農水省は20年度予算で中山間地域直接支払い制度の拡充をめざしている。
拡充内容の目玉は「限界的集落等支援加算」の創設。 中山間地域直接支払い制度では、協定を結んだ集落・個人の水路・農道の保全活動などに交付金が支払われ、これまで耕作放棄地の発生防止のほか、伝統行事の維持など集落機能の活性化にも成果を上げていると評価されている。
しかし、高齢化率が高く人口も減少しているいわゆる限界集落とされる中山間地域では、集落協定の締結による農地、農道の保全活動なども困難な地域がある。こうした集落であっても、農業生産活動による多面的機能の発揮は求められている。
そこで20年度の概算要求では、集落(個人も含む)協定を結んで同制度に取り組んでいる集落が、高齢化などで維持・存続が危ぶまれる集落を支援するために、その集落の人々に代わって農道、水路、法面などの管理を実施する場合に、支援加算を組み入れることにした。
具体的な要件は今後検討していくが、農業生産基盤を維持する最低限の活動となる見込みで、近隣の集落がその活動を行うことで、限界集落をサポートし厳しい条件不利地の農地を守るという集落間の連携を支援する事業とする。
そのほか、地すべり防止区域など災害発生の危険性が高い地域で、農用地防災マップの作成やほ場、農道、水路の定期点検など、災害を未然に防止するための取り組みや、防災意識向上の取り組みなどについても「災害防止加算」を創設することも概算要求に盛り込んだ。また、中山間地域での耕作放棄地の多くが1ha未満の農地でスプロール的に発生していることから、交付対象となる農用地の団地要件を見直し、飛び地的な農地も交付対象となるよう工夫することで、耕作放棄地発生防止につなげる方針も示している。
これらの拡充内容については9月14日の中山間地域等総合対策検討会で説明された。
委員からは限界集落支援の仕組みについて「中山間地域直接支払い制度の本来あるべき方向だ」、「農道の維持など集落だけで担えない地域は多いが、多面的機能の発揮に社会的に存続させていくことは望ましい」と支援策への期待が相次いだ。ただ、「限界集落」という言葉に集落自体が抵抗感を持つという指摘もあり今後の検討課題とされた。
中山間地域直接支払い制度の19年度予算額は218億円。拡充措置を盛り込んだ20年度概算要求では231億円と13億円の増額となっている。
農水省は拡充措置の交付要件について、10月以降、同検討会で議論するなど具体化を進める方針だ。
◆集落協定の自己点検実施へ
中山間地域等直接支払い制度では、交付金の評価について中間年評価と最終評価を行うことになっており、17年度からの第2期対策は20年6月までに中間年評価を行う。
評価は市町村、都道府県、国の3段階で実施されるが、農水省は市町村段階の評価のベースとして集落段階での自己評価を実施することにした。
集落協定・個別協定を合わせ同制度で締結されている協定数は約2万8000で、その代表者らが協定の達成度などを自己評価する。
集落マスタープランで決めた事項のほか、耕作放棄地防止活動や水路・農道の管理、多面的機能増進活動など農業生産活動として取り組むべき事項を評価の必須事項とするほか、規模拡大や土地利用調整などの加算措置部分が協定内容となっている場合には、それらの事項についても評価する。
自己評価の方法は21年度までの達成目標の5割を目安に19年度までの状況を3段階で評価。また、21年度までの見通しも3段階で評価する。
自己評価の目的は、代表者が自己点検することで、集落協定の内容の見直しや改善につなげたり、集落の将来像実現に向けた取り組みの強化をめざすもの。
同制度を活用し協定を結んだ集落自身が自らの取り組みを一斉に自己点検することはこれまでにない取り組みで、中山間集落の現状や課題が示される点でも注目される。
また、同省は合わせて同制度に対する現場の評価を聞くためにアンケート調査も実施することにしている。
今年12月までに集落段階の評価をもとにした市町村段階の評価を行い、来年3月末までに都道府県段階、6月に国段階の評価をまとめる。
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