日本協同組合連絡協議会(JJC、委員長:宮田勇JA全中会長)は7月10日、東京・大手町のJAビルで第85回国際協同組合デー記念中央集会を開いた。国際協同組合デーは毎年7月の第1土曜日。協同組合運動の発展と普及を進める記念日として世界各国で記念行事が行われ、国連もこの日を「協同組合の国際デー」と認定している。
今年の中央集会ではイバノ・バルベリーニ国際協同組合同盟(ICA)会長が来日し「企業の社会的責任における協同組合の価値と原則」をテーマに講演した。
バルベリーニ会長はイタリア協同組合連盟会長で68歳。「協同組合の価値と原則は毎日の生活で実践していかなければならない」などと呼びかけた。講演の要旨を紹介する。 |
◆世界の矛盾解決に向けて
|
イバノ・バルベリーニICA会長 |
私たちは大きな矛盾に象徴される時代に生きている。地球はひとつ、という国際性とグローバル化、連帯と競争、貧困との闘いと経済発展、経済と倫理など、これらの矛盾を解決していくのが現代の挑戦課題だ。
ここで協同組合運動に対して、競争社会における存在理由は何かという疑問が湧く。それは現代社会の課題に対して協同組合から競争を分離することが可能かという疑問でもある。
しかし、競争とは語源的には「共に進む」、すなわち協力を意味する。グローバル化とは、どんな手段を使っても勝つこと、相手をねじ伏せることと思われているが、競争と協力はそれほど離れた関係ではない。
実際、国際社会は深刻化する貧困と不平等を維持させることはできず責任あるグローバル化が不可欠となっている。今のようなやり方では破壊をもたらすのみだ。世界の貧困者は10億人。8億人が慢性的な栄養不足にある。発展途上にある122か国では貧困や内戦で年5800万人が死亡している。そのなかで協同組合は組織化を進め人間らしい仕事を作り出す取り組みもしている。われわれはすべての人々のためにグローバル化を再構築しなければならない。
◆責任あるグローバル化
そのために企業も社会的責任(CSR)を果たさなくてならないが、CSRに反対する人もいる。経済学者のM・フリードマンは企業の第一の目的は事業展開する国の法律に従いながら株主への配当を最大化することにある、と言っている。しかし、法律を守るだけでは十分ではない。倫理的に行動することが必要なのである。
多国籍企業は地域に根ざした活動はほとんどなく、文化的同一性を基礎とした開発を行い、地域社会への責任を回避している。一方、協同組合は地域に根ざした活動であり、多様性を尊重し、事業活動のノウハウを教育するなど他の人を助ける事業を行っている。最終的な目的は協同と連帯に基づく生活水準の向上だ。
責任あるグローバル化とは地球に対して長期的な責任を担い、人権を尊重し環境に安全で、人間らしい雇用の創出と平和の維持をリンクさせること。
このような課題に対して協同組合が競争力を持つことは大事なことである。なぜなら国際競争とは、経済、文化、価値の戦いだからである。
協同組合はそのために自らのアイデンティティを維持し、先進的なビジョンを持った事業体であることと同時に、優れた経営実績を達成することが求められる。文化、価値の実現を実証しなければならないからだ。それは「ビジネスはビジネス」という主流を克服することでもある。
企業活動と社会的課題の融合を実現させること、この企業文化が協同組合の決定的な資源であり、その欠如は協同組合の価値と原則を放棄することになる。
◆「革新」とは「運動」
われわれの行動に必要なのは明確な戦略的計画と優位な価値と文化、そして消費者ニーズ、夢をかなえる対応だ。経済、環境、社会的責任という3つの評価は協同組合事業の真価が問われる決定的瞬間である。
現在のグローバル化は人々にアイデンティティ・クライシスに陥る条件を作り出すが、しかし、協同組合の新しいパラダイムも可能にする条件も作り出す。
話の最初に競争世界における協同組合の存在理由への疑問を呈示したが答えは、世界にはさまざま矛盾が存在するが協同組合の存在と行動がなくてはこれらの矛盾に対応することができない、である。
したがって、今日の世界には協同組合運動を発展させる大きな機会が存在しているといえる。ただし、一旦、獲得したシステムで対応すればいいというものではない。発展の機会は新しい市場から生まれる。昔を懐かしんでいるのではなく現状にあった新しいものを訴えていく必要がある。
協同組合にとって革新(イノベーション)は不可欠であり、「運動」とは革新を意味する。変わることを恐れてはならない。
価値と競争戦略の両立をあきらめず、価値観が新しい感動を伝えられるように努力する。「価値」を協同組合の真のリーダーと見なし、組合員と社会にとってその有用性を高めなければならない。
協同組合は先進国、開発途上国双方にとって現代の諸問題に対する最適な事業形態。未来に対する希望なのである。
|