日本農薬(株)(大内脩吉社長、本社:東京都中央区)の『平成19年9月期決算』がこのほど公表された。売上高は、やや緩やかな成長だったが、営業、経常においては同社史上「収益面において、過去最高」(大内社長)の水準に達した。いっぽうで、同社は現在、2009年9月期を「明日に架ける通過駅」としての新中期経営計画、いわゆる『日農ステップ・フォワード・プラン2009』に鋭意邁進している。創立80周年に差し掛かった同社に取材し、「生き残りを賭けた農薬企業のあり方」と「日本農業にどう貢献していこうとしているのか」をまとめた。
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◆収益面で過去最高を記録 自社製品の売上増が貢献
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フェニックス
顆粒水和剤 |
ブイゲット
アドマイヤー粒剤 |
日本農薬(株)が、11月20日に公表した『平成19年9月期決算短信』が、同日午後、デスクに届いた。同社に失礼な話だが「アレ! △の印(売上減、利益減など)が1つも付いていないではないか」が頭の中を走ったものの、筆者には1つの疑問があった。
その疑問とは、海外、医薬品関連は決算に貢献しているものの、主力の基盤である「国内農薬の低迷」と「化学品における減少」(第3四半期業績など)の存在が余韻に残っていたからだ。通期の決算は、この「余韻」を見事に払拭した。
売上高387億円(対前年比5.2%増)、営業利益36億円(同46%増)、経常利益32億円(同56%増)、当期純利益16億円(同72%増)は、今までの経緯を考慮すると(外資系による直販体制の構築・筆者の調査によると、過去に約200億円を日本農薬は奪われたと思われる)立派なものだと言わざるを得ない(グラフ1)。
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同社グループ「化学品事業」の中核となっている農薬事業部門は、国内外ともに自社開発原体および製品を中心とした品目の拡販に注力し、特に海外において顕著なパフォーマンスを見せた。
特筆すべきは、待望の新規自社開発園芸用殺虫剤『フェニックス顆粒水和剤』の農薬登録・上市だった。同社にとっては、「アプロード」に続く待望の大型殺虫剤と目されている。初年度計画の7億円に対して実績は12億円と大幅に計画を上回った。海外ではインド、パキスタン、タイなど5か国で登録取得された(9月30日現在)。
化学品他分野では、外用抗真菌剤「ラノコナゾール」が一般用医薬品として販売され、医療用医薬品の外用抗真菌剤「ルリコナゾール」とともに大きく伸長した。
全体としては、長年にわたる研究開発の結実としての、ノウハウ技術料の契約一時金収入が収益に大きく貢献している。
農薬事業部門の国内外の内訳を見ると、国内農薬販売では「フェニックス」を含む新製品7剤を上市し、既存の「アプロード」などの自社開発品を中心に拡販した。「フェニックス」は、高い選択性からIPMの環境適合型資材に位置づけられ、特にチョウ目(鱗翅目)害虫に高い効果を示す。
原体販売では「フェニックス」、「ブイゲット」、「ハチハチ」などに注力した(グラフ2)。
海外農薬販売では、特にインドでの「アプロード」などの殺虫剤、中国での水稲用殺菌剤「フジワン」などによりアジア地域が成長し、また北米向けも伸長している。円安効果も加わり、全体で大きく成長した。
米国販売子会社であるニチノーアメリカインコーポレーテッドは、果樹用ダニ剤「フジマイト」を中心に拡販に努め、増益に。また、10月には、欧州での展開・強化をはかるため「ニチノー ヨーロッパ」が設立された。着実に海外展開網が充実しつつあるとの印象(グラフ3)。
◆「前進そして飛躍」へ 守りから攻めの経営を
同社は現在、2009年9月期を明日に架ける「通過駅」としての新中期経営計画『日農ステップ・フォワード・プラン2009』の達成に向けて全力投球している。
2009年度の連結売上高412億円、営業利益43億円、経常利益40億円、純利益23億円の確保を目指したもので、1農薬企業として壮大なロマンの実現に向けたチャレンジだ。
「日農ステップ」には、「前進そして飛躍」という副題が付けられている。「事業競争力の強化」と「収益力の拡大継続」を連結させることで、研究開発型リーディング企業を目指し、従来の「守りから攻めの経営に転じて」いく。
初年度にあたる平成19年度は、計画以上の業績を上げることができた。しかし、「激変する市場環境に対応するためにも、これまで以上の事業競争力の強化が必要であり、そのための諸々の施策を着実に推進することで、収益力の量的・質的拡大、さらなる安定化をはかっていくことがもっとも重要」だと大内社長は語る。
2007年には三菱化学への償却を完了、2008年は2009年以降のさらなる飛躍に向けた基盤・足場づくりを充実・強化させる重要な年になるが、「フェニックス」に続く「アクセル」、「コルト」など大型製品は、「さらなる飛躍」を支えるには十分すぎるだろうと思われる。
◆現場のニーズに対応して 「80周年」に向かって走る
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2008年は将来の飛躍に向けた基礎固めの年
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同社は11月17日、創立80周年目に入った。「ありがとうを明日の力に」を前面にアピールしていくが、「当社の80年の歴史は、同時に農薬産業の歴史でもあり、これに感謝するためにも事業競争力を高めながら、今後とも安全性の高い新規剤・技術の開発を通し日本農業に貢献していきたい」と大内社長。
また、日本農業の継続・再生は「JAグループの視線がより現場に近いところに行くことがもっとも大切」とし、そのためにも「農業経営に基盤をおいた機能分担の重要性」を強調し、同社としても「十分に機能を果たしていきたい」とした。
さらに、「古い体質は捨てて行かなければならない。現場のニーズに対応した価値、技術の提供がいっそう重要になってくる」の大内社長の言葉は、極めて印象的だった。 |