農水・環境両省は7月30日、東京・千代田区の科学技術館サイエンスホールで「田んぼの生きもの調査・わくわくシンポジウム」を開催した。両省が共同で平成13年度から実施している「田んぼの生きもの調査」の今後のいっそうの広がりをめざし開催したもので、調査の実施団体や学校、関心を寄せる一般の人ら約400名が参加した。
主催者を代表し、伊藤健一農水省関東農政局長が「田んぼは稲作のみでなくさまざまな生物の活動の場でもある。生態系の維持が難しくなっており、放置すれば貴重な生態系が無くなる。2000年の歴史のなかで作られて来た農地、農業用水という地域資源を次の世代にどう引き継いで行くかが大きな課題」と挨拶した。
農水省農村振興局の田中秀明氏、(財)自然環境研究センター理事長の多紀保彦氏がこれまでの調査の経過と成果についてコメントした。6年間の調査に、全国の小学生や地域住民が延べ2173団体、2万人以上が参加。魚は日本の全種の約4割124種、カエルは全種の約半分の19種の実物を確認したことなどが報告された。
基調講演は「季節が育てる子供たち」のテーマで浜本奈鼓NPO法人くすの木自然館専務理事が、生きもの大好きだった自身の少女時代の体験から、「自然の生きものを観察し触れ合うことが、生きものや環境への理解をはぐくみ、『人間も田んぼの生きものの仲間だ』と意識するようになる」と話した。
調査にたずさわった2団体、2小学校が事例発表し、それぞれ「体験を通じて生きものの大切さや田んぼの役割を知った」と報告した。 千葉県富里市立根木名(ねこな)小学校の5年生10名と担当教師は、周辺に生物の豊富な谷津田が多く、「水質と生物の生息」をテーマに観察を続けた体験をリレー方式で報告した。
埼玉県熊谷市立江南(こうなん)小学校の4年生4名と担当教師は、市のホタル条例で改修された河川に、卵からかえしたホタルを移住させた体験や田んぼでの観察体験などを報告した。
しめくくりに「田圃の生きものとともに暮らす」のテーマでパネル・ディスカッションがおこなわれた。コーディネーターは合瀬(おおせ)宏毅NHK解説委員、パネリストは梅里之朗富里市立根木名小学校教諭、名倉光子NPO法人とうもんの会主宰(兼農家)、浜本奈鼓NPO法人くすの木自然館専務理事、多紀保彦(財)自然環境研究センター理事長、中條康朗農水省農村振興局長の各氏。
梅里氏は「子供のうちに自然に触れると心に”感情タグ”がくっついて、環境や人にやさしい大人に成長する」と話した。中條氏は「農地、水路などの開発は何百年もの歴史を持つ。稀少生物も発見されている。調査を通じて自然を精査して行きたい」と今後の継続調査に期待を寄せた。
コーディネーターの合瀬氏は、「この調査のいいところは『自然と向き合う』こと。現代人は観察がへただが、向き合うことで、地域、社会のこともよく見えて来るのではないか。子供達がこの調査を長く続けて行って欲しい」と結んだ。
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