしているのはFTA(自由貿易協定)だ。JAグループの集会では「真の国際化とは垣根を取り払うことなのか。お互いの文化、風土を理解していくことが真の国際化ではないか。美しい日本どころか荒廃した日本になってしまう」(北海道・JAこしみず・佐藤正昭組合長)との訴えがあった。まさに農業者・国民は「自民党農政を注視している」(川井田幸一全国農政連会長)。

(2006.12.7)



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