農水省は平成19年3月から「農水省生物多様性戦略検討会」で戦略の検討を重ねてきたが、7月6日新基本法農政推進本部で農水省としての生物多様性戦略を決定した。今後、生物多様性保全を重視した施策を総合的に展開し、平成20年度予算にも反映させる。
熱帯雨林の急激な減少、種の絶滅、人類存続に不可欠な遺伝資源消失などへの危機感などを背景に、平成4年、ブラジルで開催された地球サミット(国連開発環境会議)で生物全般の保全に関する包括的な枠組みである「生物多様性条約」が採択された。日本は翌年条約を締結し、平成7年に第一次、平成14年に第二次生物多様性国家戦略を策定した。
わが国の生物多様性保全のためには、農林水産業のあり方とその果たす役割が非常に大きい。また、安全で良質な農林水産物を供給する農山漁村の維持・発展のためにも、生物多様性保全は欠かせない。日本の農林水産業は、国土の8割、国土の約12倍の排他的経済水域で展開されている。
しかし、このような大切な自然環境が、不適切な農薬・肥料の使用、経済性や効率性を優先した農地・水路の整備、埋め立てによる藻場、干潟の減少など、生物多様性にマイナスの影響も出ている。また、担い手が減って農林水産業活動が停滞し、身近に見られた種の減少や、鳥獣被害が深刻になったりしているのも事実だ。
これらの影響を見直し、生物多様性保全を重視した農林水産業を強力に進めるための指針として策定したのが、今回の戦略だ。
農水省は、今秋国が策定する第3次生物多様性国家戦略に、この戦略を反映させる。また、平成22年に名古屋市で開催される予定の第10回締約国会議で、農水省の取組みをPRしていくことにしている。
戦略の概要は次のとおり。▽基本的な方針=生物多様性をより重視した農林水産施策の推進。農林水産業を通じた地球環境の保全への貢献。
▽各地域での生物多様性の保全の取組み=田園地域・里地里山の保全。森林の保全。藻場・干潟の保全。
▽遺伝資源の保全=農林水産業にとって有用な遺伝資源の保全。遺伝子組換え農産物等の規制による、わが国の生物多様性の確保。
▽農林水産業の生物多様性指標の開発
(用語解説)
○締約国会議(COP)=地球サミットで採択された条約を締結した国が参加。地球サミットでは、生物多様性条約のほかに、地球温暖化防止策を話し合うことを取り決めた「気候変動枠組条約」が採択された。条約発行後第3回目のCOPが平成9年京都で開催され、具体的削減数値目標を定めた「京都議定書」が採択された。
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