農林中央金庫は創立80周年を機に平成17年に「公益信託・農林中金80周年森林再生基金」を設定し、森林保護・保全を通じた社会貢献活動に取り組んでいる。
森林には地球温暖化防止など多面的機能の発揮が一層求められるようになっているが、国内の森林では荒廃が進んでいることから、民有林を再生する事業・活動に対して助成しようというのが同基金の目的。信託財産は10億円で期間は10年程度、1年当たり1億円程度を助成することにした。民有林再生に向けた優れたアイデアや取り組みを森林組合やその他非営利団体に実践してもらい、そのアイデアを広めていくことを狙いとしている。
第1回助成事業は18年度から実施され全国から91団体の応募があった。応募団体には書面による一次審査、現地調査の二次審査が行われ、雄勝広域森林組合(秋田県)、加子母森林組合(岐阜県)、三次地方森林組合(広島県)、新居森林組合(愛媛県)の4森林組合が選定された。
農林中金ではこれらの組合に助成するだけでなく、民有林再生に向けた事業実施に際しては、森林生態学や森林施業などの専門家を派遣して、より高いレベルで事業が達成できるよう「フォローアップ事業」も実施している。
8月29日にはフォローアップ事業の最後の取りまとめとして、第1回事業完了発表会が東京・大手町のJAビルで行われた(写真)。
◆ITで森林資源を管理
雄勝広域森林組合は「雄湯郷森林境界再現保存事業」に取り組んだ。
管内の森林には集落単位の入会地が存在しているが、高齢化で森林境界を知る人も少なくなってきたことから、GPS(人工衛星で現在を把握するシステム)を活用して立木所有者ごとの境界を確定する事業を実施。また、GPSで得たデータをGIS(地理情報システム)に取り込み半永久的な保存と管理を実現した。
調査には森林所有者の若い後継者も立ち会い、「消えかけていた記憶が記録された」だけでなく「継承」も行われたという。事業をきっかけに森林組合に管理等を委託する計画も動きだし、組合では作業員の育成も図るなど、森林組合としての新たな方向も見えてきたことなどが報告された。
加子母森林組合は山林1枚ごとに林齢の違った木が配置され、所有者に30年ごとに収入が見込める「各筆複層林」づくりをめざしている。
そのために長期施業受委託契約の推進に取り組んでいるが、助成事業では森林の施業履歴を森林簿に加えるなどのデータ整備事業や、林内路網の整備と維持管理の実施などを行った。
林道の整備にはフォローアップ事業のアドバイスを受け先進地を参考にコストダウンを実現、また、森林データの整備によって森林の状況を所有者に的確に呈示することが可能になったなどの報告があった。
三次地方森林組合は森林組合型「森林経営信託モデル事業」を実施した。不在村組合員と森林組合が経営信託契約を結び、荒廃が進みつつある森林を再生させるともに、利益を所有者に配当できるビジネスモデル構築をめざしている。
組合員に代わって森林経営を行っていくという手法のひとつで、信託制度としては全国でもわずかな事例しかないが、森林所有者には経営意欲はすでになく財産管理のみを求めるニーズは高いという。森林組合として事業収支が合う事業計画づくりの課題なども報告された。
新居森林組合も長期施業契約を結ぶことで大面積団地を形成して、組合が責任を持って森林整備を推進する事業に取り組んでいる。今回の助成事業では、GPS、GISを使った林業情報整備や資源調査、作業道の開設、直販流通システムの確立などに取り組んだ。
これまでの取り組みで、「林業情報を整備し、所有者で合意形成」長期施業契約を結んで森林資源情報をもとに施業プランを呈示する、という高能率協業化施業システム構築の可能性が示された。組合員林家のニーズを正しく把握することや要求を先取りした提案や業務実行など森林組合の今後の課題なども報告された。
◆林業こそ知識集約産業
報告会ではフォローアップ事業に関わった専門家から各組合の事業についてのコメントもあった。
指摘されたのは、日本の林業が変わり目にあり、それは森を育てる時期から、伐採して販売できる時期になっているという点。組合員との徹底した話合いで森林組合が長期施業委託を契約するなど、地域全体を視野に森林管理し、地域から富を生み出していくことの大切さが強調された。
その際、森林への関心の高まりを背景に直売ルートの開拓など川下に軸足を置いた事業展開も重要になるとの意見もあった。
また、GPS、GISによる森林資源の管理によって、ニーズにあった計画的な販売と資源育成を考えることができるようになっているなど、最新の技術を導入したこうした取り組みは「林業は実は知識集約的な産業」であり、「面白い産業」として今後の森林組合の事業に期待されていることも強調された。
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