3月5日に開催された農水省の第1回国際問題研究会(3月7日既報)では、有識者委員からそれぞれ意見、所感が述べられたが、レスター・ブラウン氏(地球環境問題に取り組む、米ワールド・ウオッチ研究所所長)の「中国の穀物生産が2030年までに20%減少する」との予測や、バイオエタノール生産に穀物が大量に使用されるため、食料としての穀物価格が上昇する、といった一般論などに対し、違った視点も示された。
○大賀圭治委員(日本大学生物資源科学部教授)
アメリカでは「Twenty in Ten」(=20%以上のガソリンを10年以内で削減する)の合い言葉で、第3のエネルギーを創出する農業への期待が寄せられている。エタノール生産についてカーギル社は農民との提携を始めた。
世界の人口の爆発的増加は終わった。先進国はゼロかマイナス、途上国もスピードが落ちて来た。100億人まで増えると言われたが、90億人止まりではないか。1人当たり食料は畜産向けが増加して、飼料用が増えている。しかし、中国の豚肉消費量は世界一に達しており、これ以上伸びず、牛肉の需要もそれほど増えない。ただ、中国の食肉消費量が日本より多いという数字などは、統計的に疑ってみる必要があるのではないか。
今後の食料消費は「健康、医学の視点からたくさん食べることはよくない」として、畜産物消費を抑制する段階に来た。
○柴田明夫委員(丸紅株式会社丸紅研究所所長)
ここ数年の原油価格の高騰で、「安い資源時代」は終わった。背景に人口30億人の地域(BRICs=ブラジル、ロシア、インド、中国)の工業化がある。地球規模の工業化への移行期にあり、世界経済成長が旺盛な資源・食料需要に直結する時代になった。エタノールなどのエネルギー生産と食料市場の価格競争が強まる。資源枯渇の緩和策は緊急の課題で、省エネ・省資源・環境、生産フロンティア(最も効率的な生産性)への挑戦、バイオなどの代替エネルギー・材料の開発など、日本企業の出番になる。
中国、インドの人口爆発・所得爆発による需要増で、一次産品市場でも変化が生じる。シカゴの小麦、トウモロコシ価格の長期トレンドは上昇シフトの公算が大きい。
穀物の貿易数量の拡大、輸送距離の長距離化で、穀物運賃が大幅に上がる可能性がある。
○上林篤幸委員(農林水産政策研究所国際政策部ヨーロッパ研究室長)
世界の人口増加率は減速している。中国では2040年にはマイナス0.1%、2050年にはマイナス0.3%と予測されている(国連)。日本、インド、中国の1人当たり食肉・牛乳消費量(2005年)は、食肉は日本の44kgに対し、中国は53kg、インドは宗教上の理由で3kg。牛乳はインドが最も多く、中国は低い。今後、中国で牛乳の消費が伸びるのではないか。アメリカのトウモロコシ需要の予測は、食用、飼料、輸出用は概ね横ばい、燃料アルコール用は2005年度の4100万tから急速に増加し、2015年度には1億1000万tに到達する(米農務省)。
○鈴木宣弘委員(東京大学大学院農学生命科学研究科教授)
1995年にレスター・ブラウンが『誰が中国を養うのか』を刊行し、中国の畜産物消費の増大が世界的な食料危機をもたらすと論じたが、価格の調整メカニズムと中国の食生活の洋風化が限界に達したと思われることから、疑問だ。今後、仮に国際穀物価格が高騰すれば、中国食料生産の収益性が改善し、生産が増加するだろう。中国の食生活は魚介類のウエートが高い韓国、日本、香港などの「東アジア型」先進国グループに近づいている。世界の食生活がすべて欧米化すると考えるのは早計だ。
|