JA全中と(社)家の光協会は9月18、19日に東京・大手町のJAビルで「JA食農教育全国研究集会」を開いた。昨年10月の第24回JA全国大会決議ではすべてのJAが「JA食農教育プラン」の策定・実践することを決めた。プラン策定の狙いは、地域で食農教育を実践していくうえで、JAの組織的な取り組みとして位置づけJA事業全体で支える体制づくりにある。研究集会では「地域が一体となったJA食農教育活動」をテーマに事例報告やパネルディスカッションで議論を深めた。
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◆食農教育による地域貢献
JA食農教育をテーマにした全国研究集会は、13年から(社)家の光協会が開催してきたが、JA全国大会決議を受けて今年度からJA全中との共催となった。 全中の前澤正一常務は食農教育が求められている背景として世界の食料事情を挙げた。地球温暖化によって不安定になる農業生産や、バイオエタノールブームによる穀物価格高騰など食料の争奪戦ともいえる状況のなか「自分たちの食は自分で確保するが出発点。日本型食生活を基本に、子どものころから食生活の大切さを理解させる体験型の食農教育が大切だ」などと指摘した。
そのためにJA役職員が主体的に取り組み地域住民に参加を呼びかけることが求められているなど、地域で一体となった活動の重要性を強調した。
また、(社)家の光協会の柳楽節雄専務は食と農の大切さを訴えることは地域貢献と「JAのファンづくり」にもつながることだと指摘し食農教育は「JAグループの力を発揮する機会。日本の食料を担っていることを広くアピールすることになる」などと語った。
事例報告はJA佐久浅間(長野)のちゃぐりんスクールの実践、JAすかがわ岩瀬(福島)のファーマーズマーケット・はたけんぼの取り組み、JAしまんと(高知)の食農教育に対するJAトップの関わりなどが報告された。
◆暮らしの教育運動として
2日目に行われたパネルディスカッションではJA秋田やまもとの役職員や女性部役員が出席し、同JAが実践している「食を軸に地域を巻き込む新たなJA食農教育をテーマに話し合った。
JA秋田やまもとは「食農実践会議」を設置、教育関係行政団体や学校給食、栄養士など幅広い構成員で地域ぐるみの活動を展開している。また、女性で構成する生活創造運動会議も設置し、食と農を考える場とした。
活動のひとつが学校給食での地産地消の実践。発端は女性部が自分たちの利益につながる野菜づくりを活動の軸に置いたこと。品質に評価が高まり野菜づくりは盛んになったが、それを地元の子どもたちに提供できないかという声に賛同した栄養士らとともに、運動を広げた。
今では米や野菜、味噌など食材の提供だけでなく伝統食を子どもたちに教える活動にまで広がっているという。また、新規就農者に学校給食用の野菜づくりを任せ営農支援をするとともに、若い生産者が自らの声を子どもたちに伝える機会も生まれた。
一方で地域の大人たちも対象にした食農教育の拠点として女性組合員の要望を受けて店舗を設置している。店舗の名前は「JAコンビニ ANN・AN」。JAのコンビニで、安全・安心を名前に込めた。地域の中学生の発案だという。
この店舗では地域の食材を使った加工品や弁当、コメ粉パンなどを販売している。Aコープの廃止後、組合員の発案で生まれた地域のものを地域で消費するための店になった。
パネルディスカッションで強調されたのは、女性部役員や組合員などの食と農への思い、地域での暮らしのなかから出てきた願いから実践が生まれたという点。「食と農を真ん中に置いたら地域とJAがひとつになった」と報告された。
◆食農教育プラン策定を
JAグループではJA食農教育を実践するために食農教育プラン策定を推進している。
JA全中のまとめでは8月末現在で、28の中央会が県版のプランを策定しており、JA段階では23県258JAが策定している。
研究集会で米本雅春JA全中地域生活部長は、食農教育の重要性は社会的に認知され、小学校ではカリキュラムに取り込むなど政策的にも取り組み進むなか、JA事業においても食農教育の位置づけを明確にする必要があることを強調した。
JAをめぐる課題として組合員の高齢化、多様化など指摘されているが、食と農の関係をつなぎJAの事業を結びつけることは、組織基盤の強化やJAへの求心力を高めることになる。
ただ、一部の人材のみでの取り組みでは活動の停滞も招く。そのためプラン策定では一部の有志による活動ではなく、組織の事業としての位置づけることが求めれる。また、地域社会とのネットワーク拡大や広く地域社会に発信する運動にしていく視点が求められる。
JAグループは高齢者生活支援活動と食農教育を地域貢献活動の大きな柱にしている。「JAがあってよかった」といわれるためにもJA食農教育プラン策定が期待されている。
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